海の近くに住みたい、山に囲まれて暮らしたい、島に移りたい。この三つの願いは似ているようで、乗っている制度がまるで違う。島には島のための法律が五つあり、山あいの暮らしは森林と過疎の制度の上に成り立っている。どの枠に入る土地なのかが分かると、使える支援と覚悟すべき条件が同時に見えてくる。候補地の性格を区分から確かめていく。
日本の島は1万4,125、人が住む島は417だけ
島に移ると言うとき、その島が制度上の離島かどうかで話が変わる。国土交通省が令和8年4月1日現在でまとめた日本の島嶼の構成によると、国土地理院調べで日本は1万4,125の島から成り、本州・北海道・四国・九州・沖縄本島の五つを除く1万4,120島が離島に当たる。
そのうち人が住んでいるのは417島で、残る1万3,704島は無人島である。有人離島のうち法律の対象になるのは305島で、離島振興法が255島、沖縄振興特別措置法が38島、奄美群島振興開発特別措置法が8島、小笠原諸島振興開発特別措置法が4島を受け持つ。残る112島はこれらの法の対象外になる。離島振興法による離島振興対策実施地域は77地域255島で、関係するのは26都道県111市町村、面積は5,313平方キロメートルで全国の1.41パーセント、人口は34万人で全国の0.27パーセントにとどまる。移住先として島を見るなら、まずその島が255島に入っているかを確かめたい。入っていれば振興計画と交付金が動いており、入っていなければ一般の過疎や山村の制度で考えることになる。
国境に近い71島には、別の予算が張り付いている
同じ離島でも、国境に近い島は扱いが一段違う。内閣府の総合海洋政策推進事務局が所管する特定有人国境離島地域社会維持推進交付金は、令和7年度の予算額が50.0億円で、前年度と同額が確保されている。
対象は特定有人国境離島地域の15地域71島で、関係するのは8都道県29市町村、人口は令和2年国勢調査で24万4,998人である。該当するのは北海道、東京都、新潟県、石川県、島根県、山口県、長崎県、鹿児島県の8都道県で、交付率は6割などとされている。中身は四つに分かれ、住民向けの航路と航空路の運賃を下げる運賃低廉化、生鮮品の移出や飼料などの移入にかかる輸送コストを下げる物資の費用負担の軽減、民間事業者の創業や事業拡大のための設備投資と運転資金を支援する雇用機会の拡充、もう一泊してもらうための旅行商品を作る滞在型観光の促進である。運賃低廉化では、ワーケーション推進施策の一環で来島する人が新たに準住民に加えられた。効果として、令和5年度末までに2,304人の雇用が創出されたと整理されている。島で働く場所を探すなら、この71島は求人と移動費の両面で条件がよくなる。
島で仕事を作るなら、600万円の創業支援金という枠がある
雇われる先がない島では、自分で事業を立てる話になりやすい。国土交通省の離島活性化交付金事業の概要では、定住促進事業の産業活性化事業のなかに、離島の地域課題解決に資する社会的事業への創業支援金が置かれている。
上限は1事業あたりの事業費で600万円、地方自治体ごとに3事業までという制限がある。事業の実施主体は都道県、市町村、民間団体で、補助率は自治体や一部事務組合が各事業の2分の1以内、民間団体が3分の1以内である。事業期間は原則3年以内で、事業計画に定量的な成果目標を設定することが求められる。同じ交付金の対象には、雇用創出のための戦略産品の開発と5品目までの輸送費支援、コンテナや冷凍庫などの流通効率化、ドローンやグリーンスローモビリティー、遠隔診療の導入、買い物支援や高齢者の送迎といった小規模離島の生活環境改善、離島留学の寄宿舎運営費まで含まれる。特定有人国境離島地域にかかる輸送費支援は10分の6以内という高い率が設定されている。島へ移る前に、その自治体がこの交付金でどのメニューを動かしているかを聞いておくと、暮らしの便と仕事の両方の見通しが立つ。
山の濃さは、森林率という一つの数字で比べられる
山あいの暮らしを望む場合、候補地の「山の深さ」は感覚ではなく割合で比べられる。林野庁の都道府県別森林率・人工林率は、令和4年3月31日現在の森林面積を国土面積で割った値を県ごとに示している。
| 都道府県 | 森林率 | 人工林率 | 森林面積 |
|---|---|---|---|
| 高知県 | 84% | 65% | 594,090ha |
| 岐阜県 | 81% | 45% | 861,169ha |
| 長野県 | 79% | 42% | 1,066,951ha |
| 山梨県 | 78% | 44% | 348,283ha |
| 島根県 | 78% | 39% | 524,363ha |
| 岩手県 | 77% | 41% | 1,169,302ha |
| 奈良県 | 77% | 61% | 283,689ha |
| 和歌山県 | 77% | 60% | 361,538ha |
| 徳島県 | 76% | 60% | 314,703ha |
| 宮崎県 | 76% | 57% | 585,257ha |
最も高いのは高知県の84パーセントで、岐阜県が81パーセント、長野県が79パーセントと続く。逆に低いのは千葉県の29パーセント、大阪府の30パーセント、茨城県と埼玉県の31パーセント、東京都の36パーセントで、同じ国のなかで3倍近い開きがある。森林率と並べて見たいのが人工林率で、高知県は65パーセント、奈良県は61パーセント、和歌山県と徳島県は60パーセントと高く、スギやヒノキの植林地が多い。対して北海道は森林率71パーセントに対し人工林率26パーセント、沖縄県は森林率45パーセントに対し12パーセントで、自然林の割合が大きい。人工林が多い地域は林業の仕事と手入れの需要があり、自然林が多い地域は景観と生態の価値が前に出る。山に何を求めるかで、見るべき数字は変わってくる。
海も山も島も、その多くは過疎地域の制度の上にある
三つの区分を横から束ねているのが過疎の制度である。総務省が令和8年3月にまとめた令和6年度版の過疎対策の現況によると、過疎関係市町村は885で、令和7年4月1日現在の全1,719市町村の51.5パーセントを占める。
そこに住む人は1,166万8,630人で全国の9.3パーセントにすぎないが、面積は23万8,675平方キロメートルで国土の63.1パーセントに及ぶ。人口と面積は令和2年国勢調査による値である。市町村数では半分近く、国土では6割を占める一方、人口は1割に届かないという偏りが、過疎地域の性格をそのまま表している。昭和35年には総人口に対する過疎地域の人口の割合が24.3パーセントあったという記述もあり、長い時間をかけて今の形になった。移住先の候補が離島振興法の255島であっても、森林率が8割を超える山あいであっても、その市町村はたいてい過疎地域に入っている。すると過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法に基づく事業や、地方債の特例といった仕組みも併せて効いてくる。島や山の制度だけを見ていると、この土台を見落としがちである。地域ごとの打ち手の違いを押さえたいときは、地域の特性別に地方創生の事例を整理した記事が手がかりになる。暮らしの不便を先に知っておきたいなら、移住のデメリットを先に並べた記事も目を通しておきたい。
よくある質問
候補の島が離島振興法の対象かどうかは、どこで分かるのか。離島振興対策実施地域は77地域255島で、関係する26都道県111市町村が公表されている。県の離島振興の担当課か、国土交通省国土政策局離島振興課の資料で確認できる。対象であれば県が振興計画を作っているので、その計画書に島ごとの事業が載っている。
特定有人国境離島に住むと、運賃はどれくらい下がるのか。交付金は航路と航空路の運賃低廉化に充てられるが、下げ幅は島と路線ごとに自治体が設定する。資料に全国一律の割引率は示されていないため、該当する市町村の窓口か、島の航路事業者の住民運賃を確かめることになる。燃料価格の高騰に伴う運賃値上げへの対応も使途に含まれている。
森林率が高い県を選べば、自然に近い暮らしになるのか。森林率は県全体を平均した割合なので、県庁所在地の市街地に住めば数字ほどの実感はない。候補を市町村の単位まで下げ、人工林か自然林かという人工林率も合わせて見たほうが実際の景色に近い。林業の仕事を考えるなら、人工林の面積が手入れの需要の目安になる。
海の近く、山あい、島のどれから検討するのがよいか。使える制度の数で見ると、島が最も厚く、次に過疎地域に入る山あいが続く。ただし制度の厚さは条件の厳しさの裏返しでもある。移動に船や航空路が要るかどうかが生活の自由度を大きく変えるので、そこを最初の分かれ目に置くとよい。現地の暮らしを短期で試す入口を探すなら、FLASPOのような地域と関わる仕組みから始める手もある。
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