入社して3年のうちに、3人に1人が職場を離れている
進路を決めるとき、手元にある材料は求人情報と先輩から聞いた話にかたよりがちだ。そこには、同じ会社に入った人がその後どうなったかという情報が入っていない。厚生労働省が2025年10月24日に公表した新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)によると、令和4年3月に大学を出て就職した人のうち、3年以内に離職した割合は33.8パーセントだった。高校卒では37.9パーセントで、前年の卒業者と比べると大卒は1.1ポイント、高卒は0.5ポイント下がっている。
3年のうちに3人に1人が職場を変える。この数字が示しているのは、進路選びを一度きりの正解探しとして扱うと設計を間違えるということだ。一度で当てるのではなく、手元の条件を並べて、動かせるものと動かせないものを見分けておく。その棚卸しに使える道具が、強み・弱み・機会・脅威の4区分で整理するSWOT分析である。枠組み自体の説明はSWOT分析とは?4つの要素と基本の意味をわかりやすく解説にまとめてあるので、ここでは若者が自分の進路に当てるときに詰まる場所を中心に見ていく。
離職率は、就職先の規模によってはっきり差が出る。同じ資料に載っている大学卒業者の内訳は次のとおりだ。
| 就職先の事業所規模 | 3年以内離職率(大卒) | 前年の卒業者との差 |
|---|---|---|
| 5人未満 | 57.5パーセント | 1.6ポイント低下 |
| 5〜29人 | 52.0パーセント | 0.7ポイント低下 |
| 30〜99人 | 41.9パーセント | 0.5ポイント低下 |
| 100〜499人 | 33.9パーセント | 1.3ポイント低下 |
| 500〜999人 | 31.5パーセント | 1.4ポイント低下 |
| 1,000人以上 | 27.0パーセント | 1.2ポイント低下 |
4つのマスは「自分の中」と「自分の外」で線を引く
4つの枠を前にして最初に手が止まるのは、どの話をどこに書くかという判断だ。線の引き方は単純で、自分の努力や選択で変えられるものが強みと弱み、自分がどうしようと変わらないものが機会と脅威になる。
よくある取り違えを2つ挙げる。1つは「大手に入りたい」を機会の欄に書いてしまう例だ。これは希望であって外の条件ではないから、置き場所がない。もう1つは「人と話すのが苦手」を脅威に入れてしまう例で、これは自分の中にある話なので弱みに移る。迷ったときは、その項目の主語が自分かどうかを声に出して確かめるとよい。主語が自分なら内側、主語が業界や制度や人口なら外側だ。
実際に仕分けてみる。「アルバイト先で新人への教え方を手順書にした」は自分がやったことなので強み、「数字を見るのが億劫で家計簿が続かない」は自分の癖なので弱みに入る。「志望する地域で移住相談の窓口が増えた」は制度側の動きなので機会、「就職先として考えていた業種の求人が減っている」も自分の外で起きていることなので脅威になる。4項目のうち前半2つには打ち手を、後半2つには身構え方を考える、という順で手が動き出す。
線引きを雑にしたまま先へ進むと、あとで打ち手を考える段で行き詰まる。弱みは練習や環境の選び方で埋められるが、脅威に対してできるのは避けるか備えるかの二択しかない。打てる手の種類が違うので、最初の仕分けがそのまま結論の質に出てくる。
強みは自己PRの言い換えではなく、再現できた行動で書く
強みの欄に「責任感がある」「協調性がある」と書き並べたところで、そこから次の行動は出てこない。評価の言葉ではなく、実際に自分が繰り返せた行動を書くほうが使える。
手がかりになるのは、経済産業省が2006年に示した社会人基礎力という整理だ。「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力と、その下の12の能力要素に分けられている。たとえば「考え抜く力」は、現状を分析して課題を明らかにする課題発見力、解決までの道筋を描いて準備する計画力、新しい価値を生み出す創造力の3つに分かれる。
この粒度まで落とすと、書き方が変わる。「文化祭の来場者数が前年より少ないと気づいて、告知の方法を変えた」のように、どの能力要素をどんな場面で使ったかという形になる。弱みも同じ扱いができる。「計画力が弱い」ではなく「締め切りの2日前まで手をつけられなかった回数が3回あった」と書けば、次に何を変えるかがその場で見える。個人への当てはめ方をもう少し見たい場合はSWOT分析の事例5選|企業・地域・個人への応用をわかりやすく解説が参考になる。
外部環境は口コミではなく、公表されている統計で押さえる
機会と脅威の欄を埋めるとき、材料が知り合いの体験談だけだと、たまたま聞こえた話が全体像のように見えてしまう。ここは公表されている数字を先に置いたほうがよい。
同じ厚生労働省の集計には、産業ごとの離職率も出ている。大学卒業者では、宿泊業・飲食サービス業が55.4パーセント、生活関連サービス業・娯楽業が54.7パーセント、教育・学習支援業が44.2パーセント、医療・福祉が40.8パーセント、小売業が40.4パーセントと高い。一方で前の表のとおり、1,000人以上の事業所は27.0パーセントにとどまる。
ここで気をつけたいのは、離職率の高さを「悪い業界」と読み替えないことだ。人の出入りが速い構造の仕事は、それだけ早く任されることもあり、未経験から入りやすいことも多い。同じ数字が、ある人には脅威に、別の人には機会に見える。だから機会と脅威の欄は、数字をそのまま写すのではなく、自分の条件に照らして「どちらに働くか」を一言添えて書く。この一言が、後の判断を支えることになる。
4つを埋めて終わりにせず、掛け合わせて行動に変える
マスが埋まった時点では、まだ材料が並んだだけだ。進路の話にするには、内側と外側を掛け合わせて打ち手を出す。強みと機会の組み合わせでは、伸びている領域に自分の得意をそのままぶつける。弱みと機会の組み合わせでは、せっかくの好機を取りこぼさないために何を補うかを決める。強みと脅威なら、厳しい条件の中で自分の得意が効く場所を探す。弱みと脅威の組み合わせは、無理に挑まず距離を取る判断になる。
打ち手には必ず期限と確かめ方をつける。「秋までに3社のインターンに申し込み、終わったら面談で聞かれた質問を書き出す」という形まで書けば、半年後に合っていたかどうかを自分で検証できる。分析から計画への橋渡しはSWOT分析と戦略立案の関係|分析結果を実行計画に変える方法でも扱っている。
地域や仕事に関わりながら進路を試す場をつくる取り組みは各地で広がっていて、FLASPOもそうした入口のひとつとして使える。4つのマスに書いたことを現場で確かめると、机の上では強みに見えていた項目の順番が入れ替わることがある。
よくある質問
どのくらいの間隔で書き直すのがよいか。外側の条件が動いたときと、学年が変わるときの2つが目安になる。半年に1度ほど見直すと、前の自分が何を見落としていたかが分かる。前に書いた紙は捨てずに残しておくと、変化そのものが材料になる。
弱みが1つも思いつかないときはどうするか。他人に聞くのが早い。自分では当たり前にやっていることが強みで、気づかないうちに避けていることが弱みなので、どちらも本人からは見えにくい。親や先輩に「頼みにくいと感じる場面」を聞くと、具体的な言葉が返ってくることが多い。
高校生が使っても意味はあるか。ある。むしろ進学先を選ぶ段で一度やっておくと、学部名や偏差値以外の判断材料が増える。文部科学省の平成29・30・31年改訂学習指導要領では、知識や技能に加えて思考力・判断力・表現力等を育てることが柱として掲げられており、この種の枠組みを使う練習は授業の中身とも地続きだ。
企業向けの枠組みを個人に当てて無理はないか。もともと事業の環境分析から広まった道具なので、そのまま流用すると「市場」や「競合」の欄で手が止まる。自分の場合は、市場を進みたい分野、競合を同じ枠を狙う人たち、と読み替えれば済む。読み替えの対応をメモしておくと、2回目からは迷わない。
4つのマスを埋めても結論が出ないときは。選択肢が足りていない可能性が高い。手元の2択で迷っているなら、その2つの外にある道を3つ書き出してから、もう一度4区分に戻る。並べる材料が増えると、それまで見えなかった組み合わせが出てくる。
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