成功事例を10件並べた記事はいくらでもあるが、どれを成功と呼ぶかの基準が書かれていることは少ない。そこで見方を変える。国が審査を通した地域ブランドの登録が、いまどこに、どの分野に、誰の名前で積み上がっているのか。特許庁の登録案件一覧と農林水産省の登録産品一覧を数え直すと、うまくいっている地域に共通する条件が、分布という形で浮かんでくる。
成功は全国に散らばらず、特定の県に集まっている
地域団体商標の登録は2026年8月31日現在で803件あり、そのうち海外の団体によるものが3件、国内が800件である。47都道府県のすべてに登録が存在する一方で、数の偏りは激しい。最も多い京都の69件に対し、最も少ない茨城は5件で、13倍以上の差がつく。人口や農業産出額の順位とは明らかにずれた並びだ。
| 順位 | 都道府県 | 登録件数 |
|---|---|---|
| 1 | 京都 | 69 |
| 2 | 兵庫 | 47 |
| 3 | 北海道 | 44 |
| 4 | 石川 | 38 |
| 5 | 岐阜 | 33 |
| 6 | 東京 | 29 |
| 6 | 静岡 | 29 |
| 8 | 福岡 | 24 |
| 9 | 愛知 | 22 |
| 10 | 福井 | 21 |
上位に京都、石川、岐阜、福井が並ぶ理由は、農産物ではなく工芸の産地であることに求められる。西陣の織物、輪島の漆器、美濃の焼きもの、越前の刃物のように、産地ぐるみの同業組合が何代も維持されてきた土地である。この偏りが示す第一の条件は身も蓋もない。名前を登録して守り続ける主体が、その地域に残っているかどうかだ。
伸びている分野は、食べものの外にも広がっている
地域ブランドという言葉から思い浮かぶのは、たいてい米や果物や牛肉だろう。ところが800件を産品の分野で分けると、最も多いのは工芸品・かばん・器・雑貨の107件である。次に野菜の81件が来て、織物・被服・布製品・履物が74件、食肉・牛・鶏が70件、果実が63件、水産食品と加工食品がそれぞれ60件と続く。農産物系を合計すれば厚みはあるが、単独の最大勢力は工芸だという事実は見落とされやすい。
さらに目を引くのが温泉の56件と、温泉を除くサービスの26件だ。地域団体商標は商品だけでなくサービスの名称にも及ぶため、湯の名前そのものを団体が守れる。仏壇・仏具・葬祭用具・家具が30件、茶が34件、調味料が23件という並びも含めて、この分布は「農産物を作っていない地域には地域ブランドがない」という思い込みを壊す材料になる。47都道府県の特産品を並べて眺めるときも、工芸と観光サービスを同じ枠に入れて見たほうが実態に近い。
権利者の名前を見ると、既存組織の強さが出る
成功事例の紹介記事は、たいてい熱意ある個人の物語として書かれる。しかし登録簿に載るのは組織の名前である。800件あまりの権利者を名称で分類すると、農業協同組合が248件、漁業協同組合が70件、森林組合が9件、その他の協同組合が368件を占める。商工会議所が24件、商工会が20件、工業組合が18件、特定非営利活動法人が14件、一般社団法人が4件という内訳だ。
つまり登録の九割前後が、地域にもとからある組合の名義で成立している。これは制度の設計とも一致する。特許庁は出願主体を、特別の法律で設立され法人格を持ち構成員の加入の自由が担保された組合、商工会、商工会議所、NPO法人などに限っており、2017年7月31日施行の地域未来投資促進法による特例で一定の条件を満たす一般社団法人が加わった。新しい任意団体を旗揚げする前に、地域の組合の総会にどう議題を乗せるかを考えるほうが、実際には近道になる。
10年残った地域ブランドが何だったか
長期に持ちこたえた例を確かめたいなら、地理的表示の最初の登録に戻るのが早い。2015年12月22日に、あおもりカシス、但馬牛、神戸ビーフ、夕張メロン、八女伝統本玉露、江戸崎かぼちゃ、鹿児島の壺造り黒酢の7産品が第1号から第7号として登録された。地理的表示法が施行されたのは同年6月1日で、制度はここから動き出した。
その後の伸び方は、令和6年8月27日現在の148産品を経て、2026年7月10日現在で登録番号が第179号まで発行されるところまで来ている。消除された3件と海外の6産品を除いた国内の有効登録は170件だ。10年で7件から170件へ増えた一方、農林水産省の資料が挙げる効果は華やかな数字ではなく、不正使用の取締りの負担が軽くなり安心して生産に専念できるという類のものである。続いた産地は、売り方の派手さよりも管理の継続を選んでいる。
成功した地域ブランドは、国境を越えて守りにくる
日本の登録簿には海外の産品も載っている。地理的表示ではイタリアのプロシュット ディ パルマが第41号として平成29年9月15日に、ラオスのルックガン ライチが第107号として令和3年3月12日に、ベトナムのビントゥアン ドラゴンフルーツが第110号として令和3年10月7日に登録された。タイからはドイトンコーヒーとドイチャンコーヒーが令和5年7月20日に、フアイムン・パイナップルが令和6年8月27日に加わり、海外産品は6件になっている。
| 制度 | 越境している登録 |
|---|---|
| 地理的表示(日本での海外GI保護) | 6産品(イタリア1・ラオス1・ベトナム1・タイ3) |
| 地域団体商標(海外権利者) | 3件(パルマのハム・鎮江香醋・セイロンティー) |
| 日本のGIの海外保護 | EUで108品、英国で77品(令和6年2月現在) |
地域団体商標のほうにも、パルマのハム、中国の鎮江香醋、スリランカのセイロンティーが権利者として名を連ねる。逆向きでは、相互保護の枠組みによって日本のGI産品がEUで108品、英国で77品保護されている。ここから読める最後の条件は、成功の到達点が地元での認知ではないという点だ。名前が売れるほど、遠い市場での模倣に備える必要が出てくる。SWOT分析のような枠組みで自地域の強みを整理する段階でも、守りの手当てを同じ紙の上に並べておきたい。若い世代を企画ごと地域に連れてくるFLASPOの取り組みも、名前を使い続ける人を確保する側の一手として置ける。
よくある質問
登録件数が多い県ほど地域ブランドが強いということでしょうか。件数は守る仕組みを整えた産品の数であり、売上の大きさではありません。京都や石川に多いのは産地ぐるみの組合が長く維持されてきた結果で、件数の少ない県に有力な産品がないという意味ではありません。
温泉やサービスも登録できるのですか。できます。地域団体商標は商品とサービスの両方を対象としており、温泉が56件、温泉を除くサービスの提供が26件登録されています。直売所や道の駅のような売り場と組み合わせて設計している地域もあります。
二つの制度のどちらを目指すべきですか。産品の性質で決まります。農林水産物と食品等で、産地と品質の結びつきを説明できるなら地理的表示が視野に入ります。工芸品やサービスを含む場合は地域団体商標です。同じ産品を両方に登録している例もあるため、一方を選んだら他方を諦めるという関係ではありません。
登録した産品はどのくらいの期間守られますか。地理的表示の登録には期限が設けられていませんが、生産行程管理業務を続けていることが前提になります。商標権は存続期間の更新登録が必要な権利で、更新を怠れば権利は消えます。どちらも「取ったら終わり」ではありません。
自分の地域で最初に確かめることは何ですか。特許庁の登録案件一覧を都道府県で引き、近隣の産品が誰の名義で登録されているかを見ることです。同じ組合が複数の産品を登録している例が多く、相談先がそのまま見つかることがあります。
出典
特許庁「地域団体商標登録案件一覧(都道府県で検索)」(2026年8月31日現在。登録案件一覧リストを都道府県別・産品別・権利者別に集計)/同「地域団体商標制度とは」/同「地域団体商標の活用事例」/農林水産省「登録産品一覧」(令和8年7月10日現在)/同「地理的表示法とは」/同「よくわかる日本の「GI」制度」
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