試算が外れるのは、金額よりも時点のほう
移住の資金計画を立てるとき、たいていの人は費目を縦に並べて金額を書き込む。敷金、引越し代、家電、家賃、食費という具合である。この形で漏れなく書けたとしても、資金が足りなくなることがある。原因は金額の誤りではなく、出ていく時期の置き方にある。
移住の家計には、時間のずれを持つ項目が三つ混ざっている。契約時に一度だけ出る費用、移った月から毎月出る費用、そして前の住所での所得や制度に紐づいて1年前後遅れてやってくる費用である。三つ目を縦の表に並べると、実際には13か月目に出る金額が1か月目の列に入ってしまう。
だから表は縦ではなく、時点で区切って組む。費目を時点の箱に割り振ると、どの月に現金が足りなくなるかが先に見える。費目そのものの中身は移住費用の内訳に、契約時にまとまって出る分は移住の初期費用にまとめてあるので、ここでは時点の置き方を扱う。
住民税は、前の住所で稼いだ所得を追いかけてくる
遅れてくる費用の代表が個人住民税である。総務省の説明によれば、個人住民税はその年の1月1日時点で住所がある市町村に対して課税され、所得割は前年1月1日から12月31日までの所得で算定される。税率は所得に対して10%、内訳は道府県民税が4%と市町村民税が6%で、政令指定都市では道府県民税が2%、市民税が8%になる。
この二つの規定が組み合わさると、移住した年の負担は前の暮らしの所得で決まる。たとえば2月に地方へ移った人は、その年の1月1日時点では都市に住んでいたので、その年度の住民税は前の住所地に納める。しかも金額は、都市で働いていた前年の所得をもとにした額である。収入が下がる移住をした場合、下がった後の家計から、下がる前の所得に対応する税を払うことになる。
所得に関係なくかかる均等割は4,000円で、道府県民税が1,000円、市町村民税が3,000円という内訳になる。2024年度からは、これと併せて国税の森林環境税が1,000円徴収される。標準税率を踏まえて実際の税率を条例で定めるのは自治体なので、移住先によって額がわずかに違うことがある。
天引きで払う月と、自分で納める月は同じではない
納め方にも時間の癖がある。会社員のように給与から引かれる特別徴収では、月割の額が6月から翌年5月までの12回に分けられ、給与の支払者が毎月徴収して翌月の10日までに市町村へ納める。12等分されるので、家計から見ると負担はなだらかである。
自分で納める普通徴収は様子が違う。地方税法では6月、8月、10月、翌年1月の4期とされており、市町村が条例で別の納期を定めている場合もある。年4回なので、1回あたりの金額は天引きの3倍前後になる。
移住で会社を辞めた場合、ここが切り替わる。退職までは天引きで、退職後は普通徴収になるため、収入が途切れた時期に年4回のまとまった請求が来る。前年の所得は都市で働いていた分なので、額は収入が無い時期の家計に対して大きい。移住の月を決めるときは、この納期と手元の現金が重なる月を先に確かめておくと安全である。
普通徴収への切り替えは退職の時期でも変わる。年の途中で辞めると、残りの税額をまとめて請求されるか、普通徴収に回されるかのどちらかになる。どちらになるかは勤務先と市町村の処理で決まるので、退職の手続きのときに確認しておくと、想定していなかった請求書で慌てることがない。
保険料も前年の所得で決まり、率は自治体ごとに違う
会社の健康保険から国民健康保険に移る場合、もう一つ遅れてくる負担が加わる。厚生労働省の案内では、国民健康保険の保険料は世帯ごとに計算され、具体的な算定方法と納期、納付の方法は市町村の条例で定めるとされている。所得に応じた応能分と、人数などに応じた応益分を足し合わせる形である。
率が条例で決まるということは、移住先が変わると同じ所得でも金額が変わるということだ。住民税のように全国でおおむね同じ率とは限らないので、候補地が絞れた段階で市町村の料率表を見ておく価値がある。所得が基準を下回る世帯には、応益分である均等割と平等割を7割、5割、または2割軽減する仕組みがある。
保険料には上限もある。社会保障審議会に出された資料では、令和7年度の賦課限度額は合計109万円で、医療分が92万円、介護分が17万円という構成だった。医療分の内訳は基礎賦課額66万円と後期高齢者支援金賦課額26万円である。なお会社都合など非自発的な理由で離職した人については、前年の給与所得を30/100として算定する軽減措置が翌年度末まで適用される。自分の都合で辞めて移る場合はこの軽減に当たらないので、同じ退職でも扱いが分かれる。
24か月を三つの箱に割って表にする
ここまでの性質を踏まえると、表の形は決まる。費目の一覧ではなく、時点の一覧にする。
| 時点 | 出ていく金 | 入ってくる金 |
|---|---|---|
| 移住前〜契約時 | 敷金・礼金・仲介手数料、引越し、家具家電 | なし。全額を手元から立替 |
| 1〜12か月目 | 家賃と毎月の生活費、前の住所の所得に基づく住民税と保険料 | 移住支援金(転入後1年以内に申請)、移住後の収入 |
| 13〜24か月目 | 移住後の所得に基づく住民税と保険料、車検などの周期的な支出 | 移住後の収入 |
この形にすると、資金が最も細くなるのが1〜12か月目の箱だと一目で分かる。契約時の支払いで手元が減ったうえに、前の暮らしの所得に基づく税と保険料が重なり、移住先での収入はまだ安定していない時期である。移住支援金は転入後1年以内に申請する仕組みで、入るのは申請の後なので、この箱の前半には間に合わない。
13〜24か月目の箱に入ると、税と保険料が移住後の所得に合った額に切り替わる。収入が下がる移住なら、負担もここで下がる。逆に言えば、苦しいのは最初の1年だけだと分かっていれば、その1年分の現金を用意するという具体的な目標になる。支援金には申請から5年以内に転出すると返還の対象になる条件があるので、5年という時間も計画の中に置いておく。
よくある質問
試算はどのくらい細かく作ればよいか。費目は10行から15行で足りる。細かく割るより、時点の列を正しく置くほうが精度に効く。桁の検算には全国平均を使い、実額は現地の見積もりで置き換えるのが早い。平均の読み方は地方移住の費用とはで整理している。
移住した年の住民税は、移住先と前の住所のどちらに納めるのか。その年の1月1日時点で住所があった自治体である。1月2日以降に移った場合、その年度は前の住所地に納めることになる。
収入が下がる移住なら、住民税もすぐ下がるのか。下がるのは翌年度からである。所得割は前年の所得で算定されるため、収入が下がった年の負担は前年の高い所得に対応した額になる。この一年のずれが、試算で最も見落とされる部分だ。
保険料の額を事前に正確に知る方法はあるか。料率が条例で定められているので、移住先の市町村が公表している料率表に自分の前年の所得を当てれば概算できる。軽減の判定も所得で決まるため、転職や離職で所得が大きく動く年は、前後の2年分を計算しておくと見通しがよくなる。FLASPOでも、移住の時期を相談されたときは税と保険料の切り替わる月から逆算することが多い。
手元に残す現金はどれくらいが目安か。契約時の支払いを済ませたあとに、1〜12か月目の箱に入る税と保険料の合計、それに生活費の数か月分が残る形が下限になる。移住後の収入が最初から安定している場合でも、税は前の所得で決まるため、収入の額で安心して現金を薄くすると最初の1年で詰まる。
出典は総務省の個人住民税の解説と個人住民税の現年課税化に関する資料、厚生労働省の国民健康保険の保険料・保険税についてと賦課限度額に関する資料、内閣官房・内閣府の移住支援金の案内である。
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