事例を並べただけでは、どれも自分の町の話にならない
視察から帰ってきた担当者が、報告書の最後に「本市とは条件が異なる」と書いて終わる。地方創生の事例集がうまく使われないときの典型的な終わり方である。悪いのは担当者ではなく、並べ方のほうだ。
総務省の資料では、過疎地域に指定されている市町村は885団体で、全市町村の51.5パーセントにあたる。そこに住む人は1,167万人で全国の9.3パーセント、面積は238,675平方キロメートルで全国の63.2パーセントを占める(総務省「過疎対策について」、人口と面積は令和2年国勢調査)。半分の自治体が、国土の6割に全人口の1割で暮らしているという偏りが前提になっている。
面積が広く人が薄い町と、人口は保てているが若い世代の職場がない町では、効く打ち手が別になる。移住者を10人迎えれば集落が回る地域と、10人では何も変わらない地域が、同じ「地方創生の成功事例」として同じページに載っている。だから読んだ側は、真似する対象を取り違える。
事例を使える形にするには、先に分類を決めてから読む。地域の名前でも補助金の名前でもなく、「その取り組みは何を動かそうとしたのか」で分ける。動かす対象が同じなら、条件が違っても設計の考え方は移植できる。
動かす対象で切ると、取り組みは4つの型に収まる
地方創生と呼ばれる施策を、人・稼ぎ・担い手・暮らしのどれを動かそうとしたかで仕分けると、次の4つに収まる。型ごとに見るべき指標も、失敗の形も違う。
| 型 | 動かそうとするもの | 代表的な打ち手 | 評価に使う指標 | よくあるつまずき方 |
|---|---|---|---|---|
| 人の型 | 流入と関わりの量 | 地域おこし協力隊、おためし移住、二地域居住 | 任期や滞在が終わった後の定着 | 在任中だけにぎわい、終了後に元へ戻る |
| 稼ぎの型 | 域内に残る付加価値 | 加工と直販、ブランド化、観光の単価づくり | 域内調達の比率と粗利 | 売上は伸びたが利益が域外へ出ていく |
| 担い手の型 | 事業と組織の数 | 起業支援、事業承継、地域運営組織の立ち上げ | 事業が続いた年数と後継の有無 | 補助期間の終わりに合わせて解散する |
| 暮らしの型 | 生活機能の維持 | 小さな拠点、移動手段、買い物と医療の確保 | 利用世帯数と年間の維持費 | 利用が想定の半分で採算が合わない |
分類をもっと細かくしたくなるが、10種類に割ると今度は型ごとの事例が1つか2つになり、比べる意味がなくなる。4つに粗く束ねておくと、同じ型の中で成功と失敗を並べられる。比較の相手は他の地域ではなく、同じ型の別の結末だと考えたほうが使いやすい。
4つは並列ではなく、順番がある。暮らしの型が崩れている地域に人の型を持ち込んでも、来た人がその年の冬に出ていく。逆に生活機能が保てている地域で暮らしの型だけを足しても、若い世代が戻る理由にはならない。
人の型は、任期が終わった後の姿で評価が変わる
人を動かす型の代表が地域おこし協力隊である。総務省の資料によると、令和6年度の隊員数は7,910人、取り組む自治体は1,176団体まで増えた。国は隊員数1万人を目標に掲げている(総務省「地域おこし協力隊について」)。
同じ資料には、任期を終えた後の数字も載っている。直近5年に任期を終えた隊員のうち、およそ69パーセントが同じ地域に定住し、定住した隊員のおよそ46パーセントが起業している(いずれも令和6年調査時点)。隊員の約6割は20代と30代で、約4割が女性という構成だ。
財政の裏側も決まっている。隊員1人の活動に充てられる特別交付税措置は年550万円が上限で、うち報償費などが350万円、その他の活動経費が200万円という内訳になる。つまり3年の任期で動く金額は決まっており、その範囲で次の仕事をつくれたかどうかが、定住の分かれ目になる。
ここを「何人受け入れたか」で評価すると、型を取り違える。任期の2年目に何を仕込んだかで結果が変わる話は、地域おこし協力隊の卒業後に定住できるかで整理した。受け入れ数は入口の指標であって、成果の指標ではない。
入口を細く開ける仕組みも用意されている。おためし地域おこし協力隊や協力隊インターンは、1団体あたり100万円を上限に措置される。令和8年度からは、地場産業の起業や事業承継のために活動を続ける場合、任期を最長5年まで延ばす特例も加わった。移住の決断を一度に求めず、段階を分ける方向へ制度が動いている。
稼ぎの型と担い手の型は、補助が切れる日を先に決めている
続いている事例を並べると、立ち上げ資金の出どころよりも、資金が切れる時期の扱いが共通している。国の支援は時限で設計されているからだ。過疎地域の持続的発展を支える特別措置法は令和3年度から令和12年度までの時限立法で、過疎対策事業債の令和8年度計画額は6,100億円、充当率100パーセントで元利償還金の70パーセントが交付税で措置される。
ソフト事業に使える過疎地域持続的発展支援交付金は、限度額が1,500万円の定額補助である。専門人材を活用する事業なら500万円、人工知能や情報通信技術を使う事業なら1,000万円が上乗せされ、市町村や都道府県が行う事業では限度額2,000万円の枠もある。金額の桁を見れば、これは設備投資ではなく助走のための費用だとわかる。
そこで続く事例は、補助のある期間に固定費を下げるか、単価を上げるかのどちらかを終えている。加工場を共同で持って減価償却を分け合う、直販の比率を上げて卸値から抜ける、といった地味な工程だ。制度と事例の組み合わせは過疎化対策の事例にまとめてある。
担い手の型でも同じことが起きる。地域運営組織が解散するのは熱意が尽きたからではなく、人件費を誰が払うかを決めずに始めた場合がほとんどである。補助金の申請書に書かれない部分が、3年後の生死を決める。
自分の地域はどの型から入るべきか
順番を決めるには、地域の状態を上から下へ確かめていくのが早い。まず生活機能が保てているか。買い物と通院と移動のどれかが崩れていれば、暮らしの型が先に来る。ここを飛ばして人を呼ぶと、迎えた世帯が数年で転出する。
次に、域外に売れる資源があるかを見る。農産物でも景観でも技術でも、外から対価を得られるものがあれば稼ぎの型に入れる。資源はあるのに利益が残らない場合は、売り先ではなく仕入れと加工の位置を点検する。
資源が細い地域では、担い手の型から始めるほうが現実的だ。小さな事業を複数つくり、そのうち1つが伸びるのを待つ。最後に人の型を重ねる。受け入れる側の仕事が先にあれば、協力隊も移住者も定着しやすい。
10年分の施策を振り返ると、成果が出た地域はこの順番を守っていることが多い。経緯と課題は地方創生の現状と課題で確認できる。若い世代が地域の事業に関わる入口づくりは、FLASPOでも企業や自治体と一緒に取り組んでいる領域である。
よくある質問
4つの型を同時に進めてもよいか。人員と予算が足りるなら構わないが、担当課が1つなら薄まる。1年目は1つの型に絞り、指標が動いてから次を足すほうが成果が見えやすい。
どれくらい続けば成功と呼べるか。補助期間の終了後3年が目安になる。交付金が入っている間は売上も人数も伸びるため、切れた翌年度の数字で判断すると実態に近い。
人口が数千人の自治体でも稼ぎの型は成り立つか。成り立つ。規模が小さいほど、少数の事業者の粗利が全体に効く。ただし品目を広げず、1つの商品の単価と販路に集中したほうがよい。
交付金に頼らず始める方法はあるか。ある。暮らしの型では、既存の公共交通や郵便の配達路線に機能を相乗りさせる例が多い。初期費用が小さい代わりに関係者の調整に時間がかかるため、着手は早いほうがよい。
人口が増えなければ失敗なのか。そうとは限らない。人口の減り方を緩めること、世帯あたりの所得を上げること、空き家の増加を止めることも成果である。総人口だけを指標にすると、小さな自治体ではほぼ全ての取り組みが失敗に見えてしまう。
視察はどう使えばよいか。訪問先の成果ではなく、立ち上げ時の体制と資金の内訳を聞く。誰が人件費を負担し、誰が意思決定したかがわかれば、条件の違う地域でも移植できる部分が見えてくる。
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