同じ人でも、職場が変わると当たり方が変わる
人間関係でつまずくと、原因を自分の性格に求めたくなる。相手に合わせられない、言い返せない、気を使いすぎる、という具合に。ただ、原因の所在を測った統計を見ると、個人の資質より先に説明のつく条件がいくつも出てくる。
厚生労働省の委託で実施された「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」が分かりやすい。過去3年間に勤務先でパワーハラスメントを受けたと答えた労働者は全体で19.3%だが、勤務先がハラスメントの予防・解決に「積極的に取り組んでいる」と答えた人では15.2%、「あまり取り組んでいない」と答えた人では35.1%だった。開きは19.9ポイントで、倍以上になる。
同じ調査では、勤務先が予防・解決のための取組を行っている割合は41.8%にとどまっていた。半分以上の職場では、仕組みの側に手が入っていない。誰と組むかという運だけでなく、その職場が何を用意しているかで被害の確率が動いているということになる。
職場の空気も測られている。同じ調査では、ハラスメントを経験した人のほうが「悩み、不満、問題を上司に伝えやすい」「悩み、不満、問題を会社に伝えやすい」という項目に当てはまらないと答えた割合が高かった。言える経路があるかどうかが、起きやすさと結びついている。取組の対象として挙がったのはパワーハラスメントが88.1%、セクシュアルハラスメントが81.0%で、手をつけている職場でも範囲には偏りがある。
業種によっても下地が違う。予防・解決の取組を行っているという回答が他より多かったのは金融業・保険業と情報通信業で、相対的に少なかったのは建設業、宿泊業・飲食サービス業、その他のサービス業だった。働く場所を選ぶ段階で、すでに確率が分かれていることになる。
立場によって、受ける量が最初から違う
条件の二つ目は本人の立場である。厚生労働省の「令和7年 労働安全衛生調査(実態調査)」の個人調査では、強いストレスの内容として「対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)」を挙げた労働者は32.9%だった。これを属性で割ると、同じ割合では収まらない。
| 区分 | 対人関係を挙げた割合 |
|---|---|
| パートタイム労働者 | 38.5% |
| 契約社員 | 37.8% |
| 正社員 | 32.5% |
| 派遣労働者 | 30.1% |
| 女性 | 37.6% |
| 男性 | 29.1% |
| 30歳代 | 37.1% |
| 20歳代 | 26.1% |
雇用の形で8.4ポイント、性別で8.5ポイント、年代では30歳代と20歳代のあいだで11.0ポイント開く。指示を出す側と受ける側がはっきり分かれる立場、組織をまたいで働く立場、家庭と仕事の両方で調整役に回りやすい立場に、数字が寄っている。自分の性格が変わったわけでもないのに、異動や転職をきっかけに悩みが増えたという感覚には、こうした裏づけがある。
受けた側と行った側で、起きている数が合わない
三つ目の条件は認識のずれだ。ハラスメントの実態調査では、過去3年間に勤務先でハラスメント行為をしたと感じたり、したと指摘された経験があると答えた人は5.2%だった。受けた側の19.3%とは3.7倍の差がある。行為として記憶に残らないまま相手を削っている場面が、それだけあることになる。
勤務先の側も把握できていない。パワーハラスメントについて勤務先が「認識していた」のは37.1%で、知った後の対応は「特に何もしなかった」が53.2%と最も多い。認定については「ハラスメントがあったともなかったとも判断せずあいまいなままだった」が61.4%を占めた。訴えても判断されないままになる確率が高いのだから、言わないという選択が合理的に見えてしまう。
このずれは、当事者が自分の受け取り方を疑う方向に働く。気にしすぎだろうか、自分の説明が悪かったのだろうか、と考えはじめる。心理学の側から孤独感をどう測るかという話は友人関係と心理学で整理している。
学校では、人間関係だけが単独で起きているわけではない
子どもの場面でも同じ構図が見える。文部科学省の「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」では、小・中学校の不登校児童生徒35万3,970人について学校が把握した事実を複数回答で集めている。
「いじめ被害を除く友人関係をめぐる問題」は13.2%だが、同じ子どもたちについて「学校生活に対してやる気が出ない等の相談があった」が30.1%、「生活リズムの不調に関する相談があった」が25.0%、「不安・抑うつの相談があった」が24.3%、「学業の不振や頻繁な宿題の未提出が見られた」が15.6%挙がっている。複数回答なので、ひとりの子どもに複数が重なっている。
友人関係のつまずきが先にあって体調や意欲が落ちたのか、睡眠や学習のつまずきが先にあって人づきあいが続かなくなったのか、この集計では決められない。原因を一本に絞ろうとすると、かえって手当てが遅れる。親子の関わり方に関する問題が12.6%、家庭生活の変化が8.0%と、学校の外の条件も同じ表に並んでいる。
悩みが長引くのは、言いにくさが残るから
原因を考えるとき、始まりだけでなく「なぜ終わらないか」も条件に入る。内閣府の「令和7年 人々のつながりに関する基礎調査」では、孤独感があると答えた4,479人のうち10.3%が「人間関係による重大なトラブル(いじめ・ハラスメント等を含む)」を影響した出来事に挙げた。孤独感がないと答えた7,270人では1.7%で、6倍の開きがある。
そして長い。孤独を感じる状況が5年以上続いていると答えた人は48.8%を占めた。半分近くが5年単位の話をしている。短期の衝突が尾を引くのではなく、言えないまま置かれた状態が続いている形だ。
言いにくさの内訳も同じ調査にある。相談することについて「相談すると相手の負担になる」と答えた人が10.1%、「相談しても無駄である」が10.0%、「相談することが面倒である」が8.2%、「相談することが恥ずかしい」が5.4%だった。一方で「相談することで解決しなくとも気持ちが楽になる」は68.9%に上る。効くと分かっている人が多いのに、負担をかけるという気遣いが先に立って止まる。年代による頼り先の変化は社会人の友人関係で扱っている。
放置された結果は意欲の問題として表に出る。ハラスメントの実態調査では、パワーハラスメントを受けたことによる心身への影響として「怒りや不満、不安などを感じた」が68.5%、「仕事に対する意欲が減退した」が61.1%だった。やる気のなさとして観察される状態の手前に、人間関係の出来事がある場合がある。
よくある質問
原因が自分にあるかどうかを見分ける方法はありますか。同じ職場で同じ相手と働いている他の人がどうかを確かめるのが近道である。ハラスメント経験率は職場の取組状況で19.9ポイント違っていたので、場の条件が疑われる場面は多い。
相手に悪意がないと言われます。行為をしたと自覚している人は5.2%にとどまり、受けた側の19.3%と大きく離れていた。悪意の有無は、起きたことの有無とは別に数える必要がある。
転職すれば解決しますか。対人関係を挙げた割合は雇用の形で8.4ポイント、年代で11.0ポイント開いていた。移った先の立場と取組状況によって変わるので、職場を替えること自体が答えになるわけではない。
子どもが友人関係で悩んでいるようです。学校が把握した事実では、友人関係をめぐる問題13.2%に対して、生活リズムの不調25.0%や不安・抑うつ24.3%が重なっていた。人づきあいの話だけに絞らず、睡眠や体調も一緒に見たほうがよい。
悩みが何年も続いています。孤独を感じる状況が5年以上続く人は48.8%で、珍しいことではない。FLASPOのように関心を軸にした場をひとつ足すと、既存の関係を壊さずに比べる相手を増やせる。
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