「早すぎる次の恋」への評価は割れてきた
別れて間もない時期に新しい相手ができると、周囲は心配する。気持ちの整理がついていないのに、別の人を巻き込むのはよくない。そう言われる一方で、次の恋に進んだ人ほど元の相手を引きずっていないように見える場面もある。どちらの印象も、研究の側に対応する知見がある。
岡山大学の木村明日美と安藤美華代が2024年にまとめた恋愛関係喪失体験からの回復に関する文献レビューは、国内外30件の研究を整理している。そこで回復を促す側に挙げられた状況要因のひとつが、新しい恋人の存在だった。同時に、元恋人への強い愛着欲求や、相手の近況が目に入り続ける環境は回復を妨げる側に並んでいる。
つまり争点は、次の恋が良いか悪いかではない。新しい相手が前の関係から離れる助けになる場合と、前の関係を抱えたまま横に人を置くだけになる場合があり、その違いがどこで生まれるかという問いになる。
325名の調査に出た、新しい恋人と段階の進み方
この問いへ正面から数字を出したのが、古村健太郎、戸田弘二、村上達也、城間益里が2019年に心理学研究へ発表した元恋人へのアタッチメント欲求が関係崩壊後の反応段階の移行を遅らせるである。調査対象は18歳から29歳の325名で、男性109名、女性216名、平均年齢は25.3歳だった。いずれも過去1年以内に、相手の側から別れを切り出された経験を持つ人たちである。
著者らは回答者を、喪失反応のどの段階にいるかで三つのランクに分けた。思慕と絶望が同時に生じているランク3、最終段階へ移る手前のランク2、対象から心が離れて再建に至ったランク1である。そのうえで、どの要因が段階の前進と結びつくかを調べた。
ランク2からランク1への移行に関わっていたのは、別れる際の元恋人の誠実な態度と、元恋人への愛着欲求だった。新しい恋人の存在も、前掲のレビューでは回復を促す要因として整理されている。逆に、元恋人を安全な避難場所として求める程度が強いほど移行は止まりやすく、別れ際の申し訳なさそうな態度は復縁の余地を感じさせて回復を妨げていた。
ランク3からランク2への移行にも、元恋人への愛着欲求が愛着不安や元恋人の反省的な態度と並んで関わっていた。段階の移行は直線的ではないものの、時間の経過とともにおおむね一方向へ進むことも確かめられている。新しい相手の有無は、この進み方を左右する複数の条件のひとつとして位置づけられる。
「置き換え」という対処が働く条件
次の恋を探すという行動は、失恋への対処を分類した研究にも項目として入っている。加藤司が2005年に544名を対象に行った失恋ストレスコーピングの調査では、「次の恋を見つけようとした」は回避の下位にある置き換え因子にあたる。回避は肯定的解釈、置き換え、気晴らしの三つで構成され、使用頻度が高い人ほどストレス反応が和らぎ、回復までの期間も短かった。
ここで効いているのは、相手が代わったことそのものではない。関心の置き場所が、取り戻せない関係から自分のこれからの生活へ移ることである。同じ分類で回復を妨げる側にあったのは、関係を戻そうとする未練と、相手をうらんだり考えまいとしたりする拒絶だった。どちらも視点が元の相手に固定されている。
この見方に立つと、新しい交際が逆効果になる形も説明がつく。元恋人と比べるため、別れを認めずに済ませるため、連絡が来るかどうかを確かめるために誰かと会うなら、関心の中心は前の関係に残ったままになる。置き換えという言葉は相手の交換を指しているのではなく、注意の移動を指している。
別れたあとの関係の持ち方で差が出る
新しい交際が効く場面は、別れ方によっても変わる。中山真、橋本剛、吉田俊和が2017年にパーソナリティ研究へ発表した恋愛関係の崩壊によるストレス関連成長は、大学生と短大生184名に過去5年以内の経験を振り返ってもらい、崩壊の形態ごとに成長感を比べた。片思いの終わりより、交際していた関係の破局のほうが成長感は高かった。
前掲のレビューはこの研究の結果をさらに細かく紹介している。片思いだった場合は、相手との交流が途切れるより何らかの関係が続いたほうが成長感は高い。交際相手と別れて関係が続かなかった場合は、新たな交際経験がある人のほうが成長感が高かった。
| 別れの形 | その後の関係 | 成長感が高かったのは |
|---|---|---|
| 片思いの終わり | 交流が途切れた/何らかの関係が続いた | 関係が続いた側 |
| 交際相手との破局 | 関係が続かなかった | 新たな交際経験がある側 |
| 片思いと破局の比較 | — | 破局を経験した側 |
片思いと破局で向きが逆になるのは不思議に見えるが、失ったものの中身が違う。片思いでは関係そのものが残り得るのに対し、破局では戻れない関係を抱えることになる。戻せないものから離れる手がかりとして、新しい交際が働いていると読める。
元恋人が視界から消えない時代の条件
次の恋に進んでも前の相手が消えないのは、現在では環境の問題でもある。山下倫実が2014年に行った307名の調査は、社会人253名、学生34名、無職20名を対象に、別れたあとも相手と接触しやすくする条件を調べている。平均年齢は30.03歳だった。
そこでは、SNSを介して失恋相手の近況を知る機会があることが未練と正の関連を示していた。別れる前のパートナーと共通の友人が多いことも、男性では未練と敵意の双方に結びついていた。一方で、相手とのSNS上の会話頻度は敵意と負の関連を示しており、接触の種類によって働き方は違う。
新しい相手ができても、画面の向こうで前の関係が更新され続けるなら、関心は往復する。回復を測る物差しが相手から心が離れた状態である以上、環境の整理は対処と同じ重みを持つ。相談先や人付き合いの広げ方は人間関係の悩み解消法でも扱った。別れの直後に体調が崩れる仕組みは失恋のショックは体にも出るにまとめている。地域の活動を通じて人と出会う場を探すなら、FLASPOのような入口もある。
よくある質問
何か月あければ次の恋に進んでよいのか。期間の基準を示した研究は見当たらない。国内の調査が回復の指標に置いてきたのは経過日数ではなく、相手から心が離れて自由になっているかどうかである。前の相手と比べずに目の前の人を見られるかが、暦よりも実際的な目安になる。
すぐに新しい相手ができる人は薄情なのか。海外の研究はむしろ逆の可能性を示している。マーシャルらが2013年にPLOS ONEへ発表した調査では、別れの苦痛の強さと次の相手へ移る傾向のあいだに有意な関連はなかった。移るのが早いことは、傷ついていないことを意味していない。
次の恋で前の相手を忘れられるのか。同じ調査の研究2では、465名を対象に愛着の不安と成長の関係が調べられ、次の相手へ移る傾向を経由して個人的成長と間接的に結びついていた。ただし忘却が条件になっているわけではない。国内の研究でも最終段階は、相手を思い出さないことではなく、相手に気持ちが縛られなくなることとして定義されている。
元恋人のアカウントはどうすればよいのか。近況が目に入る機会が未練と結びつくという結果からすれば、見ない環境を作るほうが段階は進みやすい。ブロックまでしなくても、通知やおすすめ表示を切るだけで接触の頻度は大きく下がる。会話そのものを断つかどうかは、敵意との関連が逆向きだった点を踏まえて別に考えたい。
新しい相手に前の失恋の話をしてよいのか。国内の研究は、話す相手が複数あることを回復の側に置いてきた。ただし支えの源が交際相手ひとりに集中していた人は、別れが支えそのものの喪失になりやすいことも指摘されている。新しい相手だけを相談先にせず、友人や家族の側も開けておくほうが崩れにくい。
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