隣町で成果が出た施策が、自分の町では空振りする
移動販売車を1台走らせて集落の買い物を支えた話を聞き、同じ予算で導入したところ、利用が想定の3割で止まった。地方創生の現場でよく起きる失敗だが、原因は運営でも周知でもなく、集落と集落の距離だったりする。
地域の条件は、面積と人口の組み合わせで大きく変わる。公的な区分ごとに全国比を並べると、その差が見える。
| 区分 | 面積の全国比 | 人口の全国比 | 時点と出典 |
|---|---|---|---|
| 中山間地域 | 63.8パーセント | 10.6パーセント | 令和2年/農林水産省 |
| 過疎地域 | 63.2パーセント | 9.3パーセント | 令和2年国勢調査/総務省 |
| 離島振興法の対象離島 | 1.41パーセント | 0.30パーセント | 平成31年4月/国土交通省 |
中山間地域と過疎地域はおおむね重なり、国土の6割を1割弱の人口で支えている。離島はさらに極端で、面積も人口も1パーセントに届かない。同じ「人口減少地域」という言葉でも、打ち手の制約がまるで違うことが数字から読める。
中山間地域|土地は6割、産出額は4割という非対称
農林水産省は中間農業地域と山間農業地域を合わせて中山間地域と呼んでいる。令和2年時点の全国比は、総土地面積が63.8パーセント、人口が10.6パーセント、耕地面積が38.1パーセント、総農家数が44.7パーセント、農業産出額が40.0パーセントである(農林水産省「中山間地域とは」)。
注目したいのは、人口が1割なのに農業産出額が4割あるという非対称だ。生産の現場としては主力でありながら、担い手の頭数は限られている。だから成果が出ている事例は、作付面積を広げる方向ではなく、1人あたりが扱える面積を増やす方向に寄っている。
具体的には、集落単位の営農組織に機械を集約する、傾斜地の区画を部分的にまとめる、鳥獣被害の防護柵を共同で維持する、といった打ち手になる。どれも派手ではないが、離農が1戸出たときに農地が荒れるかどうかはこの体制で決まる。
移住者を軸にした事例でも、中山間地域では農地と住居が同時に用意できるかが分かれ目になる。制度の指定要件や支援の違いは過疎地域指定の基準で確認しておくと、使える財源が見分けやすい。
耕地面積の38.1パーセントに対して総農家数が44.7パーセントというずれも読みどころである。1戸あたりの耕地が平地より狭いという意味で、規模拡大だけを目標にすると現場と合わなくなる。狭い区画を前提に、品目の単価を上げるほうが現実的な場面が多い。
離島|255島・38万人という規模から逆算する
国土交通省の資料によると、日本は6,852の島で構成され、そのうち有人島は416島ある。離島振興法の対象となる離島振興対策実施地域は255島・78地域で、関係市町村は112、面積は5,323平方キロメートル、人口は約38万人(国土交通省「離島振興対策実施地域の指定に関する経緯」、平成31年4月1日現在)。
面積が全国の1.41パーセント、人口が0.30パーセントという規模は、1島あたりの市場が小さいことを意味する。島内向けの商売だけで事業を成り立たせるのは難しく、輸送費を乗せても買われる品目を選ぶ必要がある。
そのため離島の事例は、単価の高い一次産品、観光の滞在日数、島外の法人との継続取引のいずれかに寄る。船の便数が1日2往復なら、生鮮品を本土の市場に出すのは難しいが、冷凍や乾燥の工程を島内に置けば時間の制約を外せる。加工をどこで行うかが、離島では事業計画の中心になる。
人の面でも設計が変わる。常住人口が数百人の島に正職員を置くより、季節ごとに関わる人を束ねたほうが続く。関係人口の考え方が最も実用的に働くのは、こうした規模の地域である。
航路や航空路の維持そのものが地域政策になる点も、島以外との大きな違いである。便数が減れば通院も通学も成り立たなくなるため、観光振興と生活交通が同じ路線の上で競合する。来訪者を増やす施策を考える前に、島民の移動が確保できているかを確かめる順番になる。
都市近郊|人はいるのに、地域の仕事を担う人がいない
都市から通える距離にある市町村では、人口は急には減らない。それでも地域活動が回らなくなるのは、住民の時間が都市側の勤務に使われているからだ。消防団や祭りの担い手が不足する一方で、子育て世代の転入は続いているという状態が同時に起きる。
ここでの成功事例は、移住促進よりも「すでに住んでいる人の関わり方」を変えるものが多い。平日夜と週末に限った参加枠をつくる、企業の副業制度と地域の仕事を結ぶ、保育や送迎の負担を地域側で引き受ける、といった設計である。
農地が残る都市近郊では、直売所の立地条件が良い点も強みになる。生産から小売までの距離が短く、物流費をかけずに粗利を取れる。都市に近いほど地価と人件費が上がるため、面積を使う事業より回転の速い事業が向いている。都市と地域の両方に関わる若い世代の動きは関係人口の成功事例にも表れている。
地方都市の中心部|通過する人を留める工夫が要る
県庁所在地や人口10万人規模の市では、周辺町村から人が集まる構造がある。にもかかわらず中心商店街の空き店舗が増えるのは、人が来ていないからではなく、来た人が買い物を終えて郊外の店へ移動しているからだ。
この条件で成果を出している取り組みは、滞在時間に手を入れている。駐車場の無料時間と店舗の営業時間を合わせる、昼と夜で異なる業種を同じ区画に入れる、公共施設を商店街側に移すなど、人の流れを数ブロック内に留める調整が中心になる。
財政の面では、中心市街地は過疎地域の指定から外れることが多く、使える交付金の種類が限られる。だから民間の投資を呼び込む順番が重要になる。全国の人口移動と地域経済の全体像は地域経済の現状を数字で読むで把握できる。若手が地域の事業に関わる機会づくりはFLASPOでも進めている。
なお、どの区分に入るかは制度ごとに判定が異なる。過疎地域は人口減少要件と財政力要件の両方で判定され、財政力指数は直近3か年で0.51以下が目安となる(総務省「過疎対策について」)。自分の自治体が複数の区分に重なっている場合は、財源の組み合わせを先に確認しておきたい。
よくある質問
複数の類型にまたがる市町村はどう考えればよいか。合併を経た自治体では、中心部と山間部が同じ行政区域に入っていることが多い。この場合は役所単位ではなく、小学校区や集落単位で条件を分けて設計したほうが実態に合う。
自分の地域がどの類型に入るかはどこで調べられるか。農業地域類型は農林水産省、過疎地域の指定は総務省、離島の指定は国土交通省が公表している。重複指定もあるため、3つを突き合わせるのが確実である。
条件が似ている地域の事例だけを参考にすればよいか。条件が近い地域は打ち手ごと移植しやすい。ただし運営の工夫は条件を越えて使えるので、違う類型の事例も体制の部分だけ読むと収穫がある。
中山間地域と過疎地域はどう違うのか。中山間地域は農業の地形条件による区分で、過疎地域は人口と財政による法律上の指定である。重なる部分は大きいが、同じ町の中で一方だけに該当する区域も生じる。
離島で本土と同じ施策を使うときの注意点は何か。輸送費と移動時間を事業計画に先に織り込むことである。本土向けに設計された補助制度は、往復の時間を考えていない場合があり、同じ日程では回らないことがある。
都市近郊で移住施策を打つ意味はあるか。転入が続いている地域なら、受け入れ数を増やすより関わりの密度を上げるほうが効く。地域側の担い手が足りない構造は、人口が増えても自然には解消しない。
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