地域ブランドを立ち上げる仕事は、ロゴや愛称を決めることから始まらない。国の制度をのぞくと、最初に問われるのは「誰がその名前を管理し続けるのか」という一点である。農林水産省の地理的表示(GI)保護制度と、特許庁の地域団体商標制度。日本の地域ブランドを法律で支えている枠組みはこの二つで、どちらも申請できるのは個人ではなく団体だ。作る順番を、制度の側から組み直してみる。
まず、どちらの制度に乗せるかを決める
米や果実のように土地と結びついた食べものなら地理的表示、器や織物や温泉なら地域団体商標、という切り分けが実務ではいちばん早い。地理的表示法は2014年6月18日に公布され、2015年6月1日に施行された。対象は農林水産物と食品等に限られ、産地と品質・社会的評価との結びつきを国が審査する。登録されると産品にGIマークを付けられ、不正に名前を使う者には措置命令や登録取消しといった国の側の手当てが入る。
もう一方の地域団体商標は、2006年4月1日に導入された商標法の仕組みである。通常なら「地域名+商品名」のような文字商標は全国的に周知でなければ登録できないが、この制度は登録要件を緩めて地域の団体に道を開いた。対象は商品にもサービスにも及ぶため、工芸品や織物、温泉のような食品以外の産品も乗せられる。二つは排他的な関係ではなく、同じ産品が両方に登録されている例もある。
| 比べる点 | 地理的表示(GI) | 地域団体商標 |
|---|---|---|
| 所管 | 農林水産省 | 特許庁 |
| 始まり | 2015年6月1日施行 | 2006年4月1日導入 |
| 対象 | 農林水産物・食品等 | 商品とサービス全般 |
| 守るもの | 産地と結びついた特性 | 文字商標としての名称 |
| 登録の規模 | 国内170件(2026年7月10日現在) | 803件(2026年8月31日現在) |
担い手になれる団体は、法律の側で決まっている
やる気のある生産者が数人集まっても、そのままでは申請の窓口に立てない。地理的表示の申請者は「生産業者の組織する団体」と定められており、加工品なら加工業者の団体が主体になる。地域団体商標のほうはさらに具体的で、特別の法律によって設立された組合のうち法人格を持ち、かつその法律で構成員の加入の自由が担保されているもの、商工会、商工会議所、NPO法人、これらに相当する外国の法人が挙げられている。2017年7月31日に施行された地域未来投資促進法による特例で、一定の条件を満たす一般社団法人も出願できるようになった。
特許庁が公開している登録案件一覧を数えると、この要件が現実にどう効いているかが見える。2026年8月31日現在の803件を権利者の名称で分類すると、農業協同組合が248件、漁業協同組合が70件、その他の協同組合が368件で、商工会議所24件、商工会20件、工業組合18件、特定非営利活動法人14件、森林組合9件、一般社団法人4件と続く。つまり九割近くが既存の組合組織である。新しく任意団体を作るより、地域にすでにある組合の議題に乗せるほうが近道だという事実が、この分布に表れている。
名前の付け方と、証明しなければならないこと
候補名をいくつも並べる前に、登録できる形を知っておくと無駄が減る。地域団体商標になれるのは文字だけの商標で、構成文字が図案化されていてはいけない。組み合わせるのは地域の名称と、商品やサービスの普通名称または慣用名称である。ここでいう地域の名称には現在の行政区画名だけでなく、旧地名、旧国名、河川名、山岳名、海域名も含まれる。「本場」「特産」「名産」のように産地表示に慣用されている文字を足すことも認められている。
要件のなかで特許庁が「特に重要」と注記しているのは、一定の地理的範囲の需要者にある程度知られていることだ。しかもそれを販売数量や新聞報道といった客観的な事実で証明しなければならない。全国的な知名度は要らないが、記録は要る。逆に言えば、出荷量や掲載記事を残していない産地は、出願の前に数年分の資料集めから始めることになる。地理的表示の側でも、申請書に添えて明細書と生産行程管理業務規程を作る必要があり、産品の特性と生産方法を文章に落とす作業から逃げられない。
申請を出してから登録までに起きること
書類を出せば審査が始まり、あとは待つだけ、という流れではない。地理的表示の場合、申請が受け付けられると申請の事実そのものが公示される。公示から3か月間は誰でも意見を提出できる期間で、同じ地域の別の生産者や近隣産地からの異議がここで出る。意見書の提出期間が終わると学識経験者への意見聴取があり、登録拒否事由の有無をもとに可否が判断される。登録が決まると登録免許税9万円を納付し、登録内容が公示されて手続きが完了する。
この3か月の意見受付は、地域内の合意形成を先に済ませておくべき理由でもある。関連して、農林水産省は複数の団体による共同申請を認めており、団体ごとに出荷基準が違っていても、各団体の明細書の基準が申請書の基準と同一かより厳しければ差し支えないとしている。まず一部の団体で登録し、あとから他の団体を追加することも可能だ。最初から地域の全団体をそろえられなくても着手できる設計になっている。
登録は出発点で、そこから先が本番
登録証が届いた時点では、まだ何も起きていない。地理的表示ではGIマークの表示が使えるようになり、名称を不正に使った者は措置命令や登録取消しの対象となって公表される。地域団体商標では民事と刑事の両面から権利行使ができ、他者への使用許諾という選択肢も生まれる。特許庁はこれに加えて、団体で独占的に使うことによる組合員の増加やブランドへの自負の形成を効果として挙げている。
外向きの効き方も広がっている。日本のGI産品は相互保護の枠組みを通じて、EUで108品、英国で77品が保護されている(いずれも令和6年2月現在)。国内の登録も積み上がり、地理的表示は2015年12月22日のあおもりカシスなど7産品から始まって、2026年7月10日現在で登録番号は第179号まで発行され、消除された3件と海外の6産品を除く国内登録は170件となった。地域ブランドの全体像や、デザインの考え方まで含めて設計するなら、この制度の骨格を先に押さえておくと判断が速い。企画単位で若い世代を地域の産品づくりに巻き込むFLASPOの取り組みも、登録後の「使い続ける体制」を厚くする側に位置する。
よくある質問
登録にはどのくらいお金がかかりますか。地理的表示については、登録が決まったあとに納める登録免許税が9万円と定められています。このほかに書類作成や証明資料の収集にかかる実費が発生します。地域団体商標は商標出願と同じく出願手数料と登録料が必要で、金額は区分の数によって変わります。
食品以外でも地域ブランドとして守れますか。守れます。特許庁の登録案件一覧を産品の分野で集計すると、工芸品・かばん・器・雑貨が107件で最も多く、織物・被服・布製品・履物が74件、温泉が56件を占めます。野菜81件、食肉70件、果実63件といった農産物と並んで、食品以外の分野が大きな塊になっています。
自分の地域にはまだ組合がありません。何から始めますか。まず既存の組織を探すのが順序です。農業協同組合や漁業協同組合、商工会、商工会議所はすでに出願主体の要件を満たしています。該当する組織がどうしても見つからない場合は、NPO法人の設立か、条件を満たす一般社団法人という道が残ります。
周知性の証明には何を用意すればよいですか。販売数量の記録と新聞報道が例として挙げられています。出荷伝票や取引先の一覧、地元紙や業界紙の掲載記事、展示会の出品記録などを年ごとに整理しておくと、出願の段になって慌てません。特産品としての扱われ方を示す資料は、いずれも後から作れないものばかりです。
名称に市町村名を入れないと登録できませんか。そうではありません。地域の名称には旧地名や旧国名、河川名、山岳名、海域名も含まれるため、合併で消えた地名や流域の呼び名を使う選択肢があります。実際の登録名にも、現在の自治体名と一致しないものが数多く含まれています。
出典
農林水産省「地理的表示法とは」/同「登録産品一覧」(令和8年7月10日現在)/同「登録申請手続」/同「よくある御質問(FAQ)」/同「よくわかる日本の「GI」制度」/特許庁「地域団体商標制度とは」/同「地域団体商標登録案件一覧」(2026年8月31日現在、登録案件一覧リストを集計)
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