業界研究と若者のキャリア|3年離職率から考える業界選びの重さ | FLASPO MAGAZINE

業界研究と若者のキャリア|3年離職率から考える業界選びの重さ

就職活動のあいだ、業界という言葉はおもに「どんな仕事があるか」を指して使われる。ところが入社後の数年を左右するのは、仕事の中身よりも、その場所で働き続けられるかどうかという条件のほうだ。国が毎年まとめている離職率を業界ごとに並べると、この条件が業界によってかなり違うことが見えてくる。業界研究を進路の下調べで終わらせず、自分の数年先を読む材料に変えるなら、この数字から入るのが早い。

3年で辞める割合は、業界によって15ポイント開く

厚生労働省は令和7年10月24日、令和4年3月に卒業した新規学卒就職者の離職状況を公表した。大学を出て就職した人のうち、3年以内に離職した割合は33.8パーセントで、前年の調査より1.1ポイント下がっている。学歴別では中学54.1パーセント、短大等44.5パーセント、高校37.9パーセントと並び、大学卒がいちばん低い。

注意したいのは、この33.8パーセントが全産業をまとめた平均だという点である。同じ資料には産業別の内訳があり、離職率の高い上位5産業を見ると、平均との距離がはっきりする。

産業(大学卒) 3年以内離職率 前年差
宿泊業、飲食サービス業 55.4% 1.2ポイント低下
生活関連サービス業、娯楽業 54.7% 1.0ポイント上昇
教育、学習支援業 44.2% 2.4ポイント低下
医療、福祉 40.8% 0.7ポイント低下
小売業 40.4% 1.5ポイント低下
参考・大学卒の全産業平均 33.8% 1.1ポイント低下

上位5産業の中だけでも15ポイントの幅があり、首位の産業は全産業平均より20ポイント以上高い。同じ年に卒業し、同じように4月から働き始めても、入った先の産業によって3年後に在籍している確率が違うということだ。

前年差の列も見落とさないほうがよい。上位5産業のうち4産業は前年より下がっており、全産業平均も1.1ポイント低い。採用後の定着に手を入れた企業が増えたことの表れとも読めるが、一年の増減で傾向を決めるのは危険だ。同じ頁に載っている推移のグラフをたどると、大学卒の3年以内離職率はおおむね30パーセント台前半で上下しており、どの年も3人に1人前後が3年のうちに職場を離れている。

規模の内訳を重ねると、業界名だけでは足りないと分かる

同じ公表資料には、就職先の事業所規模による内訳も載っている。大学卒でたどると、従業員5人未満の事業所に入った人の3年以内離職率は57.5パーセント、5人から29人で52.0パーセント、30人から99人で41.9パーセント、100人から499人で33.9パーセント、500人から999人で31.5パーセント、1,000人以上で27.0パーセントとなる。最小と最大の差は30ポイントを超え、産業別の差より大きい。

ここで二つの表を見比べると、産業別の数字の読み方が変わる。小さな事業所が多い産業では、産業の離職率にその分布が反映される。宿泊や飲食、生活関連サービスは店舗単位の事業所が多く、一方で金融やインフラは大きな事業所に人が集まりやすい。つまり産業別の数字は、仕事のきつさだけでなく、就職先の規模構成も映している。

この重なりに気づくと、調べる単位が細かくなる。関心のある産業について、どのくらいの規模の会社が多いのか、志望先はその分布の中でどこに位置するのかを確かめる。産業の平均値をそのまま志望企業の見通しとして受け取らないための作業で、業界研究と企業研究をつなぐ継ぎ目でもある。

離職率が高い業界は、悪い業界という意味ではない

数字を見て志望先を外すのは早い。離職という言葉には、耐えられずに辞めた場合だけでなく、よりよい条件へ移った転職、独立、進学や資格取得のための退職も含まれる。公表されているのは離職したという事実の集計であって、理由の内訳ではない。

むしろ人の出入りが多い業界には、その業界で積んだ経験が他社でも値段のつく市場がある、という読み方もできる。経験が通用するから移れるわけで、数年で次の場所を選べる余地があることになる。反対に離職率が低い業界では、定着の良さと、動きにくさが同じ構造から来ている場合がある。年次で役割が決まり、社外での評価軸が育ちにくい環境なら、残るという選択が積極的に選ばれたものとは限らない。

だから数字は結論ではなく問いとして使う。この業界ではなぜ3年で半分近くが動くのか、その人たちはどこへ行くのか。ここまで降りてくると、説明会や社員との面談で聞く内容が具体的になる。平均在籍年数や中途入社の比率、辞めた人の行き先は、聞き方を選べば答えが返ってくる種類の話である。

調べた数字を、自分のキャリアの仮説に変える

集めた情報を志望動機に流し込む前に、三つの問いを自分に当ててみる。第一に、この業界で3年たった自分は何ができるようになっているか。第二に、その力は業界の外でも説明できるものか。第三に、この業界を離れる人は何に行き詰まるのか。

一つめの問いは、業界ではなく職種の情報で埋まる。二つめは資格や技能の一般性の話で、業界固有の商習慣しか身につかない配置なら、答えに詰まる。三つめは離職率の数字と直接つながる。高い業界を志望するなら、辞めた人がぶつかった壁を知っておくほど準備が具体的になる。

三つの問いに答えるには、業界の情報だけでは材料が足りない。自分がどんな状況で力を出せるのかという整理が片側に必要になるので、自己分析のやり方を一度通し、結果を業界の条件と突き合わせる。総合商社のようにキャリアパスが公開されている業界では、何年目にどんな仕事を任されるのかまで追えるので、仮説の精度が上がる。

三つの問いは、一度で埋まらなくてよい。空欄が残った箇所が、次に誰に会って何を聞くかを決めてくれる。業界研究のノートが志望動機の下書きに変わるのは、この空欄が人に会って埋まったときである。

選択肢の幅は、業界の外側にも広がっている

業界研究を進めるうちに、候補が有名企業だけに寄っていくことがある。知名度の高い会社から順に調べるのは自然だが、離職率の内訳が示すように、働き続けられるかどうかを決める要素は社名の知られ方とは別のところにある。規模、地域、事業の立ち位置といった条件が効いてくる。

地方で働く選択も、情報が増えて検討しやすくなった。地方就職した若手社員の働き方を見ると、任される範囲の広さや生活のつくり方が都市部とは違う形で説明されている。こうした情報は求人票の条件欄には出てこないので、実際に働いている人の話を集めるしかない。

学生のうちに企業や地域と一緒に手を動かす経験を持つと、この種の情報が自分の言葉で語れるようになる。FLASPOのように学生と企業や自治体をつなぐ取り組みに参加すれば、業界研究で読んだ構造を現場の感触で確かめられる。読んで集めた知識に自分の体験が一つ加わると、志望動機の密度が変わる。

よくある質問

離職率はどこで確認できますか。厚生労働省のウェブサイトに新規学卒者の離職状況という頁があり、学歴別、事業所規模別、産業別の数字が毎年そろえられている。報道発表の本文と別紙を合わせて読むと、推移のグラフまで確認できる。

志望業界の離職率が平均より高いとき、志望をやめるべきですか。やめる必要はない。確かめるべきは、その数字が自分に当てはまる条件かどうかである。産業別の数字は小規模事業所の分布を含んでいるので、志望先の規模や職種が平均とずれているなら、平均をそのまま自分の見通しにしてはいけない。

公表されている数字は何年前のものですか。令和7年10月に出た最新版が対象にしているのは、令和4年3月に卒業した人たちである。3年間の在籍を追う調査なので、結果が出るまでに時間がかかる仕組みになっている。直近の採用環境を知りたいときは、この統計と各社の採用実績を併せて見るとよい。

面接で離職率の話を持ち出しても大丈夫ですか。長く働きたいという前提を示したうえで、育成の進み方や配属後の役割を尋ねる形にすれば、むしろ調べてきたことが伝わる。辞める人の割合を直接ぶつけるより、何年目に何を任されるのかという聞き方のほうが、答える側も具体的に話しやすい。


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