同じ試験について、二・九倍と書いてある資料と二・一倍と書いてある資料が同時に見つかることがある。誤記ではなく、割り算の分母が違うだけである。申し込んだ人の数で割るのか、実際に試験会場に来た人の数で割るのか。この一点を揃えずに自治体どうしを比べると、志望先の選び方まで狂う。数字そのものより、数字の作り方を先に押さえたい。
分母が二つあるので倍率も二つ出る
人事院の二〇二五年度国家公務員採用一般職試験及び専門職試験の合格者発表は、申込者数と受験者数と最終合格者数を別々に載せている。一般職の大卒程度試験は申込者が二万五四三七人、受験者が一万八四〇六人、最終合格者が八八一五人だった。申込者を分母に取れば二・九倍、受験者を分母に取れば二・一倍になる。
専門職の大卒程度試験でも同じ開きが出る。申込者一万七八六一人、受験者一万一三五四人、最終合格者四九四四人で、申込基準なら三・六倍、受験基準なら二・三倍。どちらも誤りではないが、片方だけを引いて他の試験と並べると順位が入れ替わる。
総務省の調査は分母を明記している。地方公共団体の競争試験について、競争率は受験者数を合格者数で割って算出すると注記されている。つまり地方側の公表値は受験基準である。国家側でよく引用される申込倍率とそのまま突き合わせると、地方のほうが厳しく見える方向に歪む。
比較するときの作法は単純で、受験者数を分母に統一すればよい。二〇二五年度の国家一般職は二・一倍、専門職は二・三倍。この水準を頭に置いてから地方の数字を見ると、落差の意味が読める。国家と地方の制度上の違いは国家公務員と地方公務員の違い|人数・根拠法・試験の主体で比べるに整理してある。
地方の競争率は四・一倍まで下がった
総務省が令和七年一二月に公表した令和六年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果によると、地方公務員の競争試験の受験者数は三八万八九九六人、合格者数は九万四九九九人、競争率は四・一倍だった。前年度と比べて受験者数は一万二〇三人減り、合格者数は八二四六人増えている。競争率は〇・五ポイントの低下である。
下落は単年の揺れではない。同じ資料の推移表では、平成二十七年度の六・六倍から一〇年かけてほぼ一貫して下がり、令和五年度の四・六倍を経て令和六年度の四・一倍に届いた。受験者が減り続ける一方で合格者が増え続けているため、分子と分母の両方から競争率が押し下げられている。
この局面は受験者にとって追い風に見えるが、自治体の側から見れば人材確保の難所である。合格者を増やしても受験者が集まらない構図が続いており、採用の現場では辞退率まで織り込んだ運用が必要になる。職場側で何が起きているかは地方公務員の現状とは?人手不足と働き方改革の実態を徹底的に解説に詳しい。
新卒以外の経路も広がった。令和六年度に実施された中途採用試験は受験者八万三六三四人、採用者一万三五八六人で、採用倍率は六・二倍。前年度から〇・七ポイント下がっている。実施団体は令和二年度の九〇六団体から令和六年度の一二〇一団体まで増えた。新卒一括の外側に、毎年千を超える団体の入口が開いている。
平均値は同じ役所の中の差を隠す
四・一倍という全国平均は、志望先を選ぶ材料としてはほとんど役に立たない。令和七年度 東京都職員採用試験(選考)実施状況を開くと、同じ東京都の同じ年度の中で倍率が三倍以上開いている。Ⅰ類B採用試験の行政区分は、一般方式が二・〇倍なのに対し、新方式は四・五倍だった。
この二つは採用される職も入都後の扱いも同じで、違うのは選考の入口だけである。東京都人事委員会の令和八年度 東京都職員Ⅰ類B採用試験案内(一般方式)が示すとおり、一般方式は教養試験に加えて論文と専門試験の記述式を課し、口述試験で締める。新方式には専門試験も論文もなく、プレゼンテーション・シートの作成とグループワークを含む口述試験で構成される。採用後の職務内容や配属、給与、昇任の扱いに差はないと明記されている。
入口の形が違えば集まる層も変わる。特別な試験対策を前提としない新方式には民間企業との併願層が流れ込み、同じ行政職でありながら倍率が二倍以上の差になった。なお第一次試験日が同じであるため、新方式と一般方式を両方申し込むことはできない。どちらの入口を選ぶかという一度きりの判断が、競争環境をそのまま決める。
| 試験・区分 | 申込者数 | 受験者数 | 受験率 | 最終合格者数 | 倍率 |
|---|---|---|---|---|---|
| Ⅰ類B 行政(一般方式) | 二三七六人 | 一六二九人 | 六八・六% | 八三〇人 | 二・〇倍 |
| Ⅰ類B 行政(新方式) | 二二九六人 | 一八四七人 | 八〇・四% | 四一〇人 | 四・五倍 |
| Ⅰ類B ICT(新方式) | 九四人 | 六七人 | 七一・三% | 一〇人 | 六・七倍 |
| Ⅰ類A 事務 | 五八一人 | 二五六人 | 四四・一% | 七四人 | 三・五倍 |
| Ⅱ類 司書 | 五五人 | 三八人 | 六九・一% | 四人 | 九・五倍 |
採用予定数の小さい区分ほど数字は跳ねる。Ⅰ類BのICTは最終合格者が一〇人で六・七倍、Ⅱ類の司書は最終合格者四人で九・五倍だった。母数が二桁の区分では、数人の増減で倍率が一倍動く。小さな区分の前年比を読むときは、割合ではなく実数で見たほうが誤解が少ない。
受験率という第三の数字が効いている
申込者と受験者の差は、どの試験でも無視できない大きさになる。東京都のⅠ類A採用試験では、事務区分の申込者五八一人に対し受験者が二五六人で、受験率は四四・一パーセントだった。申込の半分以上が会場に現れていない。
同じ年度でも区分によって差が大きい。Ⅰ類B一般方式の合計は六九・八パーセント、新方式の合計は八〇・二パーセントで、造園区分は八五・七パーセントに達する。Ⅰ類Aのように院卒者を対象とし併願先が多い層ほど、申し込んだまま来ない割合が大きくなる傾向が見て取れる。
受験率が低い試験は、申込倍率の見かけほど競争が激しくない。逆に受験率が八割を超える試験は、申込の段階ですでに本気の層に絞られている。申込倍率が同じ三倍でも、受験率四割の試験と八割の試験では会場での実感がまったく違う。この三つ目の数字を添えて初めて、倍率は比較可能な指標になる。
倍率を志望先選びにどう使うか
数字の使い道は順位付けではなく、絞り込みの優先度を決めることにある。まず受験者基準に揃える。次に採用予定数を見て、母数が小さい区分かどうかを判断する。最後に受験率を当てて、申込の厚みが実体を伴っているかを確かめる。この三手で見かけの難しさはかなり剥がれる。
年度をまたいだ比較にも注意がいる。総務省の調査は令和六年度の状況を翌年末に公表する形で、国家の実施状況は年度内に出る。公表の時期がずれているため、最新の数字どうしを並べても同じ年度を見ているとは限らない。資料の対象年度を確認してから比べたい。
倍率の低下を機会として捉えるなら、準備の方向は絞り込みになる。全国平均が四・一倍まで下がった局面で効くのは、受ける試験を増やすことより、志望する団体の区分と方式を見極めて配点に合わせた準備を厚くすることである。区分の全体像は地方公務員試験とは?試験区分と対策の基本を丁寧に徹底解説する、試験種別ごとの規模は公務員試験の概要|申込8.6万人から合格2.4万人までの全体像で確かめられる。
数字で絞り込んだ先には、その自治体で何をするのかという問いが残る。面接で問われるのは倍率の知識ではなく、地域の課題に対する具体的な手触りである。学生のうちに現場へ入る経路として、FLASPOのように自治体や企業の課題に関わるプログラムを挟んでおくと、志望理由の解像度が上がる。
よくある疑問
倍率が下がっているなら受かりやすくなったのか。合格の難しさが同じ比率で下がったわけではない。競争率は受験者数を合格者数で割った値にすぎず、基準点に届かない受験者が増えれば、分母が減っても合格水準は下がらない。採用側は辞退を見込んで合格者を多めに出すため、合格者数の増加がそのまま門戸の広がりを意味するとも限らない。
国家と地方のどちらが競争は厳しいのか。受験者基準で揃えると、二〇二五年度の国家一般職が二・一倍、令和六年度の地方全体が四・一倍である。ただし地方の数字は都道府県から町村まで、上級から初級までを合算した値なので、特定の県庁や市役所の難しさを示すものではない。
総合職の六・七倍はどう読めばよいか。二〇二五年度国家公務員採用総合職試験(春)の合格者発表では、申込者一万二〇二八人に対し最終合格者一七九三人で申込倍率六・七倍とされている。内訳を開くと院卒者試験が二・〇倍、大卒程度試験が九・三倍で、合計値はこの二つの平均ではない。受ける区分が決まっているなら、合計ではなく区分の数字を使う。
前年より倍率が上がった自治体は避けるべきか。単年の変動では判断できない。採用予定数が減れば倍率は自動的に上がり、新しい選考方式を設ければ申込が一時的に集まる。三年分の採用予定数と最終合格者数を並べて、枠そのものが縮んでいるのか申込が増えただけなのかを見分けたい。
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