人の流れは、いまも若い層が都市へ向かっている
地方移住の記事はたいてい「若者の地方志向が高まっている」から始まる。実際の人の動きを数えると、向きはむしろ逆である。総務省統計局の住民基本台帳人口移動報告によれば、2025年の東京圏は123,534人の転入超過だった。前年に比べて12,309人縮んではいるが、転入が転出を上回る状態は続いている。日本人の移動者だけで見れば112,738人の転入超過で、これは30年連続になる。
年齢で切ると、誰が動いているのかがはっきりする。東京圏への転入超過は20〜24歳が80,443人で突出して多く、次が25〜29歳の23,546人、その次が15〜19歳の21,469人である。進学と就職の二つの時期に、若い層が都市へ集まる形になっている。
つまり20代が地方へ移るのは、人口全体の流れの逆を行く選択だ。逆を行くのが悪いという話ではなく、同世代の多数派が選ばない道なので、費用の面でも前例が身近にないという意味である。先に歩いた人の家計を参考にしづらいぶん、自分で数字を組む必要がある。
出ていく層と入ってくる層は、年齢で分かれている
同じ集計から、東京圏を出ていく側の年齢も読める。
| 年齢(東京圏・日本人移動者・2025年) | 転入超過/転出超過 |
|---|---|
| 15〜19歳 | 21,469人の転入超過 |
| 20〜24歳 | 80,443人の転入超過 |
| 25〜29歳 | 23,546人の転入超過 |
| 55〜59歳 | 3,051人の転出超過 |
| 60〜64歳 | 4,562人の転出超過 |
| 65〜69歳 | 2,900人の転出超過 |
転出が転入を上回るのは60〜64歳の4,562人が最も多く、55〜59歳が3,051人、65〜69歳が2,900人と続く。退職の前後に動く層である。一方、10代から20代の各階級は2010年以降16年続けて転入超過になっている。
この非対称は費用の性質にも表れる。退職前後に移る世帯は、退職金と持ち家の売却という大きな原資を持っていることが多い。20代にはどちらも無い。働いた年数が短いので貯まっている額も少なく、自己資金を厚くしてから動くという順番を取ると、動けるのは10年後になってしまう。
貯める前に動くなら、制度の側から原資を取る
そこで順番を入れ替える。手元の資金で足りない分を、制度で埋める。代表的なのが国の交付金を使って都道府県と市町村が支給する移住支援金である。
額は世帯の場合100万円以内、単身の場合60万円以内で、具体的な金額は都道府県が設定する。18歳未満の世帯員を連れて移る場合は、1人につき最大100万円が加算される。ただし誰でも受け取れるものではない。移住する直前の10年間で通算5年以上、東京23区に住んでいたか、東京圏から23区へ通勤していたことが条件で、しかも直近1年以上はその状態である必要がある。
移住先の側にも条件がある。この事業を実施している東京圏外の道府県か、東京圏のうち条件不利地域であること。転入後1年以内に申請し、申請後5年以上その市町村に住み続ける意思があること。申請から5年以内に転出すると返還の対象になる。進学で上京して就職した人は通算5年の要件を満たしやすい一方、学生のうちに地方へ移る人は雇用保険の被保険者としての通勤実績がないため、同じ金額を前提にできない。
支給の形も押さえておきたい。移住支援金は都道府県と市町村が共同で支給する仕組みなので、金額も申請の窓口も移住先ごとに違う。同じ県の隣り合った市町村で、実施しているところと実施していないところが分かれることもある。候補地を絞る段階で、支援金の有無を条件表に一列入れておくと、後から前提が崩れずに済む。
報酬のある移住という選び方
資金を用意して移るのではなく、報酬を受け取りながら移る形もある。総務省の地域おこし協力隊は、都市から条件不利地域へ住民票を移して活動する仕組みで、令和6年度の隊員数は7,910人、受け入れ自治体は1,176団体だった。前年度から710人増えている。
年代の構成を見ると、20〜29歳が33.2%、30〜39歳が31.0%で、合わせて6割を超える。若い層が中心の制度である。自治体側の財政措置は、令和7年度では隊員1人あたりの活動経費が550万円を上限とし、うち報償費等が350万円、その他の活動経費が200万円となっている。実際に隊員が受け取る額は自治体ごとの募集要項で決まるが、報償費の枠がこの範囲にあることは見当がつく。
任期の後どうなるかも公表されている。調査時点を令和6年5月1日とする集計では、任期を終えた隊員のうちおよそ68.9%、5,539人が同じ地域に定住していた。直近5年間に任期を終えて活動地と同一市町村に定住した4,477人のうち、約46%の2,077人が起業、約34%の1,542人が就業、約12%の525人が就農または就林である。移住費用の問題を「貯める」ではなく「働きながら移る」で解く道が、数字の上でも成り立っていることになる。
若いうちに動くと、税の面で一度だけ有利が出る
見落とされやすい論点がもう一つある。個人住民税は、その年の1月1日時点で住所がある市町村が課税し、所得割は前年1月1日から12月31日までの所得で算定される。税率は所得に対して10%で、内訳は道府県民税が4%、市町村民税が6%。所得にかかわらずかかる均等割は4,000円で、2024年度からはこれと併せて森林環境税1,000円が徴収される。
前年の所得で決まるという仕組みは、収入が増えていく時期には重い負担になるが、逆向きにも働く。学生だった年や、収入の少なかった年の翌年は、住民税が軽いか課税されない。社会に出て間もない時期や、収入が一度下がる転職の前後は、移住にかかる固定費の一部がたまたま小さくなっている期間だということである。
同じ理由で、都市で何年か働いて収入が上がったあとに移ると、移住1年目に都市での高い所得に対する住民税が追いかけてくる。原資が薄い若い時期の移住は、この追いかけが小さいという一点では条件がよい。FLASPOに届く相談でも、動く時期を決めかねている人には、貯蓄の額より先にこの時間の順序を見てもらうことが多い。費用の全体像は地方移住の費用とは、契約時にまとまって出る分は移住の初期費用にまとめてある。
よくある質問
貯金がいくらあれば移住できるのか。金額を一つに決めることはできないが、順番は決められる。契約時に必要な額、支援金が入るまでの立替分、仕事が安定するまでの数か月の生活費、この三つを足した額が最低線になる。支援金は転入して申請した後に入るので、最初の出費は全額を自分で立て替える前提で組む。
移住支援金は移住の費用に使えるのか。使途を細かく縛る仕組みではないが、受け取れる時期が後ろにずれる点が重要である。契約時の支払いには間に合わないので、引越しの費用として最初から当て込むと資金が足りなくなる。
地域おこし協力隊は何年続けられるのか。任期には上限があり、募集する自治体の要項で定められている。任期の後は起業や就業で地域に残る人が多いので、任期そのものより、終わったあとに何で収入を得るかを応募の段階で考えておいたほうがよい。
学生のうちに移るのと就職してから移るのでは、どちらが費用の面で楽か。移住支援金の要件は東京23区での在住や通勤の実績で決まるため、学生のまま移ると対象外になることがある。一方で住民税は前年の所得で決まるので、学生時代の所得が低い年の翌年は負担が軽い。制度を取るか税の軽さを取るかで、有利な時期は変わる。
移住後の毎月の支出はどう見積もるか。家賃と食費は下がりやすく、自動車の維持費と冬の暖房費は上がりやすい。下がる費目だけを数えると楽観的な表になるので、上がる側を先に書き出すほうが安全である。費目ごとの動き方は移住後の生活費で扱っている。
出典は総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告 2025年(令和7年)結果」の公表ページ、内閣官房・内閣府の移住支援金の案内、総務省地域自立応援課の令和6年度 地域おこし協力隊の隊員数等についてと令和7年度新規・拡充施策、総務省の個人住民税の解説である。
アイデアコンテストプラットフォーム「FLASPO」

アイデア1つで、地域や企業とつながれる。
FLASPOは、全国の自治体・企業が開催する若者向けアイデアコンテストのプラットフォームです。
地域や企業が抱える課題に対して、あなたのアイデアで解決策を提案できます。
賞金やユニークな地域体験が獲得できるコンテストも多数。誰でも参加無料・オンライン完結で挑戦できます。
