業界研究の情報源|官公庁の統計と有価証券報告書に当たる順番 | FLASPO MAGAZINE

業界研究の情報源|官公庁の統計と有価証券報告書に当たる順番

同じ業界について調べたはずなのに、面接で出した数字が面接官の持っている数字と合わない。こういうずれは、情報が足りないせいではなく、どこから取ったかを意識していないせいで起きる。業界について書かれた文章は山ほどあるが、その中で出し手に説明の責任がある資料はごく一部しかない。順番を決めるときの基準になるのは、その責任の有無だ。

情報源は数ではなく、出し手の義務で並べ替える

検索して上位に出てくる記事の多くは、どこかで公表された資料を要約したものだ。要約は読みやすいが、要約する段で数字の前提が落ちる。年度が消える、調査対象の範囲が消える、消費税込みか抜きかが消える。落ちた前提は、面接で突っ込まれたときに答えられない穴になる。

そこで有効なのが、情報源を「出し手が出す義務を負っていたかどうか」で階層に分ける見方である。法令で提出が義務づけられている書類は、内容に誤りがあれば発行者が責任を問われる。国の統計は調査の設計と集計方法まで公開されている。省庁の白書は所管の行政機関が名前を出して書いている。業界団体の資料は会員企業からの集計で、範囲が限定される。民間のまとめ記事には、こうした責任の裏づけがない。

この階層を頭に置くと、調べる順番が決まる。上から当たって必要な数字を取り、足りない部分だけを下の層で補う。逆から入ると、下の層で見た数字を確かめるために結局上まで登ることになり、二度手間になる。

層 代表的な情報源 分かること 制約
法令上の開示義務 有価証券報告書(EDINET) 個社の事業内容、業績、従業員数 対象は上場企業など提出義務のある発行者
国の統計 経済センサス、労働力調査(e-Stat) 区分ごとの規模、売上、従業者数 公表までに時間差がある
行政機関の分析 各省庁の白書 政策の論点、中期の動向 所管の範囲に限られる
業界団体 年報、統計資料、会員名簿 細かい品目別の数字、商慣習 集計範囲は会員企業のみ
民間の記事 就職情報サイト、解説記事 論点の見取り図、用語 出典の確認が必要

法律で出すことが決まっている書類から入る

最も上の層にあるのが有価証券報告書だ。関東財務局が示している企業内容等開示制度の説明によれば、上場有価証券や店頭登録有価証券の発行者、募集時に届出書を提出した有価証券の発行者、所有者数が一定数以上の株券の発行者などは、原則として事業年度ごとに有価証券報告書を提出しなければならない。つまり書き手の裁量で出す広報資料とは性質が違う。

閲覧の条件も整っている。提出された書類の公衆縦覧期間は受理した日から五年を経過する日までが基本で、さらに行政サービスとして受理した日から十年を経過する日までに延長されている。財務局などの窓口での縦覧時間は9時から12時と13時から17時15分に限られるが、電子開示システムのEDINETを使えばインターネットから24時間閲覧できる。

業界研究の段で有価証券報告書が効くのは、個社の情報としてよりも、区分の実像を知る材料としてのほうだ。同じ区分の上位数社の事業の内容と業績の推移を並べると、その区分が何で稼いでいるのかが具体的に見える。会社案内に書かれた抽象的な表現ではなく、売上の内訳として出てくるので、区分の性格を取り違えにくい。

業界の大きさは、国の統計から取る

個社を何社か見ても、区分全体の大きさは分からない。そこを埋めるのが政府統計の総合窓口に集められている各種の統計である。横断的に使いやすいのが経済センサスの活動調査で、全産業分野の経理項目を同じ時点で把握する設計になっている。

令和5年6月27日に総務省と経済産業省が公表した令和3年経済センサス‐活動調査の産業横断的集計では、2020年の売上(収入)金額が1693兆3126億円、純付加価値額が336兆2595億円と集計された。2021年6月1日現在の企業等の数は368万4049企業である。業界の規模を語るときの分母として、この種の数字を一つ持っておくと話の解像度が上がる。

そして同じ資料の価値は、数字そのものより「利用上の注意」の側にある。経理事項は原則として消費税込みで把握されており、従来の調査結果は当時の税率なので時系列比較には注意が必要だと明記されている。調査対象の名簿に国税庁の法人番号公表サイトの情報が加わったため、従来より幅広く事業所を捉えており単純な比較ができないとも書かれている。要約記事ではこの断り書きが落ちる。前年比を語るつもりなら、ここを読んでいるかどうかで足元の強さが変わる。

動きを追うのは白書、細部は業界団体

統計は過去の断面を精密に写すが、今どちらへ動いているかは示さない。そこを担うのが所管省庁の白書だ。情報通信、中小企業、ものづくり、観光、農業といった領域にそれぞれ年次の報告があり、政策の論点と中期の動向が整理されている。白書は統計を引用しながら解釈を加えているので、どの数字が論点になっているのかを知る近道になる。

さらに細かい品目別の数量や商慣習は、業界団体の年報や統計資料に降りると出てくる。ただし集計の範囲は会員企業に限られるため、区分全体の数字と一致しない。両方を見比べたときに差が出たら、それは誤りではなく範囲の違いである可能性が高い。どちらを使うかは、話したい内容が区分全体なのか特定の商流なのかで決まる。

職業の側から業界を眺める資料も用意されている。厚生労働省の職業情報提供サイトには約500の職業について仕事内容や必要なスキル、求人倍率などが載っていて、企業間で行われる仕事やIT関連といった切り口から職業を検索できる。業界名からは想像しにくい仕事の中身を知るのに向いている。

民間の資料は索引として使い、原典まで降りる

以上の層を踏まえると、就職情報サイトや解説記事の置き場所も決まる。これらは論点の見取り図と用語の入口として優秀だ。どの統計が使われているのか、どの法律が関係しているのかを短時間で知れるので、最初に目を通す価値はある。

ただし、そこに出てきた数字をそのまま書類や面接に持ち込むのは避けたい。確認の手順は単純で、記事に書かれた数字について調査名と年度と公表機関を探し、その三つが揃わないものは使わないと決めておけばよい。揃っていれば原典を検索して、数字と但し書きを自分の目で見る。この往復が一回入るだけで、説明の筋が崩れにくくなる。

もう一つ覚えておくとよいのは、情報源の数を増やすことが目的ではない点だ。区分の規模を示す数字が一つ、個社の稼ぎ方を示す資料が一つ、直近の動きを示す資料が一つあれば、業界の層の説明は組める。地域に根を下ろした働き方を扱うFLASPOのような領域を調べるときも、当たる層の順番は変わらない。そのうえで、集めた材料を志望動機の構成に流し込む段で、個社の情報を足していく。

よくある質問

有価証券報告書は長すぎて読み切れない。全部を読む必要はなく、事業の内容と従業員の状況、業績等の概要にあたる部分だけで業界研究の用は足りる。同じ区分の数社で同じ箇所を並べると差が見えやすい。

非上場企業が志望先の場合はどうするか。提出義務のある発行者でなければ有価証券報告書は出ていないので、国の統計と業界団体の資料で区分の性格を押さえ、個社については採用に関して提供される情報で補う。実在の企業研究の進め方は個社を扱った記事の構成が参考になる。

統計の公表が数年前のものだと使えないのではないか。区分どうしの大きさの比や構造は年単位では大きく動かないので、規模感を示す用途なら十分に機能する。直近の増減を語りたいときだけ、白書や月次の統計に切り替える。

海外の情報はどこから取るのか。国内の区分と比較する前提なら、まず国内の資料で枠を固めたうえで、国際機関の統計や各国政府の公表資料に当たる順番になる。国ごとの産業分類は日本と区分が違うため、数字をそのまま並べると比較にならない点に注意したい。日本と海外の違いを扱った商社の例は、ずれ方の見本として読める。


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