戻る人を増やす制度の穴|テレワーク型が9割を占めた支援の内訳

制度が増えても、人の流れは向きを変えていない

大学の4年間を東京で過ごし、就職のときに地元へ戻る。その選択を後押しする仕組みは、この7年でかなりの数に増えた。それでも統計の側はほとんど動いていない。総務省の住民基本台帳人口移動報告2025年結果では、東京圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)は日本人移動者で11万2,738人の転入超過だった。前年より6,599人縮んだとはいえ、転入超過は30年続いている。

推移を見ると、東京圏の転入超過は新型コロナの流行期に一度縮んでいる。日本人移動者でみた転入超過は2020年が98,005人、2021年が80,441人まで下がり、2022年に94,411人へ戻った。その後は2023年114,802人、2024年119,337人と流行前の水準に近づき、2025年の112,738人でわずかに下げた。地方へ向かう流れが定着したとは、この並びからは読み取りにくい。

一方、東京23区の在住者や通勤者が地方へ移るときに出る移住支援金は、令和元年度の創設から令和7年度までの累計で14,378件・30,557人にとどまる(令和8年3月末時点)。7年かけて積み上げた人数が、1年分の転入超過の3割に届かない。制度の規模と人口移動の規模には、はじめから桁の違いがある。

この差だけで施策が無駄だったと決めるのは早い。ただ、どこで外れたのかを数字で押さえておかないと、同じ設計のまま予算だけが積み上がる。金額の条件は移住費用と支援金の記事で整理したので、ここでは交付の中身を追う。

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交付が集まったのは、東京圏に隣接する県だった

内閣府が公表している道府県別の交付実績を累計件数で並べると、上から静岡県1,465件、群馬県1,152件、栃木県900件、長野県884件、新潟県779件となる。茨城県672件、北海道652件、宮城県643件が続く。東京都・神奈川県・大阪府は制度の対象地域ではないため、実績はゼロで並ぶ。

上位の顔ぶれは、新潟県と北海道を除けば東京圏に接する県である。新幹線や特急で2時間ほどの距離に入る地域が、件数の上を占めている。「東京一極集中の是正」という看板に照らすと、距離の近さがそのまま実績の多さになっている形は、評価の分かれ目になる。

年度別では令和5年度3,542件、令和6年度3,626件、令和7年度3,170件。増え続けてきた流れが令和7年度で下を向いた。子ども1人あたり最大100万円の加算が足された後の年に件数が減っているので、支援額の大きさだけで動く人数が決まるわけでもない。

支給の9割は、就業も起業も条件にしていない型だった

移住支援金には4つの型がある。財務省が令和6年6月に公表した予算執行調査の総括調査票は、このうちテレワーク型と関係人口型の2つで支給実績の約9割を占めると指摘した。どちらも移住先での就業や起業を条件にしていない型である。

型 主な条件 移住先での就業・起業 調査で指摘された点
就業型 移住先の中小企業等に就業し1年間勤務 必要 約4割の自治体が1年以内の就業継続を確認していない
起業型 移住先で起業し、交付決定を受ける 必要 実績の割合が小さい
テレワーク型 移住前の業務を継続し、週3日以上を目安に在宅で働く 不要 出社先の約9割が東京圏。約6割の自治体が遵守状況を把握せず
関係人口型 移住先の市町村が関係人口として認める 不要 約半数の自治体が就業・起業の条件を設けていない

金額の側も確かめておきたい。支給は世帯での移住が最大100万円、単身が最大60万円で、18歳未満の子を連れて移る場合は1人あたり最大100万円が加わる。国が半分を負担し、残りを都道府県と市町村が持つ。実際の額は都道府県ごとに決まるため、同じ型でも受け取れる金額は移る先で変わる。

制度が生まれる前の平成30年の報告書には、「地域にお金が落ち、循環する仕組みとなるよう留意すべき」という一文が入っていた。新型コロナの流行を受けて令和3年度に足された2つの型が実績の大半を占めた結果、運用はその注意書きから離れていった。

移住先にいながら、出社先は東京圏のままという形

財務省はテレワーク型の実績が多い静岡・茨城・栃木・長野・群馬の5県を抜き出して調べている。この5県だけでテレワーク型の実績の約4割を占める。そこへ移った人の出社先を確かめると、約9割が東京圏だった。

週3日以上を目安に在宅で働けばよいという条件なので、残りの日は東京圏へ出ることができる。新幹線通勤が成り立つ県に実績が寄るのは筋が通っている。ただ、それは「移って地域で働く」という形とは別物になる。移住前の仕事が続いている以上、地域の担い手が増えたとも言いにくい。

さらに、約6割の自治体はこの週3日以上という条件の守られ方を把握していなかった。支援金の単価はほかの型と同額に設定されている。前の職場の仕事を続けている人も、地元企業に入った人も、受け取る金額は同じという建て付けである。

確かめない運用が、効果の検証を止める

関係人口型は、国が全国共通の条件を置かず、各自治体の裁量で定義する形をとっている。市の中心部を外して周辺市街地だけを対象エリアにした例や、就業型では拾えない就農者を対象に加えた例もある。一方で約半数の自治体は就業や起業の条件を置かず、自治体のSNSに登録すれば対象になるという運用をしていた。

居住のほうも確認が薄い。約3割の自治体は、転出に伴う住民票の異動申請のときに、その人が受給者かどうかを確かめていなかった。確かめていた約7割のうち約半数は、移住先で実際に暮らしているかという実態までは見ていない。就業型が求める1年間の就業継続についても、約4割の自治体が1年以内の確認を行っていなかった。

この調査は1,742自治体に照会し、回答のあった1,420自治体を集計したものである。制度の善し悪しというより、受け取った後の確かめ方が揃っていないことが浮かぶ。地域の施策を調べるときは、掲げた目標より先に「何をどう確認しているか」を探すと、資料の読みどころが変わってくる。地域で働く形を具体的に考える段階に入ったら、FLASPOのように現場へ入れる場も併せて見ておきたい。

施設整備で起きたことと重ねると、構造はよく似ている。建てた後の維持と稼働を誰も数えないまま進んだ例はハコモノの失敗の記事に、戻る側の人数と受け入れの現状は過疎化と若者のUターンの記事にまとめてある。

よくある質問

移住支援金は学生でも受け取れますか。対象になるのは、過去10年のうち通算5年以上かつ直近1年、東京23区に住んでいた人か、東京圏から23区へ通勤していた人である。学生のうちに23区に住んでいた期間は原則として通算の対象に含まれないため、在学中の移住では条件を満たさない場合が多い。

テレワーク型は条件が緩いと聞きますが、使って問題はありませんか。制度として認められている型なので、条件を満たすなら使ってよい。ただし週3日以上という目安は守る前提であり、5年以内に移住先から出ると返還の対象になる。見直しの議論が進む型でもあるので、申請する年度の要綱を直接確かめるのが確実である。

関係人口型の条件が自治体ごとに違うのはなぜですか。産業の構造や人口の偏りが地域ごとに違うため、国は統一した条件を置かず定義を任せている。財務省は、創設時の目的に沿う条件になるよう、国が各自治体の設定を把握して良い例を広めるべきだと指摘した。

自分の出身県が実績の上位に入っていないと、戻りにくいということですか。件数の多さは制度の使われ方を示すだけで、戻りやすさの順位ではない。累計の件数は東京圏に近い県に寄っているが、就業型を手厚くしている県や、就農者を対象に加えている市町村もある。住みたい地域の要綱を一つずつ読み比べるほうが、順位表より役に立つ。

支援金の件数が減ったのは、制度が終わるからですか。令和7年度に件数が減ったことと、制度の終了は別の話である。年度ごとの募集枠や自治体の参加状況によっても件数は動く。判断の材料にするなら、住んでいる県が今年度も実施しているかを県のページで確認するのが早い。

出典

総務省「住民基本台帳人口移動報告 2025年(令和7年)結果」/内閣府「地方創生移住支援事業 交付実績(令和元年度〜7年度)」/内閣府「移住支援金」/財務省「予算執行調査 総括調査票(令和6年6月公表分)」


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