「家賃が月5万円の町なら、安く移れますよね」。移住の相談で何度も出てくる言い方である。月の家賃と、入居するまでに出ていく金は別の性質を持つ。契約の日に一度だけ動く金のほうが、月々の負担よりも移住の可否を決めてしまうことが多い。しかもこの一時金は、金額ではなく「家賃の何か月分か」という形で決まる。国土交通省の調査と、報酬の上限を定めた告示を並べると、積み上げの手順がはっきりする。
契約時の費用は、全員に出るわけではない
最初に確かめたいのは、よく名前の挙がる費目が本当に発生するのかという点である。国土交通省の令和7年度住宅市場動向調査は、民間賃貸住宅に入居した世帯に契約の中身を聞いている。そこでは、費目ごとに「あった世帯」の割合が出ている。
| 費目 | あった世帯の割合 | 最も多かった月数 | その割合 |
|---|---|---|---|
| 敷金・保証金 | 51.9% | 1か月ちょうど | 64.4% |
| 礼金 | 43.1% | 1か月ちょうど | 73.4% |
| 仲介手数料 | 48.0% | 1か月ちょうど | 69.7% |
| 更新手数料 | 44.4% | 1か月ちょうど | 69.7% |
月数を金額に直す目安も同じ調査から取れる。民間賃貸住宅に入居した世帯の月額家賃は平均83,381円、中央値74,000円で、共益費が平均4,837円だった。調査地域は首都圏、中京圏、近畿圏なので、地方の家賃はこれより低い。家賃1か月分という単位は、移る先の相場に掛け算すればそのまま実額になる。
どの費目も、発生したのは半数前後である。敷金のない物件が4割以上あり、礼金は6割近くの世帯で発生していない。つまり「敷金2か月、礼金1か月、仲介1か月」をいつも足すと、過大な見積もりになる。逆に、発生した場合は1か月ちょうどに集まる。70パーセント前後が1か月なのだから、費目ごとに「出るか出ないか」を物件ごとに確かめ、出るなら家賃1か月分を置く、という積み方が実際に近い。
仲介手数料には法律で上限がある
四つの費目のうち、ひとつだけ上限が法令で定まっている。宅地建物取引業法第46条にもとづく国土交通省の報酬額の告示は、貸借の媒介について、貸主と借主の双方から受け取れる報酬の合計を「借賃の1か月分の1.1倍に相当する金額以内」と定めている。消費税相当額を含んだ額としての上限である。
さらに居住用の建物では、依頼者の一方から受け取れる額が「借賃の1か月分の0.55倍」以内と決められている。ただしこれには例外があり、依頼を受けるにあたって承諾を得ている場合は1.1倍まで受け取れる。実務では契約前に承諾を取る形が多いため、借主が1か月分を負担する例は珍しくない。知っておくと、提示された額が上限の内側かどうかを自分で判断できる。
同じ告示は、報酬以外の名目で金を受け取ることを禁じてもいる。依頼者の依頼によって行った広告の料金だけが例外で、それ以外の「事務手数料」のような上乗せは認められない。見積書に見慣れない費目が並んでいたら、何に対する対価なのかを聞いてよい。
空き家を借りるときは上限の線が動く
移住先で空き家を使う場合、同じ告示の別の規定が働く。2024年7月から施行された特例で、長期の空き家等の貸借を仲介したときは、双方からの報酬の合計を「借賃の1か月分の2.2倍」まで受け取れるようになった。長期の空き家等とは、長期間にわたって住居や事業に使われておらず、将来も使われる見込みがない宅地や建物を指す。
上限が上がったのは、仲介に手間がかかるからである。所有者の確認、境界の調査、傷みの説明にかかる労力は、都市の賃貸物件とは比べものにならない。ただし借主の側の負担には歯止めがあり、借主から受け取れる額は1.1倍まで、居住用なら承諾がない限り0.55倍までとされている。上積みは主に貸主の側が負う形になる。
買う場合にも似た特例がある。売買代金が800万円以下の「低廉な空き家等」では、媒介の報酬の上限が30万円の1.1倍、つまり33万円までとされた。安い家ほど通常の料率では報酬が小さくなり、取引そのものが成立しなくなる。そのための手当てだが、買主から見れば予算に乗る費用である。空き家の現状は空き家の現状と統計|900万戸・空き家率13.8%が示す日本の住宅にまとめている。
買って移るなら、頭金が初期費用になる
住まいを取得する選択をすると、初期費用の意味が変わる。契約時の一時金ではなく、自己資金として先に用意する額が「最初に動かす金」になるからだ。同じ住宅市場動向調査では、中古の戸建を買った世帯の購入資金が平均2,966万円で、そのうち自己資金が1,130万円、自己資金比率は38.1パーセントだった。中古の集合住宅では平均3,321万円に対し自己資金1,329万円、40.0パーセントである。
自己資金の中身として最も多かったのは、預貯金と有価証券の売却代金、退職金だった。借入の相手は、民間の金融機関がフラット35以外の商品で最も多い。注意したいのは、この調査の既存住宅の数字が三大都市圏で集められている点である。地方で同じ比率が求められるとは限らないが、総額の4割前後を現金で見ておくという考え方は目安になる。
賃貸と取得のどちらが初期費用を抑えられるかは、住む年数で逆転する。短く試すなら借りるほうが軽く、腰を据えるなら取得して家賃の支払いを止めるほうが総額で下がりうる。判断の分かれ目は二地域居住の住まいの選び方|借りる・買う・都度借りるの分かれ目に整理した。
支援金は後から来るので、立替の分を残す
積み上げた初期費用のうち、いくらかは後から戻る。地方創生移住支援事業の支援金は、世帯で100万円以内、単身で60万円以内、18歳未満の世帯員を帯同するなら1人につき最大100万円の加算がある。額は都道府県が設定する。
問題は時期である。内閣官房と内閣府の地方創生移住支援事業の案内によれば、申請の条件は「転入後1年以内」であり、申請後5年以上その市町村に住み続ける意思も求められる。転入を済ませてからの手続きなので、敷金や引っ越し代の支払いには間に合わない。さらに申請から5年以内に転出すると返還の対象になる。
したがって資金計画では、支援金を初期費用の財源に数えないほうがよい。契約と引っ越しに必要な額は全部自分で用意し、支援金は移った後の予備費として扱う。要件の細部は移住支援金とは?最大100万円の条件・申請方法・活用事例を解説で確かめられる。FLASPOに届く相談でも、交付を待つ間の現金が足りずに動けなくなる例がある。
よくある質問
初期費用は家賃の何か月分を見ればよいか。発生率を踏まえると、敷金と礼金と仲介手数料がそろって出た場合は3か月分前後になる。ただし三つがすべて発生した世帯は多数ではない。物件ごとに有無を確かめ、出る費目だけを1か月分ずつ足すのが現実的である。
仲介手数料が家賃1か月分を超えて請求された。通常の賃貸なら上限を超えている可能性が高い。告示では双方合計で1.1倍までと定められているため、内訳の説明を求めてよい。空き家の特例が使われている物件では2.2倍まで認められるが、その場合でも借主の負担には別の上限がある。
敷金は戻ってくるのか。退去時の精算で、原状回復に必要な費用を差し引いた残りが返る。全額が戻る前提で資金計画を組むのは避けたい。入居のときに室内の傷みを写真に残しておくと、精算の話し合いが短くなる。
空き家バンクの物件なら仲介手数料はかからないか。かかる場合がある。自治体が所有者と利用希望者をつなぐだけの仕組みでも、契約の手続きを宅地建物取引業者が担えば報酬が発生する。手数料の有無と負担者を、申し込みの前に確かめておきたい。
家賃の支払いはいつから始まるのか。契約で定めた入居日からで、月の途中なら日割りになる例が多い。前の住まいの退去日と重なると、二重に家賃を払う月ができる。重複を1か月と見込んでおくと、資金計画が崩れにくい。
引っ越し代はどこに入れるのか。初期費用の一部として、契約時の一時金とは別の行に置く。距離と荷物の量で動くため、2社以上の見積もりを取ってから数字を入れる。家具を運ばずに買い替える判断をするなら、運送費と購入費を並べて比べたほうが安く収まることもある。
アイデアコンテストプラットフォーム「FLASPO」

アイデア1つで、地域や企業とつながれる。
FLASPOは、全国の自治体・企業が開催する若者向けアイデアコンテストのプラットフォームです。
地域や企業が抱える課題に対して、あなたのアイデアで解決策を提案できます。
賞金やユニークな地域体験が獲得できるコンテストも多数。誰でも参加無料・オンライン完結で挑戦できます。
