提出した志望動機に「業界の成長性に惹かれました」と書いた。嘘ではないし、調べた上での言葉でもある。それでも面接では深掘りされず、話は別の質問へ移っていく。業界研究に時間をかけた人ほどこの空振りを経験しやすい。原因は調べ方ではなく、調べた事実を動機の形に組み替える工程を飛ばしていることにある。
採用側が最も多く挙げているのは、知識ではなく姿勢
志望動機という書類項目が何のためにあるのかは、企業側の調査から逆にたどれる。厚生労働省の令和5年若年者雇用実態調査の概況によれば、若年正社員の採用選考にあたり重視した点を新規学卒者について複数回答で尋ねたところ、項目ごとの割合は次のように並ぶ。
| 採用選考にあたり重視した点(新規学卒者・複数回答) | 事業所の割合 |
|---|---|
| 職業意識・勤労意欲・チャレンジ精神 | 79.3% |
| コミュニケーション能力 | 74.8% |
| マナー・社会常識 | 58.6% |
| 組織への適応性 | 53.2% |
| 体力・ストレス耐性 | 36.2% |
| 知識や技能(免許・資格・語学力など) | 30.4% |
| 柔軟な発想 | 29.3% |
| 学歴・経歴 | 22.4% |
| 業務に役立つ職業経験・訓練経験 | 14.7% |
上位に来るのは姿勢に関する項目で、知識や経歴は下のほうに沈む。同じ調査では、業務に役立つ職業経験・訓練経験が中途採用者では42.3パーセントまで跳ね上がる。新卒の選考で経験そのものが軽く扱われるのは、採る側がそこを期待していないからだ。つまり志望動機は、業界知識の量を示す欄ではない。働く構えがどこから来ているかを説明する欄である。
調べた事実は、そのままでは動機にならない
市場規模、主要プレーヤー、法改正の動き。業界研究で手に入るのはこうした外側の情報で、どれも誰が調べても同じ結論になる。同じ結論が百人分並べば、読む側はそこで差をつけられない。
事実が動機に変わるのは、その事実に対して自分がどう反応したかが添えられたときだ。市場が縮んでいると知って、それでも関わりたいと思ったのはなぜか。規制が厳しいと知って、面倒だと感じたのか、守る価値があると感じたのか。この反応の部分は調べても出てこない。自分の経験のほうから持ってくるしかない。
逆に言えば、反応を書けない事実は志望動機から外してよい。書類に入れる情報の取捨は、面白いかどうかではなく、自分の言葉を接続できるかどうかで決める。
この取捨は、調べた時間を無駄にする作業ではない。外した情報は面接の受け答えで効いてくる。志望動機の本文に置くか、聞かれたときに出す手札として控えておくかという置き場所の判断であって、捨てるわけではないからだ。
三つの接ぎ木で、事実を自分の言葉に変える
接続のやり方は、おおよそ三通りに整理できる。一つめは変化からの接続で、業界で起きている変化を挙げ、その変化に自分の関心が重なっている理由を続ける。たとえば物流の分野で労働時間の上限規制が入ったことを取り上げ、限られた人数で回す現場を見てきた経験につなぐ、という形だ。
二つめは構造からの接続で、業界の収益の仕組みや取引の流れを踏まえ、そのどこに自分が入りたいのかを示す。商社なら仲介で得る手数料と事業投資からの配当では求められる動き方が違う。どちらに惹かれたかを言えれば、職種選択の説明まで一続きになる。
三つめは制約からの接続である。業界が抱えている不自由さ、たとえば価格転嫁の難しさや人手不足を挙げ、それを承知のうえで選んだと述べる。前の章で見た数字に照らせば、この三つめが職業意識・勤労意欲という項目に最も近い位置にある。覚悟は、良い面を並べるより不利な面を正しく挙げるほうが伝わる。
三つのうちどれを選ぶかは、手元にある経験の種類で決まる。現場に立ち会った時間が長い人は変化からの接続が書きやすく、数字を追うことに慣れている人は構造からの接続が向く。迷うなら三通りとも短く書いてみて、自分の経験が最も具体的に出てくるものを残せばよい。
業界で止めず、会社を選んだ理由まで降ろす
三つの接続を通しても、業界の話で完結していれば面接は深まらない。読み手が次に知りたいのは、同じ業界の他社ではなくここを選んだ理由だからだ。ここで効くのが、業界研究で使った資料を一社分に絞って読み直す作業である。
有価証券報告書の事業等のリスクには、その会社が何を自社固有の危うさとして認識しているかが書かれる。同じ業界の二社を並べると、挙げている項目も順番も一致しないことが多い。経営方針や対処すべき課題の欄も同様で、業界共通の話と、その会社が選んだ打ち手とが分けて書かれている。
この違いを一つ拾えば、志望動機の後半が埋まる。業界について述べた部分と、その会社固有の記述に触れた部分を続けて書くと、調べた範囲の深さが文章の構造から見えるようになる。働くことの土台を扱うFLASPOの考え方に照らしても、選ぶ理由を他社との比較で言えるかどうかは、入社後の納得感に直結する部分だ。
提出前に、年次と言い換えの二点を点検する
書き上げた文章は、二つの観点で読み返すと事故が減る。一つは数字の年次だ。業界の統計は公表までに時間差があり、引いた数字が何年度のものかを言えないまま面接に進むと、質問一つで止まってしまう。本文に年度を入れない場合でも、手元の資料には必ず残しておく。
もう一つは言い換えの点検である。業界の説明に用語をそのまま持ち込むと、文章の前半が借り物の響きになる。用語を一つ残して他を日常の言葉に直すと、同じ内容でも読み手が追いやすくなる。文章の組み立て自体に不安があるなら、志望動機の書き方で全体の型を確かめてから、この章の点検に戻るとよい。
点検の順番は、年次を先にしたほうがよい。年度の取り違えが見つかると、その数字を使った段落ごと書き換えになることがある。言い換えの調整を先に済ませてしまうと、その手間が二度かかる。
仕上げに、書いた動機を声に出して読む。息が続かない文は、情報を詰め込みすぎている合図だ。業界研究の成果は量ではなく、一本の筋として残った部分だけが相手に届く。
よくある質問
業界研究がどこまで進んだら志望動機を書き始めてよいですか。全部を終えてからにする必要はない。変化、構造、制約のどれか一つについて自分の反応を言えるようになった時点で、いったん書いてみるのが早い。書いてみると足りない情報が具体的に分かるため、その穴を埋めるために調べ直すほうが効率がよい。
複数の業界を併願する場合、動機は使い回してよいのでしょうか。前半の自分側の記述は共通で構わないが、接続する事実は業界ごとに差し替える必要がある。使い回しが見抜かれるのは、業界固有の話がない文章になっているときだ。自分の軸の整理は自己分析のやり方の側で一度済ませておくと、差し替えの作業が軽くなる。
成長性や安定性を志望理由にするのは避けるべきですか。避ける必要はないが、その言葉だけで止めないことだ。成長性と書いたなら、何がどれだけ伸びているのかを一つ挙げ、その伸びのどこに関わりたいのかを続ける。言葉の抽象度を一段下げるだけで、同じ趣旨でも印象が変わる。
業界の課題を指摘する書き方は失礼にあたりませんか。公表資料に書かれている内容を踏まえているなら問題にならない。会社自身が開示している課題であれば、むしろ読んだ証拠になる。気をつけたいのは出所の曖昧な評判を持ち込むことで、これは論点がずれるだけでなく、確認した資料が無いことを露呈させてしまう。
志望動機の中で、業界の話と自分の話はどのくらいの比率にすべきですか。文字数を均等に割る必要はなく、自分の話のほうが長くて構わない。業界の記述は、自分の選択を説明するために必要な分だけあればよい。読み手は業界の解説を求めているのではなく、その人がなぜここに来たのかを知りたがっている。
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