アドベンチャーツーリズムは4人で1万ドル|100人必要なマス型との差

観光で地域が豊かになる、という話はしばしば人数の話にすり替わる。入込客数が何万人増えた、宿泊者数が何パーセント伸びた。ところが観光庁が作った資料には、来訪者が4人でも100人分の経済効果に並ぶという試算が載っている。アドベンチャーツーリズムと呼ばれる旅行の形で、人数ではなく一人あたりの落ち方と落ちる場所を設計する考え方だ。

2つ以上そろえば名前がつく

言葉の響きから、断崖を登ったり急流を下ったりする旅を想像するかもしれない。定義はもっと緩い。国際的な業界団体であるAdventure Travel Trade Association(ATTA)は、これを「アクティビティ、自然、文化体験の3要素のうち、2つ以上で構成される旅行」と定めている。観光庁の「アドベンチャーツーリズム ナレッジ集」もこの定義を採り、旅行を通して自己変革や成長が得られることを特徴に挙げている。

3要素の中身は具体的だ。アクティビティにはサイクリング、トレッキング、ラフティング、カヌー、バックカントリースキーが並ぶ。自然は海、川、山、温泉、湖や池。文化体験は風習や生活文化、歴史、農業や水産業といった生業、そして食文化である。この分け方だと、里山を自転車で走って農家で漬物を漬ける半日の行程も、2要素を満たすアドベンチャーツーリズムに入る。特別な設備や急峻な地形がなくても、自然と生業が近い場所なら成立するということになる。資料の想定読者は旅行者ではなく、DMOやDMC、行政関係者、旅行会社、アクティビティ提供事業者で、商品を作る側に向けた手引きとして書かれている。

募集中の地域コンテスト

読んだら、地域に行ってみよう

地域が出したお題に、オンラインでアイデアを応募できます。受賞すると、現地に無料で招待されます。

募集中の地域をすべて見る

4人で1万ドルという試算

この旅行形態が推される理由は、人数と経済効果の関係にある。ナレッジ集は、1万米ドルの経済効果を生み出すために、クルーズなどのマスツーリズムでは100人の来訪が必要だが、アドベンチャーツーリズムでは4人の来訪で達成できるという試算を示している。もうひとつの数字がより重要で、旅行者の消費額のうち地域に残る割合はマスツーリズムで14パーセント、アドベンチャーツーリズムで65パーセント。約4.6倍の差がつく。地域に根差した事業者を使うことを前提に商品を組むため、支払いの大部分が域外の大手に抜けない設計になっているからだ。

市場の規模についても数字が出ている。世界のアドベンチャーツーリズム市場は約72兆円規模で、民間調査会社の予測では2018年の586億米ドルから2026年には1,627億米ドルへ、年率13.6パーセントで伸びる見通しとされていた。ただしこの予測は新型コロナウイルスの影響が出る前の2019年9月時点のもので、観光庁の資料自身が「下記は新型コロナウイルス影響前のデータ」と注記している。経済効果の試算も、出典は一般社団法人日本アドベンチャーツーリズム協議会である。いずれも政府が自ら集計した統計ではなく、政府の資料が引いた民間推計だという前提で扱うべき数字だ。それでも、少人数で地域に残る割合を上げるという方向性は、入込客数を増やす以外の選択肢として明確である。

日本の担い手は小さな事業者

では、国内で誰がこれを扱っているのか。ナレッジ集に収められた事業者アンケートを見ると、回答した76者の属性はコンテンツサプライヤーが32者で42パーセント、国内ランドオペレーターが19者で25パーセント、DMOやDMCが18者で24パーセントと続く。OTAは6者で8パーセント、グローバル旅行会社と海外旅行会社はそれぞれ3者で4パーセントしかない。大手の旅行会社ではなく、現地でツアーを提供している小さな事業者が実体を担っている。

従業員規模の分布がそれを裏づける。1人から10人が30者で39パーセント、11人から50人が27者で36パーセント。合わせて四分の三が50人以下の組織で、301人以上は5者の7パーセントにとどまる。所在地は関東が32者、中部が30者、北海道が26者、近畿が25者、九州・沖縄が21者で、特定の地方に偏らず分散している。言葉の認知度も興味深い。「アドベンチャーツーリズム」という言葉をよく知っていると答えたのは35者で46パーセントある一方、ATTAによる定義までよく知っているのは28者の37パーセントにとどまり、定義を知らないと答えた事業者が19者で25パーセントいた。すでにそれに該当する商品を扱っていながら、自分の仕事がそう呼ばれていることを知らない事業者が四分の一いるという状態である。

商品は数時間と4泊に割れる

ツアーの形も調査に出ている。日帰りと宿泊で分布がはっきり違う。

日帰りツアーの所要時間 事業者数(割合) 宿泊ツアーの所要日数 事業者数(割合)
1時間まで 5(17%) 1泊 8(30%)
1〜2時間 7(24%) 2泊 4(15%)
2〜3時間 7(24%) 3泊 3(11%)
3〜4時間 6(21%) 4泊 9(33%)
4〜5時間 2(7%) 5泊以上 3(11%)
観光庁「アドベンチャーツーリズム ナレッジ集」令和4年3月より、国内事業者が扱う商品の形態

日帰りは1時間から4時間に固まり、5時間を超えるものはほとんどない。宿泊側は1泊と4泊に山がふたつある。半日で終わる体験と、数日かけて土地をめぐる旅という、別の商品が同じ言葉の下に同居していることになる。扱う要素は自然が54者で92パーセント、文化が40者で68パーセント。具体的な内容ではハイキングやウォーキングが22者で37パーセント、手作り体験や料理体験が18者で31パーセント、登山やトレッキングが17者で29パーセント、カヌーやカヤックが15者で25パーセント、サイクリングが14者で24パーセント、収穫体験と街歩きがそれぞれ13者で22パーセントと並ぶ。スキーやスノーボードは2者、乗馬とジップラインは1者ずつしかない。装備や施設への投資が重いものより、歩く、作る、採るといった身体ひとつでできる体験が中心だ。

客は誰で、学生は何を足せるか

顧客の国籍は意外な分布になっている。回答57者のうち、日本人が9割以上を占めるツアーが24者で42パーセント。訪日外国人が過半を占めるツアーでは欧米豪がメインという事業者が18者で32パーセントいる。インバウンド向けの商品という印象が先に立つが、現状の客の多くは日本人だということだ。旅行者のタイプは友人やカップルが47者で80パーセント、ファミリーが40者で68パーセント、一人旅が25者で42パーセント。少人数で来て、同行者と一緒に体験する形が主になる。参加後に旅行者の変化を感じたかという問いには41者が「はい」と答え、その内容は「新しい興味・関心を発見した」が32者で54パーセント、「意識や行動が変化した・しそう」が11者、「自分が成長できた」が10者だった。

学生がこの領域に入るなら、足りていない部分がはっきりしている。担い手の四分の三は50人以下の事業者で、定義を知らない事業者が四分の一ある。つまり、自分たちの商品が国際的にどう位置づけられるかを言語化する作業と、欧米豪の旅行者に届く形で伝える作業が手つかずで残っている。地方のインバウンドがどれだけの金額を動かしているかは地方のインバウンド消費は2兆1,338億円|娯楽4.5%という枠で起業する、農業や農村の体験がどこまで外国人に届いているかは農泊のインバウンドは74.8万人泊|地方部5,873万人泊との距離にまとめた。観光全体のなかでの位置は観光と地方創生をつなぐ数字|26.8兆円と戻らない旅行者数と読み合わせてほしい。FLASPOが各地で行っている学生の提言プロジェクトでも、地元にある体験を外から見た言葉で整理し直す作業が提案の軸になることが多い。

よくある質問

危険なアクティビティがないとアドベンチャーツーリズムになりませんか。なりません。定義はアクティビティ、自然、文化体験のうち2つ以上を含むことだけで、難易度は条件に入っていない。国内事業者の商品では、ハイキングや料理体験、収穫体験のように特別な技術が不要なものが上位に来ている。

地域に残る割合が65パーセントというのは、どの地域でも同じですか。同じではない。この数字は日本アドベンチャーツーリズム協議会の調査を観光庁の資料が引いたもので、地域に根差した事業者を使うことを前提にした値である。宿や交通、ガイドを域外の事業者に発注すれば、残る割合はマスツーリズムに近づく。

72兆円という市場規模は現在の数字でしょうか。いいえ。出典は2019年9月に公表された民間調査会社のレポートで、観光庁の資料も新型コロナウイルスの影響が出る前のデータだと注記している。現在の規模を語る根拠としては使えないため、傾向を示す数字として扱うのが妥当だ。

自分の住む地域に向く商品かどうかは何で判断できますか。3要素のうち自然と文化体験の2つを地元で成立させられるかが最初の分かれ目になる。アンケートでも自然を扱う事業者が92パーセント、文化を扱う事業者が68パーセントで、この組み合わせが実際の中心である。急流や高山がなくても、里山と生業があれば候補に入る。

出典:国土交通省観光庁観光地域振興部観光資源課「アドベンチャーツーリズム ナレッジ集」令和4年3月(PDF)。市場規模と経済効果の試算は同資料が引用する民間推計であり、アンケートは国内事業者を対象とした調査である。観光庁の施策ページはこちら。


アイデアコンテストプラットフォーム「FLASPO」

FLASPO

アイデア1つで、地域や企業とつながれる。

FLASPOは、全国の自治体・企業が開催する若者向けアイデアコンテストのプラットフォームです。
地域や企業が抱える課題に対して、あなたのアイデアで解決策を提案できます。

賞金やユニークな地域体験が獲得できるコンテストも多数。誰でも参加無料・オンライン完結で挑戦できます。

コンテストを探す▶︎

FLASPOで募集中のコンテスト

自治体や企業が出したお題に、学生・若者がオンラインでアイデアを応募できます。募集中のものも、これまでのお題と結果も、一覧で見られます。