歩いて行ける店がない、を数える方法がある
祖父母の家に帰ったとき、近くの商店が閉まっていて驚いた経験はないだろうか。その感覚には対応する統計がある。農林水産政策研究所が全国を500メートル四方のます目に区切って作っている食料品アクセスマップで、店舗まで500メートル以上あり、かつ自動車の利用が困難な65歳以上の人を「食料品アクセス困難人口」として数えている。
ここでいう店舗は幅広い。食肉、鮮魚、青果の小売店に加え、食料品スーパー、大規模量販店、デパート、コンビニエンスストア、ドラッグストアまでが含まれる。つまり、コンビニもドラッグストアも500メートル以内にない世帯を拾っている。2020年国勢調査にもとづく推計(令和6年2月27日公表)によれば、該当するのは全国で904万3千人、65歳以上人口の25.6パーセントにあたる。
年齢を絞るとさらに重くなる。このうち75歳以上は565万8千人で、75歳以上人口の31.0パーセントを占めた。アクセス困難人口に占める75歳以上の割合は62.6パーセントである。4人に1人という全体の数字より、75歳以上の3人に1人という数字のほうが、実際に困っている人の姿に近い。
地方圏と都市圏で、人数と割合の向きが違う
この問題を過疎地域だけの話だと考えると、数字を読み違える。地域別の内訳を並べると、人数と割合が別のことを語っているのが分かる。
| 地域 | アクセス困難人口 | 65歳以上に占める割合 | うち75歳以上 | 75歳以上に占める割合 |
|---|---|---|---|---|
| 全国計 | 904万3千人 | 25.6% | 565万8千人 | 31.0% |
| 三大都市圏 | 414万1千人 | 24.2% | 249万9千人 | 28.2% |
| 東京圏 | 203万7千人 | 22.5% | 119万6千人 | 25.6% |
| 名古屋圏 | 78万7千人 | 26.4% | 50万0千人 | 32.5% |
| 大阪圏 | 131万7千人 | 26.0% | 80万2千人 | 30.3% |
| 地方圏 | 490万2千人 | 26.9% | 316万0千人 | 33.7% |
地方圏の490万2千人は全国の54.2パーセントを占める(全国計から筆者が算出した)。割合でも26.9パーセントと最も高く、75歳以上では33.7パーセントに達する。地方の高齢者の3人に1人が、歩いて行ける範囲に食料品の店を持たない。
しかし三大都市圏にも414万1千人がいて、全体の4割以上を占める。東京圏だけで203万7千人、割合も22.5パーセントある。駅前に店が集まり、丘の上の住宅地から坂を下りなければならない街では、距離の条件がそのまま当てはまる。名古屋圏の26.4パーセント、大阪圏の26.0パーセントは地方圏と大きく変わらない。買い物の不便は人口密度ではなく、店の配置と移動手段で決まるということになる。
増えているのは、高齢者が増えたからだけではない
2015年の推計と並べると、2020年のアクセス困難人口は全国で9.7パーセント増えた。75歳以上に限れば5.7パーセント増である。ここで一つ断りが要る。2015年以前は店舗の情報に商業統計の地域メッシュ統計を使っており、ドラッグストアが含まれていなかった。研究所自身がデータが異なるため連続しないと明記しているので、参考値として読むべき数字だ。
店が入っていなかった旧方式より、店の種類が増えた新方式のほうが数えられる人は減るはずである。それでも増えているなら、高齢化だけでなく店舗側の変化が効いていることになる。研究所は背景として、中心市街地の衰退と商業施設の郊外化によって店舗が大きく減ったことを挙げ、過疎地域のみならず都市部でも問題が表面化していると書く。
もう一点、定義に含まれる条件を思い出したい。対象は「自動車の利用が困難な」65歳以上である。運転免許の返納はこの線を一気に越えさせる。昨日まで週に一度まとめ買いができていた人が、返納した翌日から500メートルの壁の内側に入る。人口が減っていなくても該当者は増えうる。移動の制約が地域との関わりをどう狭めるかは関係人口が増えない理由を数字で見る|時間・お金・交通という壁でも触れた。
市町村の9割が必要と答え、6割弱に民間が入っている
行政側はどう動いているのか。農林水産省が毎年行っている食料品アクセス問題に関する全国市町村アンケート調査の令和7年度分(令和7年8月から令和8年1月に実施、令和8年3月27日公表)によると、対策が必要またはある程度必要と答えたのは1,106市町村で、回答した市町村の89.3パーセントにあたる。
実施状況は、行政か民間事業者のいずれかで対策が取られている市町村が86.8パーセントだった。対策が必要と答えた市町村に限れば、行政による何らかの対策が実施されているのは74.1パーセントである。必要だと認識していても、4分の1は行政としての手を打てていない。
気になる変化は民間側にある。民間事業者が独自に参入している市町村は58.2パーセントで、前年度の60.1パーセントから下がった。参入の中身も入れ替わっている。移動販売車の導入と運営は増加傾向にある一方、宅配や御用聞き、買物代行サービスは減少傾向にある。人手を多く要するサービスから、車で回る形へ移っていると読める。
対策の内容は都市の規模で分かれる。大都市では宅配や御用聞き、買物代行サービスへの支援が最も多く、中都市と小都市ではコミュニティバスや乗合タクシーの運行などへの支援が最も多い。前の節で見たとおり都市部にも414万人がいるが、打ち手は同じではない。農林水産省の食料品アクセス問題のページに調査結果がまとめられている。
外から関わるなら、買い物の線に重なるものを見る
学生や都市部の社会人がこの問題に関わろうとするとき、移動販売車を走らせるところから始めるのは現実的ではない。見るべきは、買い物の線にほかの機能が重なっている場所である。
手がかりの一つが見守りだ。移動販売車の取り組みのうち、市町村との見守り体制を構築している割合は、行政が実施するもので約5割、民間事業者が実施するもので約3割にとどまる。裏を返せば、走っている車の半分前後は、週に一度その家の前に止まるのに、安否の確認とはつながっていない。仕組みを足す余地がここにある。
もう一つは交通である。中小都市でコミュニティバスや乗合タクシーへの支援が最多だったことは、買い物の課題が移動の課題として処理されていることを示す。買い物だけの事業を立てるより、既にある路線の時刻や停留所を店舗の位置に合わせるほうが早い場合がある。生活サービスの不足は一つずつ現れるのではなく束になって現れるもので、医療の面から見た地図は医療の空白は557地区12万人|地域で医療に関わる事業を起こす前の地図にまとめた。
そして、移り住む側の実感とも重なる。買い物と車の問題は移住のデメリットを先に知る|仕事・車・買い物と地域の付き合いで繰り返し挙がる項目である。地域に関わる入り口を探しているならFLASPOの事例から、既に動いている取り組みに乗る形を考えるのが近道になる。
よくある質問
食料品アクセス困難人口はどう定義されていますか。店舗まで500メートル以上あり、かつ自動車の利用が困難な65歳以上の人を指す。店舗には食肉、鮮魚、青果の小売店、食料品スーパー、大規模量販店、デパート、コンビニエンスストア、ドラッグストアが含まれる。
都市部は関係ないのではありませんか。三大都市圏に414万1千人がいて、全国の4割以上を占める。東京圏の割合は22.5パーセントで最も低いが、名古屋圏の26.4パーセントと大阪圏の26.0パーセントは地方圏の26.9パーセントとほとんど変わらない。
2015年の数字と比べてよいのですか。比較は参考程度にとどめたい。2015年以前は店舗の把握に商業統計を使い、ドラッグストアが含まれていなかった。研究所もデータが異なるため連続しないと注記している。
どのくらいの市町村が対策に取り組んでいますか。行政か民間事業者のいずれかで対策が取られているのは86.8パーセント。対策が必要と答えた市町村のうち、行政による対策が実施されているのは74.1パーセントだった。
いま伸びている対策は何ですか。移動販売車の導入と運営が増加傾向にある。逆に宅配や御用聞き、買物代行サービスは減少傾向で、民間事業者が独自に参入している市町村の割合も58.2パーセントへ下がった。
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