移住のデメリットを先に知る|仕事・車・買い物と地域の付き合い

移住のデメリットを先に知る|仕事・車・買い物と地域の付き合い

移住の相談窓口で最後に聞かれるのは、たいてい良い面ではなく困る面のほうである。自然が豊かで家賃が安いという話はすでに十分に届いていて、知りたいのはその先にある生活の手数だ。ここでは公的な統計で裏の取れる不便だけを並べる。心構えの話ではなく、家計と時間割に跳ね返る具体を先に見ておきたい。

ためらいの理由には、はっきりした順番がある

内閣官房が令和2年9月にまとめた東京圏、地方での暮らしや移住及び地方への関心に関する意識調査は、東京圏に住む人が地方へ動けない理由を順位づけている。最も多かったのは求めている業種や職種の働き口が見つからないことで39.4パーセント。次が買い物や交通などの生活利便性が低いことで35.6パーセント、三番目が現在と比べて賃金が安くなることで34.2パーセントだった。

同じ調査で、どういう条件が揃えば移ってもよいと思うかを聞くと、希望する仕事があることが48.9パーセント、納得できる給与水準の仕事があることが48.5パーセント、生活利便性が充実することが32.6パーセントとなる。障壁として挙がった項目と、条件として求められた項目の並びがほぼ一致している。つまり不安の中身は漠然としたものではなく、職と収入と日常の足という三点に集中している。

性別による差も出ている。女性は男性と比べて、買い物や交通の利便性が低いこと、そして同居する家族や親族の事情で東京圏を離れにくいことを挙げる割合が、いずれも10ポイントほど高い。世帯で移る場合、一人が納得していても全員の条件が揃うとは限らない。仕事の探し方そのものは移住後の仕事を見つける5つの方法をまとめた記事で確かめられる。

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車が前提の生活圏に入るという変化

生活利便性という言葉を具体に落とすと、まず移動手段の話になる。自動車検査登録情報協会が公表した都道府県別の自家用乗用車普及状況によれば、令和7年3月末時点で世帯当たりの普及台数は全国平均1.009台。この数値は12年続けて下がっているが、地域差は縮んでいない。

上位は福井県の1.670台、山形県の1.617台、富山県の1.616台、群馬県の1.558台、栃木県の1.537台と続く。一世帯に1台を超えているのは39県にのぼる。対して東京都は0.405台で、1台に満たない都道府県のなかでも最も低い。東京で暮らしていた世帯が上位の県へ移ると、世帯に1台ではなく大人ひとりに1台という前提に切り替わることが、この数字から読める。

地域 世帯当たり普及台数 生活への跳ね返り
福井県 1.670台 通勤と送迎で世帯に複数台が要る
山形県 1.617台 冬季は除雪と車両の維持費が上乗せ
群馬県 1.558台 最寄り駅まで車でという移動が標準
全国平均 1.009台 おおむね一世帯に1台
東京都 0.405台 車を持たない世帯のほうが多い

家賃が下がった分がそのまま浮くと考えていると、ここで計算が狂う。車両本体のほかに、任意保険、車検、税金、燃料、駐車場、冬用タイヤ。二台目が必要になれば、その一式がもう一度かかる。移住先を決める前に、通勤と買い物と通院の三つの経路を地図上で引いて、公共交通で完結するかどうかを確かめておきたい。

買い物と通院の距離は、歳を重ねてから効いてくる

車があるうちは問題にならない距離が、運転をやめた途端に壁になる。農林水産省は店舗まで500メートル以上あり、かつ自動車を持たない65歳以上の人を食料品アクセス困難人口として推計している。公表された2020年の数値では全国で904万人にのぼり、65歳以上人口の25.6パーセントにあたる。

さらに細かく見ると、75歳以上では566万人で、同じ年齢層の31.0パーセント。困難人口全体のうち75歳以上が占める割合は63パーセントに達する。これは過疎地に限った話ではなく、郊外の住宅地でも起きている現象だが、店舗の密度が低い地域ほど早く訪れる。市町村への調査では、回答した自治体の89.7パーセントが対策の必要を認識していた。

20代や30代で移る人にとっては遠い話に見えるかもしれない。ただし移住は自分の老後だけでなく、あとから呼び寄せる親の生活も含む判断になることが多い。候補地を見るときは、最寄りのスーパーと総合病院までの距離、そして路線バスの本数と最終便の時刻を控えておくと、十年後の見通しが立てやすい。

役割が回ってくる速さと、断りにくさ

統計に出にくいが、実際に負担として語られることが多いのが地域の役回りである。人口が減った集落では、消防団、自治会の役員、祭りの準備、水路や里道の管理といった仕事の量がほとんど変わらないまま、担う人数だけが減っている。そこに働き盛りの世帯が入れば、着任して間もなく複数の役が重なることは珍しくない。

この負担が一概に悪いわけではない。役を引き受けたことで顔が広がり、仕事や住まいの情報が回ってくるという面は確かにある。問題は、どの程度の関与が求められるかが移住前にほとんど分からないことだ。自治会費の額、年間の行事の回数、当番の頻度。この三つは事前に聞けば答えが返ってくる種類の情報なので、遠慮せずに確かめておきたい。

地域おこし協力隊の実績も参考になる。総務省の集計では、直近5年間に任期を終えた8,034人のうち約68.9パーセントが同じ地域に定住した。裏を返せば、三年の関わりを経てなお3割の人はその土地を離れている。相性が合わないこと自体は失敗ではなく、事前に確かめきれない要素があるという前提で臨むほうが、結果として無理のない選択になる。

不便を減らすための、移る前の手順

ここまでの三つは、いずれも現地で数日を過ごせば輪郭がつかめる種類の不便である。平日の朝に通勤経路を実際にたどる。スーパーの閉店時刻に行ってみる。雨の日にバスを待ってみる。観光として訪れたときの印象と、生活者として過ごしたときの印象がどれだけ離れるかは、やってみないと分からない。短期の滞在や地域での体験を挟む方法は、FLASPOのような仕組みを使うと組み立てやすい。

費用の面では、使える制度を先に確かめておくと判断が変わる。要件を満たせば受け取れる移住支援金や、自治体独自の住宅取得補助がある。金額の大きさで移住先を決めるのは順番が逆だが、候補が二つに絞れた段階では効いてくる。条件と申請の流れは移住支援金の要件を整理した記事にまとまっている。

住まいについては、安さだけで選ぶと修繕費で逆転することがある。空き家を扱う仕組みは自治体ごとに整備が進んでいるものの、物件の状態は個別に見るしかない。断熱、給排水、屋根。この三つは見積もりを取ってから契約したい。制度そのものの仕組みは空き家バンクの利用方法をまとめた記事で把握できる。

よくある質問

収入はどのくらい下がると考えておけばよいでしょうか。地域と職種によって幅が大きく、一律の目安を置くのは難しい。確実なのは、調査で3割を超える人が賃金の低下を障壁に挙げているという事実である。候補地の求人を実際に十件ほど見て、自分の職種の提示額を確かめるほうが、平均値を探すより早い。

車の免許を持っていない場合、移住は難しいですか。鉄道やバスの便がある中心市街地を選べば成り立つ。ただし世帯当たり普及台数が高い県ほど、駅から離れた物件は車を前提に設計されている。免許がないなら、候補地を最初から公共交通で完結する範囲に絞ったほうが、あとで悩まずに済む。

地域の付き合いが苦手でも大丈夫でしょうか。集落の中心部と、市街地のマンションや分譲地では求められる関与がまったく違う。同じ市内でも地区によって差があるため、住む場所を決める前に自治会の規約と年間行事を見せてもらうとよい。合わない環境を無理に選ぶ必要はない。

移住してから合わないと分かったら、どうすればよいですか。戻るという選択肢を最初から持っておくと、判断が軽くなる。賃貸から始める、前の住居をすぐには手放さない、副業や遠隔の仕事を残しておく。退路を確保したうえで踏み出すほうが、結果的に長く住み続けられることが多い。


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