農泊のインバウンドは74.8万人泊|地方部5,873万人泊との距離

外国人が農山漁村に泊まった数は、6年で0.9万から74.8万になった

令和3年度、農泊の受け入れ地域に外国人が泊まった数は、全国あわせて0.9万人泊だった。国境が閉じていた年の数字である。それが令和6年度には74.8万人泊になった。農林水産省が令和7年10月に行った「農泊地域における令和6年度実績調査」の結果で、同省の資料農泊の現状に年度別の内訳が載っている。

同じ期間に国内旅行者の宿泊は447.4万人泊から792.7万人泊へ、1.8倍ほど増えた。外国人のほうは83倍である。倍率が極端なのは出発点がほぼゼロだったからで、伸び方の速さをそのまま実力と読むわけにはいかない。それでも、令和元年度の37.6万人泊という水準をすでに2倍近く超えている点は押さえておきたい。コロナ前に戻ったという話ではなく、コロナ前を上回っている。

農林水産省は令和11年度までに農泊地域の延べ宿泊者数を1,200万人泊にする目標を掲げている。令和6年度の実績は867.6万人泊なので、残りは330万人泊あまりである。この差を国内客だけで埋めるのは難しく、令和7年版の食料・農業・農村白書にも、更なる誘客拡大を目指すという書き方で目標と実績が並べられている。

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地域の数と泊数を、同じ表の上で並べてみる

農泊は平成29年度に206地域で始まり、令和6年度には673地域まで増えた。地域が増えれば泊数も増えるので、泊数だけを追うと受け入れ側の増加分と混ざってしまう。両方を並べると、どちらが効いているのかが見えてくる。

年度 農泊地域数 国内(万人泊) インバウンド(万人泊) 合計(万人泊)
平成29年度 206 177.3 12.9 190.3
平成30年度 352 338.2 27.9 366.1
令和元年度 515 551.5 37.6 589.2
令和2年度 554 388.6 1.9 390.6
令和3年度 599 447.4 0.9 448.3
令和4年度 621 595.4 15.4 610.8
令和5年度 656 755.5 38.7 794.2
令和6年度 673 792.7 74.8 867.6

地域数は平成29年度から3.3倍、合計の泊数は4.6倍である。1地域あたりに直すと平成29年度が約0.92万人泊、令和6年度が約1.29万人泊で、受け入れ先が増えただけでなく1地域あたりの集客も上がっている。ただし令和5年度から令和6年度にかけての増加73.4万人泊のうち、36.1万人泊は外国人の増加分だった。国内客の伸びは37.2万人泊で、直近1年の伸びはほぼ半分が外国人によるものである。

農泊の数字と観光全体の数字は、別の調査から出ている

ここで注意が要る。農泊の泊数は農林水産省が農泊地域に聞き取る年度の集計で、全国の宿泊統計は観光庁の「宿泊旅行統計調査」という別の調査から出る暦年の数字である。期間の区切りも集計の方法も違うので、片方を他方で割った比率は厳密な構成比にならない。

それを承知のうえで規模感を見ると、国土交通省が審議会に出した観光の現状に関する資料では、2025年の外国人延べ宿泊者数は17,787万人泊(第2次速報値)だった。前年の16,446万人泊から8.2パーセント増えている。農泊地域で取れた74.8万人泊は、この全国の数字の0.4パーセント相当にすぎない。二つの公表値を割って出した概算で、調査が違う点はそのまま残る。

農泊は国の交付金で地域協議会を作り、体験プログラムと食事メニューを整え、古民家や廃校舎を宿に直してきた。その積み上げが8年で673地域である。それでも外国人の宿泊に占める位置は、まだ小数点以下にある。

地方部には5,873万人泊が落ちている

では外国人は日本のどこに泊まっているのか。同じ国土交通省の資料は、三大都市圏と地方部に分けた内訳を出している。三大都市圏は埼玉・千葉・東京・神奈川・愛知・京都・大阪・兵庫の8都府県で、それ以外が地方部という区分である。

2025年は三大都市圏が11,914万人泊で67.0パーセント、地方部が5,873万人泊で33.0パーセントだった。前年比では三大都市圏が4.9パーセント増、地方部が15.5パーセント増で、地方部のほうが3倍の速さで伸びている。構成比も前年の30.9パーセントから2.1ポイント上がった。2026年1月の単月でも地方部は35パーセントを占めている。

地方へ向かう外国人の流れは、すでに年5,873万人泊という規模で存在している。農泊地域の74.8万人泊は、その流れのうち1.3パーセントに届かない。地方部に来ている人のほとんどは、地方都市のホテルや温泉旅館に泊まって帰っているということになる。農泊が取り込める余地は、この差のなかにある。

1泊13,196円という単価が示す宿題

農林水産省が課題として名指ししているのは、客数ではなく単価である。令和6年度の農泊地域の1泊あたり平均宿泊費は13,196円。観光庁の「旅行・観光消費動向調査」から取った観光全体の平均18,940円に対して、5,744円低い。

差が出る理由は想像しやすい。農家の空き部屋や公共の宿を使った素泊まりに近い形が多く、食事や体験を別料金で積み上げる構造になっていない地域がある。地域にお金を残すという農泊の狙いからすると、人数を倍にするより単価を上げるほうが効く局面に入っている。資料が「農泊の高付加価値化が課題」という言い方を繰り返しているのはそこである。

外国人の宿泊が増えている今は、この単価を上げる好機でもある。長く滞在し、体験に払う意思のある客層が入ってきている。ただし多言語の案内、現金以外の決済、食事の制約への対応といった手当てが先に要る。農泊は地方創生として何を達成したか|794万人泊の次にある宿題で挙げた宿題のうち、単価の問題はまだ残っている。

学生がこの流れに関わるなら、どこに余地があるか

673地域という受け入れ先は、ほとんどが地域協議会という組織で動いている。自治体と観光協会と農家と事業者が寄り集まった形で、専従の職員がいる地域は多くない。外国人対応の手当てが遅れがちなのは、やる気の問題ではなく人手の問題である。

そこに学生が入る口は、意外に具体的だ。英語や中国語での案内文の作成、予約サイトの多言語ページ、体験プログラムの手順書の翻訳、交通手段の案内の整備。いずれも短期で成果が形になり、地域の側に残る。農泊地域の分布は農泊はどの県に多いのか|全国701地域を都道府県別に並べて読むで都道府県別に並べてあるので、通える範囲を探す手がかりになる。滞在しながら働く形を考えるなら農泊で働きながら滞在する|農業ワーケーションの受け入れ673地域の実像もあわせて読める。

地域と学生のつながりをどう作るかという論点はFLASPOでも扱っている。農泊の場合は、受け入れ側が抱えている課題が公的な資料にはっきり書かれている点が珍しい。何を手伝えば喜ばれるかを推測しなくてよい。

よくある質問

農泊と民泊は同じものか。違う。農泊は農林水産省が使う政策上の呼び名で、農山漁村に泊まって地域の食事や体験を楽しむ「農山漁村滞在型旅行」を指す。宿の法的な形は旅館業の簡易宿所であったり農家民宿であったりとさまざまで、住宅宿泊事業法に基づく民泊だけを指す言葉ではない。

令和6年度の74.8万人泊は確定した数字か。令和7年10月に実施された実績調査の結果で、農林水産省の資料と令和7年版の白書の両方に載っている。白書の本文は合計を868万人泊、前年度比を73万人泊増と丸めて書いており、図表6-2-1の値が867.6万人泊とインバウンド74.8万人泊である。本文と図表で桁の丸め方が違うので、引用するときはどちらを使ったか書いたほうがよい。

1,200万人泊の目標は達成できそうか。令和6年度の867.6万人泊から令和11年度までに332.4万人泊を積む計算になる。直近1年の伸びは73.4万人泊で、この勢いが5年続けばほぼ届く。ただし伸びの半分が外国人によるもので、為替や国際線の便数に左右される部分が大きい。

農泊地域の数は673なのか701なのか。どちらも農林水産省の数字で、集計の時点と対象が違う。673地域は令和6年度の実績調査が対象にした地域数、701地域は交付金で採択された累計を都道府県別に並べたときの数である。泊数と割り算をするなら、同じ調査に載っている673を使うほうが筋が通る。

外国人が来ると地域の負担は増えないか。増える。食事の制約への対応、言語、決済、移動手段の案内はいずれも手間である。単価が13,196円のままで人数だけ増えれば、手間に見合わない。順番としては受け入れ体制と価格を整えてから人を呼ぶほうが、地域に残るものが多くなる。


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