訪日客が地方で困るのはバスと飲食店|4,110人の回答を読む

来てもらう設計で止まると、どこで落ちるか

地域の観光の計画書を読むと、前半は誘客の話で埋まっていることが多い。動画を出す、航空路線を誘致する、海外の商談会に出る。来た人がその先で何に詰まったかは、たいてい別の資料に分かれている。観光庁が令和8年4月に公表した受入環境のアンケートは、その後半を数字で押さえた調査である。

調査は成田・羽田・関西・福岡・新千歳の5空港で対面で行われ、令和7年11月から令和8年1月にかけて4,110件を回収している。回答者は20代と30代が約6割、訪日2回目以上のリピーターが約7割を占め、11回以上来ている人が13.7パーセントいた。日本を初めて見る人の声ではなく、慣れた人の声が中心になっている。

その4,110人のうち「困ったことはなかった」と答えたのは43.7パーセントだった。前年度の51.1パーセントから7.4ポイント下がっている。来訪者が増えた年に満足の側が下がったという並びは、誘客と受け入れの釣り合いが崩れていることを示す。

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困ったことの順位は、ごみ箱から決済へ移りつつある

項目ごとに見ると、最も多かったのはごみ箱の少なさで17.2パーセント。前年度の21.9パーセントからは減っており、1位でありながら差は縮んでいる。2位から5位は施設等のスタッフとのコミュニケーション、観光地や地域の混雑、交通機関の利用、多言語表示の少なさとわかりにくさが並び、いずれも前年度とほぼ同じ水準だった。

増えたのは下のほうの項目である。クレジットカードやデビットカードの利用が10.7パーセントで6位、入国手続きが10.3パーセントで7位に入り、どちらも割合が上がった。カード決済は令和5年度から、入国手続きは令和元年度から、困った割合の上昇が続いている。

順位の動き方には意味がある。ごみ箱や多言語表示のように設備で解ける項目は下がりやすい。対して決済や手続きのように事業者と制度をまたぐ項目は、看板を立てるだけでは動かない。残っているのは、お金をかければ済む種類の課題ではなくなってきている。

地方だけを回った人は、困りごとが少ない

訪問先を都市部と地方部で分けた集計が、この調査のいちばん意外な部分である。地方部のみを訪れた901人のうち「困ったことはなかった」と答えたのは50パーセント。都市部のみを訪れた1,487人では43パーセント、両方を訪れた1,722人では41パーセントだった。

観光地や地域の混雑で困った割合も、都市部を訪れた人のほうが地方部のみの人より高い。地方は受入環境が整っていないから満足度が低い、という前提は、少なくともこの調査では裏付かない。混雑が起きていない場所は、それ自体が受け入れの余裕として働いている。

ここから読めるのは、地方側の課題が「全般に遅れている」という形ではないということだ。泊まらずに通り過ぎる構造は訪日客の宿泊日数を扱った記事に、地方部の宿泊シェアは観光振興の事例を宿泊者数で読む記事にまとめた。来てからの詰まりは、もっと狭い場所で起きている。

詰まる場所は、地方と都市で入れ替わる

どの施設で困ったかを聞いた集計を並べると、地方と都市で順番が入れ替わる。交通機関で困ったと答えた人のうち、地方部のみを訪れた69人ではバスが42パーセントで最も多く、新幹線以外の鉄道が41パーセントで続いた。都市部のみの183人では新幹線以外の鉄道が73パーセントで、バスは23パーセントにとどまる。

困った項目 地方部のみを訪問した人 都市部のみを訪問した人
交通機関の利用 バス42%/新幹線以外の鉄道41%(n=69) 新幹線以外の鉄道73%/バス23%(n=183)
多言語表示 飲食店23%/その他小売店20%(n=93) 鉄道駅構内30%/飲食店23%(n=166)
カード決済 飲食店27%/百貨店等18%(n=88) 飲食店30%/その他小売店18%(n=152)

多言語表示では、地方部のみの93人が飲食店の23パーセントを挙げ、都市部のみの166人は鉄道駅構内の30パーセントを挙げた。カード決済はどちらも飲食店が1位で、地方部のみの88人では27パーセントに達する。地方で詰まるのはバスと飲食店、都市で詰まるのは駅という分かれ方になる。

全回答者をまとめた集計では、交通機関で困った465人のうち新幹線以外の鉄道が62パーセント、バスが30パーセント、新幹線が22パーセントだった。カード決済で困った440人では飲食店が32パーセントで最も多い。都市の利用者が多数を占めるため、全体の順位は都市側の形に近づく。地方の内訳は、この平均の裏に隠れる。

これらの内訳は、各項目で困ったと答えた人だけを母数にしているため、人数は数十から百数十にとどまる。順位の大小を細かく比べる使い方には向かない。ただ、困りごとの出る場所が地方では小さな事業者の側に寄るという向きは、どの項目でも共通している。

施策が外れるのは「来ない」より「渡せない」側である

同じ調査では、便利だと感じた項目も聞いている。多言語表示と公共交通の利用はどちらも92パーセント、カード決済と施設等のスタッフとのコミュニケーションは91パーセント、無料の公衆無線LANは80パーセントの人が、いずれかの都市で便利だったと答えた。整備が進んでいないという話ではない。

便利だと感じた理由まで見ると、誰が負担しているかが見えてくる。多言語表示では「対応されている場所が全般的に多かった」が86パーセント、カード決済では「利用可能な場所が多かった」が81パーセント。一方、施設等のスタッフとのコミュニケーションでは「英語または自分の言語を話せた」が66パーセント、「通訳機器や指さし会話シートを使えた」が51パーセントだった。設備ではなく、その場にいる人が受け止めている。

整った場所と詰まる場所が同じ国の中に併存している。駅や空港、大きな商業施設では通るのに、路線バスと個人の飲食店で止まる。この二つは、誘客の予算が届きにくい相手でもある。動画や商談会の費用は自治体や観光協会が持てるが、券売機の多言語化や決済端末の導入は、事業者が自分で決める支出になる。

地域の施策を点検するなら、来訪者数の目標と並べて、バスの案内と飲食店の決済に何をしたかを探すのがよい。農泊の受け入れで同じ構図が出ていることは農泊のインバウンドを扱った記事に書いた。学生が関われる余地もここにある。注文の流れを英語で書き直す、乗り換えの図を作る、支払い方法の掲示を揃える。現場に入る入口としては、FLASPOのような窓口から探す手もある。

よくある質問

「困ったことはなかった」が下がったのは、受け入れが悪くなったからですか。悪化と断じるには材料が足りない。回答者の7割がリピーターで、慣れるほど細かい点に気づくという面もある。項目別に見るとごみ箱や多言語表示は改善し、決済と入国手続きが悪化しているので、全体が下がったというより中身が入れ替わっている。

地方のほうが満足度が高いなら、受入環境の整備は要らないのですか。混雑が少ないことが効いているだけで、詰まる場所は残っている。バスの案内と飲食店の決済は、地方部のみを訪れた人の困りごとで上位に並ぶ。混雑の少なさという利点を保ちながら、この二つを直す順番になる。

この調査の数字をレポートに使うときの注意点はありますか。空港での対面調査なので、日本を出る直前の人に偏る。また都市と地方の内訳は、各項目で困ったと答えた人を母数にしており数十人規模になる。母数と調査方法を本文に書き添えておけば、割合そのものは一次情報として使える。

インバウンドの失敗事例として、何を見れば構造が分かりますか。来訪者数だけを目標にした計画と、受入環境の実測を並べると差が見える。この調査のように困った項目を施設別に出している資料は、どの事業者に負担が寄っているかを示す。誘客の成果と受け入れの負担を同じ表に置くところから始めたい。

出典

観光庁「令和7年度 訪日外国人旅行者の受入環境整備に関するアンケート調査結果」(令和8年4月)


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