順位は「どこで聞かれたか」で決まる
人間関係の悩みの順位を調べようとすると、最初に出てくるのは保険会社や人材会社のアンケートである。回答者が数百人のものも多く、選択肢の作り方も実施した会社ごとに違う。一本ずつは読めても、並べたときに数字が噛み合わないのはそのためだ。
公的な統計にも、人間関係の悩みだけを取り出して順位をつけた調査は見当たらない。あるのは日常生活の不安、職場のストレス、学校を休みがちな子どもの状況といった場面ごとの調査で、人間関係はそれぞれの選択肢の一つとして混ざっている。だから順位は「何と並べて聞かれたか」で動く。
下の表は、四つの公的調査で人間関係に当たる項目が何番目に来るかを並べたものだ。母数も設問も違い、どれも複数回答なので、割合そのものを比べることはできない。順位の位置だけを見てほしい。
| 場面 | 調査 | 最も多い項目 | 人間関係の位置 |
|---|---|---|---|
| 日常生活 | 人々のつながりに関する基礎調査(令和7年) | 自分の健康 64.5% | 家族・親族間 15.3%で7番目 |
| 職場 | 労働安全衛生調査(令和7年) | 仕事の量と仕事の失敗 各39.5% | 対人関係 32.9%で3番目 |
| 小・中学校 | 問題行動・不登校等調査(令和6年度) | やる気が出ない 30.1% | 友人関係 13.2%で5番目 |
| 高等学校 | 同調査(令和6年度) | やる気が出ない 26.9% | 友人関係 10.2%で5番目 |
日常生活では七番目と八番目に分かれて出てくる
暮らし全体を対象にした順位を知りたいなら、内閣府の「令和7年 人々のつながりに関する基礎調査」が近い。全国の16歳以上から2万人を抽出し、1万1,873人が答えている。日常生活で不安や悩みを感じていることがある人は70.7%だった。
その8,399人に内容を尋ねると、自分の健康64.5%、収入や資産・老後の生活設計53.3%、家族の健康や介護50.5%が上位三つを占める。人間関係はここから下がって、家族・親族間が15.3%で七番目、学校や勤務先が12.6%で八番目に入る。近隣・地域との関係は4.7%、恋愛・性関係は4.9%である。
注意したいのは、この調査が人間関係を四つの選択肢に割っている点だ。合わせれば上位に食い込む計算になるが、複数回答なので単純な足し算は成り立たない。それでも、健康と家計と介護という生活の土台が先に立ちはだかり、人づきあいはその次に置かれるという並びは読み取れる。
職場では三番目まで上がってきた
働いている場面に絞ると位置が変わる。厚生労働省の「令和7年 労働安全衛生調査(実態調査)」の個人調査では、いまの仕事に強い不安や悩み、ストレスと感じる事柄がある労働者は67.5%だった。前年の68.3%とほぼ同じ水準である。
内容を三つ以内で選ばせると、「仕事の量」39.5%と「仕事の失敗、責任の発生等」39.5%が同率で最も多く、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)」が32.9%で三番目に来る。前年の調査では26.1%の四番目だったので、1年で6.8ポイント上がり、順位も一つ繰り上がった。四番目以降は「仕事の質」30.7%、「顧客、取引先等からのクレーム」22.1%と続く。
同じ調査を属性で割ると、対人関係を挙げた割合は女性37.6%に対して男性29.1%、年齢では30歳代37.1%と40歳代36.8%が高い。就業形態ではパートタイム労働者38.5%、契約社員37.8%、正社員32.5%、派遣労働者30.1%となる。立場によって当たり方が違うので、全体の順位だけで自分の職場を測るとずれる。
社内の相手だけが問題になるわけでもない。厚生労働省の委託で行われた「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」では、過去3年間に勤務先でパワーハラスメントを受けたと答えた人が19.3%、顧客等からの著しい迷惑行為を受けた人が10.8%、セクシュアルハラスメントを受けた人が6.3%だった。社外から来る迷惑行為が、セクハラより多く報告されている点は見落としやすい。
学校では「やる気」と「生活リズム」の下に置かれる
子どもの場面では、文部科学省の「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」が手がかりになる。小・中学校の不登校児童生徒数は35万3,970人で、前年度の34万6,482人を超えて過去最多となった。
学校が把握した事実を複数回答で見ると、「学校生活に対してやる気が出ない等の相談があった」30.1%、「生活リズムの不調に関する相談があった」25.0%、「不安・抑うつの相談があった」24.3%、「学業の不振や頻繁な宿題の未提出が見られた」15.6%が並び、「いじめ被害を除く友人関係をめぐる問題」は13.2%で五番目に入る。小学校11.8%、中学校14.1%と、学年が上がるほど高い。
高等学校の不登校生徒数は6万7,782人で、友人関係をめぐる問題は10.2%だった。やる気が出ない26.9%、生活リズムの不調26.2%、不安・抑うつ16.0%、学業の不振12.8%より下に来る。ここで忘れたくないのは、これが学校が把握して計上した事実だということだ。相談が学校に届いていなければ数には入らないので、子どもの実感とは別物として読む必要がある。
順位の低さと深刻さは別の話である
頻度の順位は「何人が抱えているか」しか表さない。重さを見るには別の切り方が要る。先の内閣府調査には、孤独感に影響を与えたと思う出来事を尋ねた設問があり、孤独感があると答えた4,479人と、「決してない」「ほとんどない」と答えた7,270人を対照できる。
「人間関係による重大なトラブル(いじめ・ハラスメント等を含む)」を挙げたのは、前者で10.3%、後者で1.7%だった。差は8.6ポイント、割合でいえば6倍である。一人暮らしは19.4%と5.6%、心身の重大なトラブルは14.2%と3.2%、家族との死別は15.3%と5.5%で、人間関係のトラブルは件数では中位にいながら、孤独感の有無を分ける力では上位の出来事に並ぶ。
しかも長引く。同じ調査では、孤独を感じる状況が5年以上続いていると答えた人が48.8%を占めた。順位が低い項目を「我慢できる悩み」と読み替えてしまうと、この持続性を見落とす。頼り先の広げ方は友人関係の悩み、地域との付き合いの実態は地域コミュニティの現状で扱っている。
よくある質問
どのランキングを見ればよいですか。自分の悩みが起きている場所に合わせて選ぶのが早い。職場で起きているなら労働安全衛生調査、子どもの学校生活なら文部科学省の調査、暮らし全体なら内閣府の調査が対応する。
民間アンケートで「一位は職場の人間関係」と出ているのは誤りですか。誤りではなく、選択肢と母数が違うだけである。公的統計でも職場に限れば三番目まで来るので、職場に絞った調査で上位に出ることは起こりうる。
人間関係の悩みは増えているのですか。職場では対人関係を挙げた割合が1年で6.8ポイント上がり、小・中学校の不登校児童生徒数は過去最多を更新した。ただし単年の動きなので、増加と断じるのはまだ早い。
順位が低い悩みは後回しでよいのですか。孤独感の有無を分ける出来事としては、人間関係のトラブルが6倍の開きを作っていた。件数の順位と、その人の生活への響き方は別に考えたほうがよい。
相談相手が一人もいない場合はどうすればよいですか。内閣府調査では、不安や悩みが生じたときの相談相手がいないと答えた人が9.2%いた。家族と職場の二本しかない状態は詰まりやすいので、FLASPOのように関心でつながる場を一つ持っておくと三本目になる。
社外の相手との関係も人間関係の悩みに入りますか。ハラスメントの実態調査では、顧客等からの著しい迷惑行為が10.8%で、労働安全衛生調査でも顧客や取引先からのクレームが22.1%で五番目に入っていた。社内に限った話として数えると取りこぼす。
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