移住の相談で「生活費は半分になりますか」と聞かれることがある。期待されているのは物価の話だが、公表されている数字を見ると、都道府県の物価水準は思ったほど開いていない。それなのに移った人の家計は確かに変わる。変わるのは平均としての物価ではなく、自治体ごとに決まっている固定費と、車という一つの持ち物のほうである。順に数字で確かめていく。
県をまたいでも、物価の差は1割に届かない
まず全体の輪郭を押さえたい。総務省は小売物価統計調査の構造編で、全国平均を100とした消費者物価地域差指数を毎年作っている。2026年9月18日に公表された2025年の結果では、総合が最も高いのは東京都の104.2で、最も低いのは群馬県の96.2だった。最も高い県を最も低い県で割った倍率は1.08倍である。
この8パーセントという幅をどう受け取るかで、見通しが変わる。月の支出が25万円の世帯が、全国で最も高い県から最も低い県へ移ったとしても、物価の差だけで縮むのは2万円に届かない。半分になるという話とは桁が違う。県ごとの順位と内訳は都道府県別の生活費|東京104.2と群馬96.2、家賃を外すと順位が変わるで追っている。
ならば移住で家計が軽くなるという実感はどこから来るのか。手がかりは、同じ資料を費目ごとに割ったときに現れる。
大きく動く費目は、住居と光熱・水道に偏っている
10の大費目について、最も高い県と最も低い県の倍率を並べると、差の大きさがそろっていないことがわかる。2025年の結果は次のとおりである。
| 費目 | 最も高い県 | 最も低い県 | 最大の倍率 |
|---|---|---|---|
| 住居 | 東京都 129.8 | 岡山県 79.1 | 1.64倍 |
| 教育 | 大阪府 124.7 | 富山県 78.1 | 1.60倍 |
| 光熱・水道 | 北海道 117.8 | 大阪府 90.6 | 1.30倍 |
| 被服及び履物 | 北海道・石川県 107.3 | 鹿児島県 88.7 | 1.21倍 |
| 食料 | 沖縄県 106.6 | 長野県 95.0 | 1.12倍 |
| 交通・通信 | 東京都 103.5 | 鹿児島県 97.2 | 1.06倍 |
| 保健医療 | 東京都・山口県 101.7 | 宮崎県 97.1 | 1.05倍 |
住居が1.64倍で最も開き、光熱・水道が1.30倍で続く。一方、医療と交通・通信は1.05倍から1.06倍しか違わない。家賃が下がることで浮いた分の一部は、暖房や給湯の費用に吸われる計算になる。北海道が光熱・水道で全国一位という並びは、寒い土地へ移る場合に無視できない。
食料の差も1.12倍にとどまる。地方は食べ物が安いと言われがちだが、指数で見るかぎり効き方は住居より小さい。毎月の家計に効く順番は、住まい、光熱、そして指数には出てこない車という並びになる。
車は、走らせる前から決まった額が出る
公共交通が細い地域では、車が生活必需品に変わる。ガソリン代や保険料は走る距離で動くが、保有しているだけで毎年かかる税と、車検のたびに納める税は額が決まっている。総務省の自動車関係税制のあり方に関する検討会の資料によると、軽自動車税の種別割は4輪以上の自家用乗用車で年10,800円、自動車税の種別割は自家用乗用車で排気量1リットル以下なら年25,000円である。
注目したいのは、軽自動車税が市町村の税であるという点だ。賦課徴収は市町村と東京特別区が行い、制限税率は標準税率の1.5倍まで認められている。同じ軽自動車でも、条例の設定によって負担が違いうるということである。新車登録から13年を過ぎた車には、おおむね20パーセントの重課もかかる。中古の安い車を移住先で買うなら、年式を見ておきたい。
| 車に毎年かかる主な公的負担 | 軽自動車 | 乗用車(1トン以下) |
|---|---|---|
| 種別割(年額) | 10,800円 | 25,000円(1リットル以下) |
| 自動車重量税(2年・自家用) | 6,600円 | 16,400円 |
| 13年経過後の重課 | おおむね20% | おおむね15% |
重量税は国土交通省の税額表にあるとおり、エコカー減税の対象外で2年分をまとめて納める場合、軽自動車が6,600円、車両総重量1トン以下の乗用車が16,400円、1.5トン以下で24,600円となる。自賠責保険料は2023年4月の改定後、自家用乗用車の24か月契約が17,650円である。金融庁の自賠責保険審議会の資料では、2026年度に改定する場合の基準料率が6パーセント程度の引き上げになるとの試算が示されている。
水道の料金は条例で決まるので、県内でも差がつく
固定費のうち、移住先を選ぶ段階で見落とされやすいのが水道である。全国一律の価格ではなく、水道事業を営む自治体ごとに条例で決まる。どれくらい違うのか、大阪府が府内の事業体を比べた水道料金の資料が参考になる。
令和5年3月31日の時点で、家庭用の1か月20立方メートル分を換算して並べると、府の平均が2,938円、最も高い事業体が4,906円、最も低い事業体が2,035円だった。差は2.41倍である。ひとつの府の中でこれだけ開くのだから、県をまたぐ移住なら、物価指数より先に移住先の料金表を見たほうが早い。
同じ考え方は下水道の使用料や、し尿処理の手数料、ごみ袋の価格にもあてはまる。どれも自治体が決めており、水道と違って広域化も進みにくい。金額そのものは月に数千円の話だが、年単位では無視できない。候補地が二つに絞れたら、両方の上下水道局のページを開いて同じ使用量で比べてみるとよい。
移る前に確かめる順番を決めておく
ここまでの数字を、実際の手順に落とす。最初に見るのは住まいである。費目の倍率が1.64倍で最大なのだから、同じ県の中でも家賃や取得費の水準を確かめるところから始めたい。次が光熱で、都市ガスが来ているのか、プロパンガスなのか、暖房に灯油を使う地域なのかを調べる。供給方式が違えば、同じ広さの家でも月の請求が変わる。
三つめが車である。世帯で何台必要かを決め、台数に先ほどの公的負担を掛ける。通勤と通院と買い物の経路を地図で引いてみると、2台目が要るかどうかの判断がつきやすい。四つめに上下水道とごみの費用を、候補地の料金表で確かめる。
最後に収入の側を置く。支出が下がっても賃金水準も下がるなら、差し引きで苦しくなることがある。暮らしの前提が変わることによる負担は移住のデメリットを先に知る|仕事・車・買い物と地域の付き合いに、支出全体の動きは地方移住の費用とは|年47万円下がる支出と、逆に上がる3つの費目にまとめた。地域での暮らしづくりに関わるFLASPOの現場でも、戻ってから計算が合わないという相談はこの順番を踏まないことから生まれている。
よくある質問
結局、移住で生活費は下がるのか。費目によって向きが違う。住居は最大1.64倍の差があるので下がりやすく、光熱・水道は寒冷地へ移ると上がる。車を持つ台数が増えれば、税と保険だけで年に数万円の固定費が足される。合計がどちらに振れるかは、住まいと車の二つで決まる。
物価指数で生活費を見積もってよいか。全体の目安にはなるが、個別の家計には足りない。指数は全国平均を100とした相対の水準であり、自治体ごとの水道料金や保険料のような固定費は反映しきれない。候補地が絞れたら実額の料金表に切り替えたい。
軽自動車にすればどれくらい軽くなるのか。公的な負担だけで比べると、種別割が年10,800円と25,000円、重量税の2年分が6,600円と16,400円なので、2年間で約3万円の差になる。保険料や燃費の違いも同じ向きに働くため、2台目を軽自動車にする判断は効きやすい。
光熱費を先に見積もる方法はあるか。移住先の供給事情を調べるのが近い。都市ガスの区域かどうかは供給事業者の区域図でわかり、プロパンガスなら販売店に単価を聞ける。灯油は地域の配送業者の価格が目安になる。同じ県でも市街地と山間部で条件が変わるので、集落の単位で確かめたい。
移住先の自治体に直接聞いてよいのか。構わない。上下水道の料金やごみ袋の価格は窓口が答えられる内容であり、移住相談の担当者が置かれている自治体なら、世帯の人数を伝えるだけで月々の見込みを示してくれることがある。問い合わせの履歴は、後で候補地を比べるときの資料にもなる。
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