心理学は「孤独ですか」とは聞かない
友人関係の良し悪しを本人に尋ねると、たいてい「ふつうです」と返ってくる。孤独のような主観的な感情は、言葉で名指しされた瞬間に答えが歪むからである。この問題に正面から対処している公的調査が日本にもある。内閣府の孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和7年)は、孤独感を2種類の質問で別々に測り、両方の結果を並べて公表している。
一方は直接質問で、「あなたはどの程度、孤独であると感じることがありますか」と尋ね、決してない、ほとんどない、たまにある、時々ある、しばしばある・常にあるの5段階で答えさせる。もう一方は間接質問で、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のラッセルが考案したUCLA孤独感尺度の日本語版3項目短縮版を用いる。調査の概要のとおり、原典はRussell(1996年)、日本語版は舛田ゆづりらによる2012年の研究、3項目版はArimotoらによる2019年の研究である。
間接質問の設問には「孤独」という語が一度も出てこない。自分には人とのつきあいがないと感じることがあるか、自分は取り残されていると感じることがあるか、自分は他の人たちから孤立していると感じることがあるか。この3つに、決してないを1点、ほとんどないを2点、時々あるを3点、常にあるを4点として配点し、合計3〜12点を4区分に整理する。10〜12点を常にある、7〜9点を時々ある、4〜6点をほとんどない、3点を決してないとみなす設計である。
同じ人に聞いても、2つの質問は違う分布を返す
尋ね方を変えただけで結果はどこまで動くのか。有効回答11,873人の集計を並べると、ずれは一目で見える。
| 水準 | 直接質問(孤独と明示) | 間接質問(UCLA尺度) |
|---|---|---|
| 常にある/しばしばある | 4.5% | 6.5%(10〜12点) |
| 時々ある | 13.7% | 38.2%(7〜9点) |
| たまにある | 19.5% | 該当区分なし |
| ほとんどない | 41.6% | 39.9%(4〜6点) |
| 決してない | 19.6% | 14.7%(3点) |
上端では間接質問のほうが2.0ポイント多く拾う。下端では逆に、直接質問で「決してない」と言い切る人が19.6%いるのに対し、尺度上で3点すなわち3項目すべてに決してないと答えた人は14.7%しかいない。差は4.9ポイントで、ここには「孤独ではないが、取り残されていると感じることはある」人が入っている。
心理学が尺度を使うのは、この層を取りこぼさないためである。孤独という言葉には弱さや失敗の含みがあり、認めることに抵抗が働く。言葉を外して経験だけを聞けば、抵抗の分だけ精度が上がる。自分の友人関係を点検するときにも、寂しいかどうかではなく、取り残されたと感じた場面があったかどうかを思い出すほうが当たる。
会う頻度を階段にすると、尺度のほうがきれいに反応する
尺度の強みは、量的な条件との対応を見ると鮮明になる。同居していない家族や友人たちと直接会って話す頻度ごとに孤独感を集計した結果では、UCLA尺度のスコアが10〜12点になる割合は、週4〜5回以上で3.7%、週2〜3回程度で2.4%、週1回程度で3.9%、2週間に1回程度で4.2%、月1回程度で4.6%、月1回未満で9.0%、全くないで21.4%となる。
月1回程度までは4%台で踏みとどまり、そこから月1回未満で倍、全くないでさらに倍以上に跳ねる。頻度は連続的に下がるのに、孤独感は特定の境目で段をつくる。関係が切れたと本人が認識する線が、月1回と月1回未満のあいだに引かれていると読める。逆の端も対応しており、スコアが3点だった割合は週4〜5回以上で24.9%、全くないで7.0%である。
同じ区分を直接質問で見ると、「しばしばある・常にある」は週4〜5回以上2.7%、週2〜3回程度1.8%、月1回程度3.2%、月1回未満5.9%、全くない14.5%になる。方向は同じだが上端の幅が狭く、途中の動きも小さい。会う回数という外から数えられる条件に対して、どちらの質問がよく反応するかという比較としては、尺度に軍配が上がる。友人関係と若者で見た世代差も、この尺度で測れば頻度の段差と重なって現れる。
効いているのは人数ではなく、気軽に話せる相手が1人いるかどうか
では何が孤独感を最も大きく分けるのか。この調査の中で差が極端に開く項目は1つに絞られる。ふだん気軽に話せる相手がいるかどうかである。いると答えた10,767人のうち、孤独感が「しばしばある・常にある」だった割合は2.5%。いないと答えた1,015人では25.0%で、10倍の開きになる。
尺度でも同じ結論が出る。スコア10〜12点の割合は、いる側で4.1%、いない側で32.8%。年収や世帯構成、外出頻度といった他の属性でこれほど差がつく区分はない。質問文が問うているのは関係の人数でも深さでもなく、話しかけても構わないと思える相手が1人でも存在するかという点である。
友人関係を広げようとする人がまず数を数えたがるのは、ここで順番を間違えている。友達と知り合いの違いで整理したように、頼れるかどうかの線は人数とは別のところに引かれている。3人の知人を増やすより、連絡が途切れかけている1人に用件なしで声をかけるほうが、尺度の上では大きく動く。
つながりを「重視していない」と答えた層で、孤独感が最も高くなる
この調査にはもう1つ、解釈に注意を要する結果が入っている。人とのつながりについて何を重視するかを尋ね、重視の度合いごとに孤独感を集計したところ、結果は単調な右肩下がりにならなかった。気軽に話したり連絡しあえる人がいることを重視していると答えた4,924人では、スコア10〜12点の割合は4.1%。ある程度重視しているで5.0%、あまり重視していないで12.3%、重視していないと答えた603人では24.4%に達する。
困ったときに助け合ったり相談しあえる人がいることでも、4.6%、5.0%、11.1%、24.0%と同じ並びをたどる。重視していない人が満ち足りているわけではなく、むしろ最も高い。つながりを求めない姿勢が孤独を防いでいるのではなく、失ったあとに重要度を下げて辻褄を合わせている可能性が高い。心理学でいえば、期待水準の切り下げによる自己防衛にあたる動きである。
比較のために、オンライン上のコミュニティやSNSでつながれる人がいることという項目を見ると、様子が変わる。重視している1,214人でスコア10〜12点が6.0%、重視していない4,748人で8.2%。差は2.2ポイントしかない。対面の関係についての価値観は孤独感を大きく分けるのに、オンラインの関係についての価値観はほとんど分けない。場をどこに持つかという判断は、友人関係の作り方でも参加の有無として効いていた。地域や学生の活動を扱うFLASPOのような場が実地の接点として挙がるのは、この非対称があるためである。
よくある質問
UCLA孤独感尺度は自分で試せるものなのでしょうか。公表されている3項目はそのまま読める形で調査票に載っており、各項目を1点から4点で採点して合計するだけである。ただし区分は便宜的なもので、診断に使う道具ではない。自分の状態を時系列で比べる目安として扱うのが妥当な使い方になる。
孤独だと感じていなければ問題はないということでしょうか。直接質問で「決してない」と答えた人は19.6%だが、尺度で3点に収まった人は14.7%で、4.9ポイント少ない。自覚と測定値がずれる領域があり、自覚のない側に状況の悪化が隠れることがある。会う頻度や話せる相手の有無といった外から数えられる条件を併せて見るほうが安全である。
友人が少なくても平気な性格なら、気にしなくてよいのでしょうか。平気だと答える層でスコアが最も高くなるという結果が出ているため、この自己申告は額面どおりには受け取れない。重視していないという回答が本心なのか、調整の結果なのかは本人にも区別しにくい。判断を急がず、気軽に話せる相手が1人いるかという具体的な問いに置き換えると見通しがよくなる。
友人関係を心理学の道具で測り直すと、問題の位置が人数から経路へ移る。何人いるかではなく、取り残されたと感じる場面がどれだけ減っているか。尺度が拾っているのはその一点であり、動かし方も具体的な1人への連絡という形で特定できる。
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