業界研究の失敗例|離職率の差を見ずに業界を決めると何が起きるか | FLASPO MAGAZINE

業界研究の失敗例|離職率の差を見ずに業界を決めると何が起きるか

志望する業界を一つに絞り、その業界の説明会だけを回り、内定先も同じ業界で固めた。ここまでは順調に見えるのに、入社から二年ほどで辞めてしまう人が毎年一定数いる。本人の調べ方が雑だったとは限らない。むしろ熱心に調べた人ほど、調べる対象の選び方と確かめる順番のどこかが抜けている。抜けやすい場所はいくつかに分かれていて、その多くは公的な統計を一度見ておけば気づけるものだ。

つまずきは情報の量ではなく、確かめる順番から生まれる

本を五冊読み、説明会に十社出て、それでも入社後に「思っていたのと違う」と感じる。この落差はたいてい、集めた量の不足ではなく、何を先に確かめるかの判断から来ている。業界の仕事内容や将来性といった話は資料が豊富で読み進めやすい。一方、その業界で働き続けられるかという話は、資料が統計の形をしていて読みにくく、後回しになりやすい。

後回しにしたものは、たいてい最後まで手がつかない。選考が始まれば時間は面接対策に吸い取られ、内定が出れば確認する動機そのものが薄れる。結果として、読みやすい情報だけで業界像ができあがる。つまずきの型はここから派生していく。

以下では、起きやすい順に四つの型を見ていく。いずれも、国が毎年公表している数字を一度当たっておけば、少なくとも「知らなかった」とは言わずに済む種類のものである。

印象で業界を選び、定着のしやすさを見ない

一つめの型は、仕事の中身だけで業界を比べてしまうことだ。やりがいや社会的な意義は語られやすく、比較もしやすい。けれども、同じ仕事の中身でも、その業界で三年続いている人の割合は業界ごとにはっきり違う。

厚生労働省が公表した新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)によると、大学を卒業して就職した人の三年以内離職率は全体で33.8パーセント、前年より1.1ポイント下がっている。この全体値の裏側で、産業別の数字は二倍近く開いている。

産業(大学卒で離職率が高い上位5産業) 就職後3年以内離職率 前年差
宿泊業、飲食サービス業 55.4% ▲1.2ポイント
生活関連サービス業、娯楽業 54.7% +1.0ポイント
教育、学習支援業 44.2% ▲2.4ポイント
医療、福祉 40.8% ▲0.7ポイント
小売業 40.4% ▲1.5ポイント

注意したいのは、この数字が業界の良し悪しを表すものではない点だ。離職率が高い産業には、資格を持って別の勤務先へ移る人が多い分野や、勤務時間が不規則になりやすい分野が含まれる。読み取るべきは順位ではなく、「自分の志望先はどのあたりに位置するのか」と「高いなら、その理由は何で説明されているのか」の二点である。

業界だけを見て、規模の違いを見落とす

二つめの型は、業界という単位で考え切ってしまうことだ。同じ業界でも、従業員が十数人の会社と数千人の会社では、任される範囲も教育の仕組みも、人が辞める頻度も違う。同じ資料の事業所規模別の集計を見ると、その差は産業別の差よりも大きい。

事業所規模 大学卒の3年以内離職率 高校卒の同離職率
5人未満 57.5% 63.2%
5〜29人 52.0% 54.6%
30〜99人 41.9% 45.2%
100〜499人 33.9% 36.7%
500〜999人 31.5% 29.9%
1,000人以上 27.0% 26.3%

大学卒では、五人未満の事業所と千人以上の事業所で三十ポイント以上の開きがある。小さい組織が悪いという話ではない。少人数の職場は裁量が早く回ってくる代わりに、合わなかったときの逃げ場が少ない。大きい組織は研修と配属の選択肢が広い代わりに、希望の仕事に就くまでの時間が読めない。業界を調べるときに規模の軸を一本足すだけで、見えている景色が変わる。

辞めた人が挙げた理由を、自分の問いに変えない

三つめの型は、調べた内容が条件面に届かないまま終わることだ。事業の仕組みや市場規模まで踏み込んでいるのに、実際に人がその会社を離れる引き金になっている事柄は手つかずで残る。

厚生労働省の令和5年若年者雇用実態調査の概況では、学校を出て初めて勤めた会社をやめた主な理由として、「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」が28.5パーセント、「人間関係がよくなかった」が26.4パーセント、「賃金の条件がよくなかった」が21.8パーセント、「仕事が自分に合わない」が21.7パーセントと並んでいる。

上位三つは、いずれも入る前に手がかりを取れる事柄だ。年間休日数と所定労働時間は求人票に書かれ、平均勤続年数と平均年間給与は有価証券報告書の従業員の状況に載る。説明会で聞きにくければ、公表資料の側から当たればよい。四つめの「仕事が自分に合わない」だけは数字では詰め切れないが、だからこそ残りの三つを先に片づけておく価値がある。

出典と年次を残さず、あとから確かめられなくなる

四つめの型は、調べ方そのものに関わる。メモに結論だけを書き、どの資料のいつの数字かを残さない。この状態は選考が始まってから効いてくる。面接で数字を出したときに年度を聞き返されて答えられない、志望動機を書き直すときに根拠をもう一度探し直す、といった形で時間を奪う。

残すべきは四つだけでよい。資料名、公表した機関、対象となる年次、そして閲覧した日付である。先ほどの離職率でいえば、厚生労働省、令和4年3月卒業者が対象、公表は令和7年、という三点を添えておけば、半年後の自分がそのまま使える。

この習慣には副作用もある。出典を書こうとすると、出典のない情報が自分のメモから自然に減っていく。どの機関も名前を出していない数字は、書き写す段で手が止まるからだ。キャリアの考え方を扱うFLASPOでも、根拠の所在をたどれる形にしておくことを出発点に置いている。業界研究で言えば、調べた量より、たどり直せる状態かどうかが後半で差になる。

記録の置き場所は紙でも表計算でも構わないが、業界ごとに一枚にまとめておくと見返しやすい。会社名ごとに分けると、業界共通の事実が何度も重複して書かれ、どれが全体の話でどれが一社の話なのか後から判別できなくなる。

なお、ここまでの四つは互いに独立していない。印象で業界を決めた人は規模の軸を持たないことが多く、条件面を調べない人は出典も残していないことが多い。どれか一つを直すと、連鎖的に他も埋まっていく。

よくある質問

離職率が高い業界は避けたほうがよいのでしょうか。避けるかどうかを決める材料ではなく、質問を作る材料として使うのが現実的だ。高い数字が出ている業界では、その理由が勤務形態にあるのか、資格を持った人の移動にあるのかで意味がまるで違う。説明会で「入社三年目までの方の配属先はどのように決まりますか」と聞けば、数字の背景に近づける。

志望業界が決まらないうちから、こうした統計を見る必要はありますか。むしろ決まらないうちのほうが使いやすい。候補が三つ四つある段階で産業別と規模別の数字を並べると、自分が何を重く見ているのかが浮かぶ。定着のしやすさを重く見るのか、若いうちの裁量を重く見るのかは、数字を前にしたときの反応で分かることが多い。

調べた内容はどこまで選考で使ってよいのでしょうか。公表されている数字をそのまま読み上げるのは印象に残りにくい。使うのは、数字を見て生まれた問いのほうだ。自分の考えを整える順番は自己分析のやり方の側から組み立て、業界の情報はその裏づけに回すと噛み合う。

統計は何年おきに見直せばよいですか。離職状況は毎年秋ごろに前年分が公表されるため、年に一度確かめれば足りる。就職活動の期間中に数字が入れ替わることもあるので、エントリーシートを提出する直前に一度だけ見直すとよい。全体像の組み立て方は就活のスケジュールと合わせて考えると無駄が出ない。

規模別の数字は、中小企業を選ぶなという意味に読めてしまいますか。そう読む必要はない。離職率には、本人が望んで次の場所へ移った分も含まれている。見るべきは数字の高さではなく、その職場で三年間に何を身につけられるかという中身のほうで、規模の数字はその確認を始める入口にすぎない。


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