特産品の紹介記事は数えきれないほどあるが、どの県にいくつあるのかを公的な台帳で数えた資料は多くない。国が名称を知的財産として登録している「地理的表示」、いわゆるGIの一覧を使うと、47都道府県の並びがそのまま出てくる。数えてみると、特産品の層が厚い県と、登録が一件もない県がはっきり分かれていた。
国が登録した特産品は170産品、最多は熊本県と北海道
農林水産省が公開しているGI登録産品一覧は、令和8年7月10日現在で登録番号が第179号まで進んでいる。このうち国内の産品は170で、登録を取り消された消除分が3件、海外から登録された産品が6件という内訳になる。同省の制度説明資料も同じ日付で「全国170産品」と記している。
170のうち169は特定の都道府県に紐づいており、残る1件は産地を全国とする「日本茶」である。第179号として令和8年7月10日に登録された新しい枠で、同じ日に浜名湖うなぎと加賀れんこんも入った。制度が始まった平成27年12月22日の第1号はあおもりカシス、但馬牛、神戸ビーフ、夕張メロンなど7産品で、10年半で24倍を超える規模になっている。
都道府県別で最も多いのは熊本県と北海道の11件である。熊本県はくまもと県産い草とその畳表、くまもとあか牛、八代特産晩白柚、やまえ栗など、農産物から加工品まで幅が広い。北海道は夕張メロン、今金男しゃく、十勝ラクレット、浜中養殖うに、令和8年3月に加わった北海道米といった顔ぶれだ。次が鹿児島県と岩手県の9件、青森県と福島県の7件、秋田県と兵庫県の6件と続く。
埼玉・千葉・神奈川は登録が一件もない
一覧を上から下まで見ても、埼玉県、千葉県、神奈川県の名前は出てこない。この3県にはGI登録産品が一件もない。首都圏の近郊農業は出荷量の面では存在感があるので、生産の規模と登録の有無は別の話だということになる。
| 都道府県 | 登録数 | 登録されている産品の例 |
|---|---|---|
| 熊本県 | 11 | くまもとあか牛、八代生姜、やまえ栗 |
| 北海道 | 11 | 夕張メロン、十勝若牛、北海道米 |
| 鹿児島県 | 9 | 鹿児島黒牛、種子島安納いも、枕崎鰹節 |
| 岩手県 | 9 | 前沢牛、浄法寺漆、岩手木炭 |
| 青森県 | 7 | あおもりカシス、大鰐温泉もやし |
| 福島県 | 7 | 南郷トマト、伊達のあんぽ柿 |
| 兵庫県 | 6 | 但馬牛、神戸ビーフ、揖保乃糸 |
| 沖縄県 | 5 | 琉球もろみ酢、沖縄黒糖 |
| 埼玉県・千葉県・神奈川県 | 0 | ― |
分布の形も偏っている。0件が3県、1件だけの県が9つ、2件が7つで、半数近くの県が3件以下にとどまる。6件以上あるのは8県しかない。登録は生産者側からの申請がなければ始まらない仕組みなので、件数は産物の豊かさよりも、申請をまとめる団体が地域にあるかどうかを映している。名前の知られた産品を抱えていても、登録に動く主体がいなければ数字には出てこない。
登録に必要なのは「おおむね25年の生産実績」
なぜ申請がそう簡単に進まないのか。要件を並べると理由が見えてくる。制度の根拠は平成26年法律第84号の地理的表示法で、登録されるには、生産地ならではの自然的要因や人的要因と結びついた特性があり、その特性を備えた状態でおおむね25年以上の生産実績があることが求められる。国内外での知名度などを考慮して短縮される場合もあるが、原則は四半世紀である。
申請できるのは生産行程を管理する生産者団体で、法人格は問われない。地域のブランド協議会のような形でも申請主体になれる。ただし加入の自由を規約に定め、生産行程管理業務規程を作り、それを実行するための経理と人員体制を持っていることが条件に入る。登録免許税は9万円で、更新料はかからない。
対象になるのは食用の農林水産物と飲食料品のほか、政令で指定された13品目の非食用品である。岩手木炭や浄法寺漆、畳表が登録されているのはこの枠によるもので、精油、生糸、竹材、観賞用の植物なども含まれる。一方、酒類、医薬品、医薬部外品、化粧品、再生医療等製品は対象外だ。日本酒や焼酎の産地表示は国税庁が別の制度で扱っている。
似た制度との違いは「誰が守るか」にある
地名と商品名を組み合わせた名称を守る方法は、GIのほかに地域団体商標制度がある。どちらも名称を保護するが、設計思想が違う。GIは産品の生産方法の基準そのものを国に登録し、不正な表示を行政が監視して取り締まる。登録団体が訴訟を起こさなくても国が動く点が特徴になる。
地域団体商標は商標権として地域団体の財産になり、監視と権利行使は権利者が自分で行う。損害賠償を請求できる代わりに、見つけて動くコストは自前で負う。対象も、GIが農林水産物と飲食料品等に限られるのに対し、商標はすべての商品とサービスに及ぶ。申請主体はGIのほうが広く、商標は事業協同組合や商工会など特定の組織に限られる。
両方を組み合わせて使うこともできる。産品の基準を固めて国に守ってもらいたいならGI、名称の使い方を自分たちの裁量で変えていきたいなら商標という選び方になる。地域ブランドづくりの全体像は地域ブランドとは?地理的表示と成功事例・作り方5ステップを解説で整理しており、産品そのものを探すなら【47都道府県】特産品一覧|地方別の有名グルメと入手方法を総まとめのほうが使いやすい。
EUと英国で守られる日本側110産品
登録の効き目が最もはっきり出るのは海外である。日EU・EPAなどの相互保護の枠組みにより、2026年3月時点でEU側は121産品、英国側は59産品が日本で保護され、逆にEUと英国で保護される日本側の産品は重複を除いて110ある。相手国の当局が取り締まるため、現地で裁判を起こさなくても模倣品を排除できる。
農林水産省は世界の主要な約180のショッピングサイトを監視しており、GI名称の不正使用が疑われる出品について運営会社に削除や修正を求めてきた。これまでに800件以上が削除されている。ドイツの店頭でニュージーランド産やオーストラリア産の牛肉に神戸を思わせる表示が付いていた事例では、日本の要請を受けてEU当局が事業者を取り締まった。インドネシアで鹿児島黒牛、ベトナムで市田柿、中国ですんきの名称を第三者が商標出願した件は、いずれも当局が登録を拒絶している。
国内の取引でも数字は動く。宮城県のみやぎサーモンは登録後に認知度が上がり、売上価格が登録前の2倍以上になった。長野県の市田柿は中国産との差別化を狙ってGIを取得し、2024年の輸出額が2016年比で4.5倍に伸びた。福井県の吉川ナスは百貨店や都内のミシュラン掲載店との取引が始まり、道の駅のバーガーが観光客を呼ぶ看板商品になっている。産品を売り場から探す道筋は特産品の直売所ガイド|道の駅との違い・おすすめ5選・買い方のコツを解説にまとまっている。
よくある質問
GIに登録された特産品はどこで確認できるか。農林水産省の登録産品一覧が都道府県別と登録番号順の両方で公開されており、PDFでもダウンロードできる。登録年月日と明細書も産品ごとに見られるので、どの範囲の産地が対象なのかまで確認できる。
登録数が多い県の産品は品質が高いということか。そうは言えない。件数は申請があって初めて増えるもので、品質の順位付けではない。登録されていない名産品は全国に無数にあり、埼玉県や千葉県に優れた産物がないという話にもならない。件数は地域で申請をまとめる体制の有無を示す指標として読むのが正確だ。
登録が取り消されることはあるのか。ある。一覧には消除として3件が掲載されており、登録番号は第15号、第27号、第33号である。生産行程管理業務が適切に行われない場合など、法律の定めに従って登録の取消しが行われる。登録は取ればそれで終わりという制度ではない。
学生が地域の特産品に関わる入口はあるか。GI登録を目指す団体は生産行程の記録や販路づくりに人手を必要としており、商品開発やPRの部分は外から関われる余地が大きい。FLASPOのように学生が地域のプロジェクトに短期で入る形なら、登録産品の背景にある生産現場を実際に見てから動ける。まずは自分の関心がある県に何が登録されているかを一覧で確かめるところからでよい。
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