地方大学の学園祭は何を担うのか|大学2校の県と132校の東京

大学が132校ある都と、2校しかない県

学園祭の企画書を書く手が止まるのは、たいてい「誰に来てほしいのか」を決める場面である。都内の大学なら答えは学生と近隣住民だが、地方の大学では事情が違う。前提になるのは、大学の数が地域によって極端に偏っているという事実だ。

文部科学省の委託で行われた各都道府県における高等教育の現状に関する調査研究の都道府県別基礎データによると、2023年時点の大学数は東京都が132校(国立10・公立1・私立121)で突出している。大阪府が63校、愛知県が53校と続く一方、島根県は2校(国立1・公立1)、鳥取県は3校(国立1・公立1・私立1)しかない。徳島県は4校、香川県と佐賀県は5校である。

この差は大学の規模にも表れる。同じ資料で学部の入学定員を見ると、鳥取県は鳥取大学が1,140人、公立鳥取環境大学が300人、鳥取看護大学が80人。島根県は島根大学が1,197人、島根県立大学が460人である。県全体の入学定員が、都市部の私立大学1校分にも届かない。学園祭を開く母体の大きさが、最初から違っている。

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県内に残る高校生はどれくらいか

もうひとつ押さえておきたいのが、その県の高校生がどこへ進学しているかである。同じ調査には自県進学率という指標がある。各県の大学進学者のうち、自分の県にある大学へ進んだ者の割合だ。

2023年の値を並べると、愛知県が72.1%、東京都が68.3%、北海道が65.6%、福岡県が65.2%、大阪府が59.7%と高い。対して奈良県は15.0%、鳥取県は15.1%、佐賀県は15.4%、香川県は17.4%にとどまる。鳥取県では県内から1,990人が流出し、県外からの流入は1,224人だった。

都道府県 大学数(2023年) 自県進学率(2023年)
東京都 132校 68.3%
愛知県 53校 72.1%
広島県 21校 52.5%
奈良県 10校 15.0%
鳥取県 3校 15.1%
島根県 2校 19.9%
文部科学省委託「各都道府県における高等教育の現状に関する調査研究 都道府県別基礎データ」(令和6年度)から作成

数字が意味するのは、大学が少ない県では、地元で育った若者の多くが県外へ出ているということだ。残った大学のキャンパスは、その地域に住む人にとって、同世代の学生がまとまっている数少ない場所になる。学園祭の日に門が開くという出来事の重みが、都市部とは違ってくる。

流出入の内訳を見ると構図がさらにはっきりする。2023年の鳥取県は、県外からの流入が1,224人、県内からの流出が1,990人で、差し引き766人の転出超過だった。島根県は流入1,160人に対し流出2,208人で1,048人の超過、奈良県は流入3,280人に対し流出6,581人で3,301人の超過である。18歳人口そのものも鳥取県が5,074人、島根県が5,986人と小さく、東京都の102,330人とは桁が違う。

東京23区は定員を増やせない

この偏りは放置されてきたわけではない。2018年に成立した地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による若者の修学及び就業の促進に関する法律は、第13条で特定地域内の大学等の学部の収容定員を増やしてはならないと定めた。特定地域として政令で指定されたのが東京23区で、特定地域内学部収容定員の抑制等に関する命令が平成30年10月1日に施行されている。

10年間の時限措置で、新しい学部学科の設置も、23区外からのキャンパス移転も、定員が増える形では原則として認められない。例外はスクラップアンドビルドによる設置、留学生や社会人の受入れ、夜間や通信教育の学部学科などに限られ、該当する場合も文部科学大臣への届出が要る。大学院、夜間学部、通信制は規制の対象外とされている。

つまり国は、若者が東京へ集まる流れを入口の定員で止めようとしてきた。その政策の当事者が、地方大学に通っている学生たちである。学園祭が地域からどう見られているかという話は、この政策の文脈と地続きになっている。

地域に開く数少ない行事になる

大学が2校や3校しかない県で、大学が地域に向かって門を開ける機会は多くない。公開講座やオープンキャンパスは対象が限られ、研究の成果発表は内容が専門的になる。誰でも入れて、何の目的がなくても滞在できる行事は、実のところ学園祭くらいしかない。

そのため地方大学の学園祭には、学生以外の来場者が多く混じる。近隣の家族連れ、進学先を見に来た高校生、卒業生、大学と取引のある事業者。自治体が後援に入り、広報誌や防災無線で告知される例もある。企画を学内向けの内輪ネタで固めると、来場者の半分が置き去りになる。

逆に言えば、地域の側の協力を引き出しやすい。会場の駐車場、シャトルバス、地元事業者の出店、消防や警察との調整は、顔の見える関係のなかで進むことが多い。進め方の基本は学園祭の運営方法|実行委員会の立ち上げから届出・当日の体制までに、出店の手続きは学園祭の出店を開くまでに|保健所と消防署への届出と設備の基準にまとめてある。

来場者の層が広いぶん、気をつける点も増える。小さな子どもと高齢者が同じ通路を歩くので、模擬店の火気と人の流れを離す必要がある。車で来る人が多ければ、臨時駐車場の確保と周辺道路への配慮が先に立つ。学生だけで判断せず、大学の事務局と自治体の担当課を早い段階で巻き込んだほうが、当日の負担は軽くなる。

都市部と同じ集客の設計は通らない

来場者を増やしたいとき、都市部の大学祭は駅からの人通りを当てにできる。地方大学のキャンパスは郊外にあることが多く、車で来るか、本数の限られた路線バスに乗るかになる。告知の手段も、学生のSNSだけでは地域の高齢層に届かない。

有効なのは、すでに人が見ている場所に情報を載せることだ。自治体の広報誌、地元紙のイベント欄、コミュニティFM、道の駅や商店の掲示板。いずれも締切が1か月以上前に設定されていることがあるので、企画が固まる前に掲載の申込日だけ押さえておく。

規模の設計も変わる。来場者の分母が小さいぶん、模擬店を増やすより一つの企画を深くしたほうが満足度は上がりやすい。協賛を募る相手も、全国企業の本社より地元の事業者が現実的になる。届け先ごとの手段の選び方は学園祭の集客を設計する|届けたい層ごとに手段を変えるが参考になる。学生が地域と関わった経験を進路につなげる視点はFLASPOでも扱っている。

よくある質問

地方大学の学園祭という区分は公式にあるのですか。制度上の区分ではない。大学数や自県進学率の差から、同じ学園祭でも置かれた条件が違うというだけの話である。自分の大学がどちらに近いかは、所在する県の大学数と入学定員を調べれば見当がつく。

自治体に後援を頼むと何が変わりますか。広報誌やウェブサイトに掲載してもらえる、公共施設にポスターを貼れる、といった形で告知の幅が広がる。申請には開催要項と収支予定の提出を求められることが多く、締切は開催の2〜3か月前に設定されている場合がある。

来場者数が少ないと失敗ですか。人口の少ない県では、母集団そのものが小さい。目標を立てるなら、全国の学園祭の数字と比べるのではなく、その市町村の人口や前年の実績を分母にしたほうが現実的な評価になる。

地元の高校生に来てもらうには何をすればよいですか。県内に残る割合が低い地域ほど、大学の中を見たことがない高校生が多い。学園祭の日に研究室の公開や在学生との相談コーナーを置くと、オープンキャンパスとは別の接点になる。高校への案内は、進路指導の担当者宛てに文書で送るのが通りやすい。

東京23区の定員抑制はいつまで続きますか。法律は10年間の時限措置として定員の増加を禁じている。延長や見直しの議論は続いているので、最新の扱いは文部科学省の命令のページで確認するのが確実である。


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