合併しない選択をした村|西粟倉村の百年の森林構想と若い移住者

合併しないと決めたとき、村に残っていたもの

平成の市町村合併が各地で進んだ時期、岡山県の北東端にある西粟倉村は、平成十六年に美作市との合併協議会から離脱することを宣言した。国土交通省がまとめた事例集は、この判断の後に村が置かれた状況を率直に書いている。産業の面でも財政の面でも、自力で立っていく必要が生じたという一文である。

当時の村は、建築用材の生産でかつて栄えた林業の地だった。ただし社会情勢の変化とともに生産活動は細り、人工林には五十年から六十年生で間伐が行き届かない木が残されていた。林業の衰退が続けば、経済が縮むだけでなく、治山治水に関わる問題が噴き出す。村が動き出したきっかけは、その危機感だったと記録されている。

それから二十年が経ち、この村は地方創生の文脈でよく名前が挙がる存在になった。何を資源と見なし、どの順番で手を打ったのか。行政資料に残っている数字と仕組みをたどると、移住者が集まる村という結果の手前にある段取りが見えてくる。

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面積の九十三パーセントが森林という条件

村の輪郭を数字で押さえておく。国土交通省の資料によれば、総面積五十七・九七平方キロメートルのうち九十三パーセントを森林が占め、そのうち八十四パーセントが人工林である。村内森林の七十四・三パーセントは私有林で、村内全域で地籍調査が完了している。人口と高齢化率は時点によって動くため、出典ごとに分けて並べたほうが正確である。

項目 数値 時点・出典
人口 1,468人 平成30年3月/国土交通省資料
高齢化率 36% 平成30年3月/国土交通省資料
人口 約1,330人 2025年2月/村の募集要項
総面積 57.97平方キロメートル 国土交通省資料
森林の割合 93% 国土交通省資料
人工林の割合(森林のうち) 84% 国土交通省資料
私有林の割合(村内森林のうち) 74.3% 国土交通省資料

注目したいのは、森林の多くが人工林で、しかもその大半が私有林だという組み合わせである。手を入れれば売れる木が立っているのに、所有者が細かく分かれているために一体で管理できない。地籍調査が終わっていたことは、その問題を解きにかかるうえで効いた条件だった。森林率の高い県の暮らし方を比べるときにも、所有の形まで見ると地域ごとの違いが分かりやすい。

百年の森林構想は二つの事業でできている

村が掲げたのは、五十年生にまで育った森林の管理を諦めず、手入れの行き届いた森に囲まれた地域をつくるという構想である。目標は、森づくりの川上から川下までの経済活動をできるだけ村内で循環させ、災害に強い村土を保つこと。名前のとおり、五十年先に百年生の森を迎えることを見据えている。

仕組みは二本立てになっている。一つは百年の森林創造事業で、村が個人所有の森林を十年間預かって一括管理する長期施業管理契約を結び、まとめて手入れする集約化施業とFSC認証の取得を進める。もう一つは森の学校事業で、間伐材を使った商品開発とマーケティングを担う。木を育てる側と売る側を同時に動かし、二つを一体で回すところに構想の肝がある。

ただし立ち上げは平坦ではなかった。事業の採算が読めず資金源も乏しいため、森林所有者や森林組合の投資意欲が上がらず、初期投資が集まらないという壁があったと資料は記している。その突破口として平成二十一年から取り組まれたのが、ファンドを立ち上げて小口の投資を集める方法だった。公費だけに頼らず外部の資金を引き込む判断が、構想を机上の計画で終わらせなかった。

事業を担ったのは、外から来た若い世代だった

森の学校事業を担うのは株式会社西粟倉・森の学校という第三セクターで、国土交通省の資料はこれを若年世代の移住者が地域で起業した会社だと説明している。村が制度と森をそろえ、担い手は外から来た人が引き受けるという分担である。林業が衰退傾向にあり担い手の高齢化も進むなかで、五十年にわたる取り組みを続けるには人の確保が不可欠だという課題認識が、その背景にあった。

この順番は見落とされやすい。移住者が集まったから事業が生まれたのではなく、十年単位で森を預かる契約と、商品にして売るまでの出口があったから、そこに入る理由ができた。地域で起業したい人にとって、仕事の種が制度として用意されているかどうかは決定的である。任期を終えた隊員のその後を見ても、残るかどうかを分けるのは気持ちより受け皿の有無であることが多い。

村の側も人を呼ぶ手を続けている。二〇二五年二月に出された募集要項では、総務省の地域活性化起業人制度を使い、土木・建築の技術系職員が不在であることを明示したうえで、企業からの派遣社員を募っている。できないことを隠さずに書き、外部の専門性で埋める。構想を掲げた村が二十年後も使っているのは、同じやり方である。

国に選ばれた村と、学生が入れる隙間

令和元年七月、内閣府はSDGs未来都市として三十一都市を選び、特に先導的な取り組みを自治体SDGsモデル事業として十事業選定した。西粟倉村はその両方に入っている。提案のタイトルは「森林ファンドの活用で創出するSDGs未来村」で、モデル事業としては「森林ファンドと森林RE Designによる百年の森林事業Ver.2.0」が採択された。構想の第二段階が国の評価を受けた形である。

では学生がこの村に関わるとしたら、どこに入口があるか。現実的なのは三つある。一つは森林と木材の流れを調べる学びの場として訪ねること。所有の分散、集約化、認証、商品化という一連の流れが一つの村に収まっているので、教材としての密度が高い。二つ目は短期の滞在や体験を通じて、人口千三百人規模の村で何が足りていないかを自分の目で確かめること。

三つ目は、卒業後の進路として地域での起業や就業を具体的に検討することである。農業で移住する人の移住先選びと同じように、制度と収入の見通しを先に確かめるほど判断を誤りにくい。地域との接点をまず作りたい段階であれば、FLASPOが扱うような学生向けの地域プロジェクトから入ると、現地の課題を自分の言葉で語れるようになる。

よくある質問

村の人口は結局いくつなのか。国土交通省の資料は平成三十年三月時点で千四百六十八人、村が二〇二五年二月に出した募集要項は約千三百三十人としている。調査の時点も数え方も違うので、どちらが正しいかではなく、どの時点の数字かを添えて使うのが安全である。

長期施業管理契約は所有者にとって何が利点なのか。村が十年間まとめて預かることで、個々の所有者が単独では難しかった集約化施業が可能になる。手入れが進めば木の価値が上がり、認証を取れば販路も広がる。所有権を手放すわけではない点が、売却との大きな違いである。

森林ファンドとは何を指すのか。事業採算性を確保するための初期投資が難しかったため、平成二十一年から小口の投資を集める方法が採られた。国の補助金としては森林環境保全直接支援事業補助金などが使われており、公費と民間資金を組み合わせた構図になっている。

同じやり方を他の地域でも再現できるのか。村内全域で地籍調査が終わっていたこと、人工林が多く手を入れれば売れる木が立っていたことなど、前提条件が揃っていた面は否定できない。真似るべきは個別の事業名ではなく、資源の棚卸しから出口づくりまでを一続きで設計した順番のほうである。

一次資料はどこで読めるか。村の取り組みの経緯は国土交通省の事例資料に、SDGs未来都市の選定内容は内閣府の令和元年度選定一覧にまとまっている。数字を引くときは、この二つを先に当たるとよい。


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