選考で見られているものを、順番に並べ替えてみる
エントリーシートに書ける資格が一行もない。この焦りは、就職活動の初期にほぼ全員が通る。落ち着くために必要なのは励ましではなく、採用する側が何をどの順で見ていると答えているかという事実のほうだ。厚生労働省の令和5年若年者雇用実態調査は、若年正社員の採用選考をした事業所に、重視した点を複数回答でたずねている。
新規学卒者について選考を行った事業所は、該当する採用があった事業所のうち79.4パーセント。その回答を高い順に並べると、資格が置かれる位置がはっきりする。免許や資格は「業務に役立つ専門知識や技能」の欄に含まれ、語学力も同じ欄に入る。
| 選考で重視した点 | 新規学卒者 | 中途採用者 |
|---|---|---|
| 職業意識・勤労意欲・チャレンジ精神 | 79.3% | 72.7% |
| コミュニケーション能力 | 74.8% | 66.9% |
| マナー・社会常識 | 58.6% | 58.1% |
| 組織への適応性 | 53.2% | 51.8% |
| 体力・ストレス耐性 | 36.2% | 31.4% |
| 専門知識や技能(資格・免許や語学力) | 30.4% | 34.8% |
| 柔軟な発想 | 29.3% | 22.9% |
| 学歴・経歴 | 22.4% | 23.1% |
| 従順さ・会社への忠誠心 | 20.1% | 20.3% |
| 業務に役立つ職業経験・訓練経験 | 14.7% | 42.3% |
学歴の欄より上に置かれている、という読み方
表を上から下へたどると、資格が入る欄は十項目のうち六番目にある。三割という数字だけを見れば控えめだが、並びの中では意味が変わる。すぐ下にある学歴・経歴は22.4パーセントで、資格の欄より八ポイント低い。大学名で勝負が決まるという前提を持ったまま就職活動を始める人は多いが、事業所の回答はそう答えていない。
この順番からもうひとつ言えるのは、資格を取らない選択が致命傷にはなりにくいということだ。上位の四項目はいずれも五割を超え、資格の欄の倍近い水準にある。持っていないことを埋めるより、上位に並ぶものを手当てするほうが、同じ時間で効く範囲が広い。逆に、必須条件として資格名が書かれた求人に出すのであれば、その一行がないかぎり先へ進めない。全体の平均が三割でも、職種ごとに見れば十割か零割に寄るのが普通である。
十年で下がった欄と、上がった欄がある
同じ調査は平成25年、平成30年、令和5年と続いているので、各欄の動きを追える。新規学卒者で見ると、専門知識や技能の欄は33.4パーセント、31.5パーセント、30.4パーセントと少しずつ下がってきた。マナー・社会常識も63.8パーセントから58.6パーセントへ、学歴・経歴は26.0パーセントから22.4パーセントへ落ちている。
上がったのはコミュニケーション能力で、67.0パーセント、71.1パーセント、74.8パーセントと十年で八ポイント近く伸びた。体力・ストレス耐性も35.3パーセントから36.2パーセントへわずかに上向いた。採用の重心が、持っているものの確認から、入ってからやっていけるかの見立てへ移ってきたと読める変化だ。
この流れを踏まえると、資格を取る時期の決め方も変わる。選考が本格化してから慌てて申し込むのではなく、学年の早い段階で終わらせ、残りの時間を人と話す場に回す。説明会や選考の開始が前へ動いている事情は新卒就活の早期化を扱った回で整理した。試験日程と選考日程が重なると、どちらも中途半端になる。
同じ資格が、業種と規模で効き方を変える
平均の三割は、どこでも三割という意味ではない。過去一年間に若年労働者を正社員として採用した事業所の割合を産業別に見ると、金融業・保険業が56.2パーセント、情報通信業が53.1パーセント、学術研究・専門技術サービス業が43.7パーセント、電気・ガス・熱供給・水道業が43.0パーセントと高く、宿泊業・飲食サービス業は25.2パーセント、サービス業の分類されないものは26.4パーセントにとどまる。
規模の差はさらに大きい。従業員1,000人以上では96.3パーセント、300から999人で87.6パーセント、100から299人で76.8パーセント、30から99人で56.5パーセント、5から29人では27.9パーセントだった。採用そのものを毎年行っているかどうかが規模で決まるので、資格を評価する枠組みが整っているかどうかも、おのずと分かれる。
採用の頻度が低い事業所では、選考の設計そのものが毎年組み直される。前の年に資格を見た担当者が今年は別の部署にいることもあり、評価の基準が人に付いて動く。そういう場では、書いた資格が何の役に立つのかを自分の言葉で補わないと、読み手にそのまま伝わらない。
志望先が小さな事業所なら、資格名よりも、その人が入って何をできるかの説明が前に出る。規模の大きな企業では、応募が多い分だけ形式的なふるい分けが入り、必須条件の記載が実際に働く。どちらに出すのかで、準備に割く比重を変えたい。
上位の欄に翻訳できた資格だけが、紙の上で残る
三割の欄に置かれた資格を、八割の欄へ移し替える作業が最後に残る。合格したという事実は専門知識の欄に入るが、その準備をどう組み立てたかは職業意識や勤労意欲の欄に入り、誰と学び誰に教わったかはコミュニケーション能力の欄に入る。同じ一つの出来事を、評価される側の言葉に置き換える手間を惜しまないほうがよい。
書き方の型はガクチカの資格編にまとめてあり、企業が新卒に見ている79.3パーセントの欄の中身は自己分析の目的を扱った回で分解した。両方に共通するのは、結果ではなく過程に言葉を与えるという点である。
翻訳の材料は、受験の最中にしか手に入らない。模試の点がどこで止まったか、何をやめて時間を作ったか、落ちた回に何を変えたか。一行ずつ残しておけば、面接で聞かれたときに記憶を探らずに済む。地域で働く道を視野に入れているなら、FLASPOのような地域と人をつなぐ場で、現地の仕事が求める資格を先に確かめておくと、取る順番で迷わない。
よくある質問
資格が一つもないと、やはり不利になりますか
専門知識や技能の欄を重視する事業所は新規学卒者で30.4パーセントなので、残りの七割は別の材料で見ている。ただし求人票の必須条件に資格名があれば、そこだけは例外なく通らない。応募先の記載を先に確認するのが、不安を減らす最短の道になる。
数を増やすのと、一つを深く取るのではどちらがよいですか
並びを見るかぎり、採用側は資格の個数を数える欄を持っていない。三つ並べても欄はひとつ埋まるだけだ。志望する職種の必須条件に合うものを一つ押さえ、残りの時間を上位の四項目に回すほうが、同じ労力で届く範囲が広い。
語学の試験は資格とは別枠で見てもらえますか
この調査では、語学力は資格や免許と同じ欄にまとめられている。統計の上では別枠ではないという扱いだ。ただ海外取引のある職種では必須条件に点数が書かれることがあるため、志望先ごとの記載で判断したい。
中途採用のときは、資格の重みが変わりますか
専門知識や技能の欄は中途採用者で34.8パーセントと、新規学卒者より4.4ポイント高い。それ以上に動くのは職業経験・訓練経験の欄で、14.7パーセントから42.3パーセントへ三倍近く開く。経験を書ける段階に入ると、資格はその裏づけとして添える位置へ移る。
民間の検定でも、書く価値はありますか
欄の名前は専門知識や技能なので、国が設けた資格に限られていない。見られているのは名称の格ではなく、その職種の仕事に届くかどうかだ。志望先の業務に触れる内容であれば民間の検定でも並べてよく、関係が薄いものを数で足しても、同じ欄が埋まるだけで加点はされにくい。
在学中に取るとしたら、いつが現実的でしょうか
選考の開始が前倒しになっているため、学年が上がってからでは試験日程と重なりやすい。早い学年のうちに受験を終え、面接の時期には記録を見返すだけにしておくのが無理のない配分になる。
出典
厚生労働省「令和5年若年者雇用実態調査の概況」(事業所調査、複数回答)
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