地元の夏祭りの中継や、市議会の様子、小学校の運動会。テレビの番組表のどこかに、その土地だけで放送されているチャンネルが並んでいる。全国のネットワークにも配信プラットフォームにも乗らない映像が、どうやって作られ、どれだけの家に届いているのか。総務省が公表している「ケーブルテレビの現状」(令和7年10月版)には、その答えになる数字がひととおり載っている。
祭りの中継を流しているのは誰か
同じ「ケーブルテレビ」という言葉の下に、性格の違う二種類の事業者が入っている。ひとつは自分で番組を作って流す事業者、もうひとつは地上波や衛星放送をそのまま中継するだけの事業者だ。制度上は前者を「登録に係る自主放送を行うための有線電気通信設備を用いる事業者」と呼ぶ。令和6年度末でこれが449事業者、再放送のみの事業者が175事業者で、合計624事業者が登録一般放送事業者として届けられている。前年度の627事業者から3者減り、減少率は0.5パーセントだった。
設備の数で見ると合計941設備で、こちらも前年度の948設備から7設備減っている。自主放送用が639設備、再放送のみが302設備という内訳だ。登録を要しない小規模な届出設備まで含めると風景が変わる。自主放送を行う設備は794設備(551事業者)まで広がり、再放送のみを行う設備は42,421設備(32,741事業者)に達する。このうち35,469設備は端子が50以下の小規模設備で、集合住宅やひとつの集落のためだけに引かれた線がそのまま数に入っている。地域メディアを数えようとすると、看板を掲げた放送局より手前に、こうした無名の設備が積み上がっていることが見えてくる。
3,132万世帯という到達範囲
では、どれだけの家に線がつながっているのか。令和6年度末の加入世帯数は、自主放送を行う設備が31,877,322世帯、再放送のみの設備が1,022,167世帯で、合わせて32,899,489世帯。前年度比はプラス0.2パーセントで、ほぼ横ばいに近い微増だった。普及率は約52.0パーセントで、これは令和7年1月1日現在の住民基本台帳世帯数を分母に算出した値である。全国の二世帯に一世帯はケーブルの線を引いていることになる。
ただし、線がつながっていることと地域の番組が届いていることは同じではない。自主放送であるコミュニティチャンネル(2K)の加入世帯数は、令和5年度の3,033万世帯から令和6年度は3,132万世帯へ増えた。一方で自主制作の4K番組を見られる世帯は83万世帯から59万世帯へ減っている。高精細の自主制作は広がらず、標準的な画質のコミュニティチャンネルが着実に増えるという、ややねじれた動きだ。受信機の側も入れ替わりが進む。セットトップボックスの設置台数は1,117万台から1,022万台へ減ったが、4K8K衛星放送に対応する機種は326万台から359万台へ増えた。全国のケーブル局が制作した4K番組を集めて流す仕組みの視聴可能台数も、252万台から317万台へ伸びている。
運営主体で性格が変わる
自主放送を行う449事業者を運営主体で割ると、この業界の成り立ちがはっきりする。株式会社等の事業者が280者、地方公共団体等の事業者が169者。数のうえでは民間が6割強だが、加入世帯の分布はもっと偏っている。
| 運営主体 | 事業者数 | 設備数 | 加入世帯数 |
|---|---|---|---|
| 営利法人 | 79 | 159 | 12,258,396 |
| 第三セクター等 | 201 | 300 | 18,930,313 |
| 地方公共団体 | 146 | 157 | 554,545 |
| 公益法人 | 1 | 1 | 62,400 |
| その他 | 22 | 22 | 72,113 |
| 合計 | 449 | 639 | 31,877,767 |
第三セクター等の201者が1,893万世帯を抱え、全体の6割近くを占める。自治体と地元企業が出資して作った会社が、ケーブルテレビの主役だということだ。他方、自治体が直接運営する146者の加入世帯は554,545世帯にとどまり、全体の1.7パーセントしかない。事業者の数では3割を超えるのに世帯は2パーセント未満という落差は、山間部や離島で数百世帯のために自前で線を引いた施設が多いことを示している。総務省の資料も、地方公共団体等の数は年々減少傾向にあると書いている。民間へ譲渡するか、合併して広域の会社になるかという流れの途中にある。
放送以外の収入で回っている
番組だけで経営が成り立っているわけではない。449事業者のうち432者が答えた任意調査では、ケーブル回線を使ったブロードバンドサービスを297者が提供し、契約数は1,111万契約にのぼる。固定電話サービスは221者で837万契約、格安スマホにあたるMVNOサービスは122者で251万契約、動画配信にあたるVODサービスは53者で506万契約。地域BWAサービスは101者が持つが契約数は5万契約と小さい。放送の線を通信の線として使い直すことで、一軒あたりの売上を積み増している構図だ。さらに電力の小売りを91者、ガスの小売りを30者が手がけ、ドアセンサーや電子錠をスマートフォンから操作するスマートホームサービスを37者が提供している。
経営状況の調査対象は、営利法人に限り、IPマルチキャスト方式の事業者等を除いた272社である。この272社のうち229社、つまり84.2パーセントが単年度黒字を計上した。ケーブルテレビ事業に限った営業収益は4,740億円で前年度比98.8パーセント、営業利益は391億円で前年度比102.6パーセント。収益はR2年度の5,006億円から5年続けて目減りしているのに、利益は前年の382億円から回復している。放送の売上が細るのを費用の圧縮で受け止めている、という読み方になる。全事業を合わせた総額では営業収益15,199億円、営業利益1,945億円だった。
学生がこの画面に関わる入口
地域の映像を作る現場に学生が入る余地は、思っているより近い。第三セクター等の201者は多くが従業員数十人の規模で、自治体の広報番組や議会中継、学校行事の収録を年間計画で回している。番組の素材が足りないのは夏祭りや大会のような一日限りの行事で、カメラを持てる人手がその日だけ必要になる。大学のゼミやサークルが撮った映像が、コミュニティチャンネルの枠に乗る例はここから生まれる。放送の職場としての規模感は地方紙と地方局に入る枠|89社3万1,312人と放送536社の内訳と並べて見ると掴みやすい。
媒体としての立ち位置を考えるなら、同じ地域を扱う他の手段と比べるのが早い。コミュニティ放送との違いは地域メディアはSNSに置き換わったか|コミュニティ放送346社と能登の22.5%に、紙媒体の縮み方は記者14,345人と0.42部|地域メディアが細る速さを数字で確かめるにまとめてある。3,132万世帯という到達範囲は、地域の情報を扱う手段としては依然として大きい。学生が地域で企画を立てるとき、成果を映像にして地元のチャンネルに持ち込むという出口があることは覚えておいてよい。FLASPOが各地で進めている学生の提言プロジェクトでも、地元局の取材がそのまま地域への説明材料になっている。
よくある質問
普及率52.0パーセントという数字は、全国どこでも同じですか。いいえ、普及率は全国の住民基本台帳世帯数を分母にした全国値で、地域差は非常に大きい。山間部や離島では地上波の受信が難しく、自治体や第三セクターが引いた線にほぼ全戸が加入している地域がある一方、都市部では加入しない世帯も多い。
コミュニティチャンネルの番組は誰が作っているのでしょうか。事業者の自主制作が基本で、自治体の広報課からの委託、地元の制作会社への外注、住民や学生の持ち込み素材が混ざる。自主放送を行う449事業者それぞれが独自の編成を持つため、隣の市では放送されていない番組が普通にある。
ケーブルテレビ事業者は減っているのに加入世帯は増えているのはなぜですか。事業者の合併と自治体から民間への譲渡が進んでいるためである。令和6年度末の事業者数は前年度比0.5パーセント減、設備数は0.7パーセント減だが、加入世帯数は0.2パーセント増えた。一者あたりが受け持つ世帯が増えている、つまり集約が進んでいるということになる。
番組制作に関わりたい場合、どこに連絡すればよいですか。事業者名は「◯◯ケーブルテレビ」「◯◯シティケーブル」のような地名入りが多く、自治体の広報担当課が窓口を把握している。自主放送を行う事業者は全国で449者しかないため、自分の地域にどれが入っているかは市町村の公式サイトの広報番組の案内から辿るのが確実だ。
出典:総務省情報流通行政局放送業務課「ケーブルテレビの現状」令和7年10月版(PDF)。本文の数値は令和6年度末現在、普及率は令和7年1月1日現在の住民基本台帳世帯数に基づく。
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