失恋の立ち直り方|回復を早める対処と遅らせる対処の分かれ目

失恋の立ち直り方|回復を早める対処と遅らせる対処の分かれ目

立ち直りの目安は、記憶が消えることではない

別れてから何か月たっても相手を思い出す。それを「まだ立ち直れていない証拠」と受け取る人は少なくない。ただ、研究が立ち直りの指標に置いてきたのは記憶の有無ではなかった。岡山大学の木村明日美と安藤美華代が2024年に発表した恋愛関係喪失体験からの回復に関する文献レビューは、国内外の研究が回復を何で測ってきたかを一覧にしている。

このレビューは国外322件、国内267件の文献を検索し、絞り込みを経て国外18件と国内12件を分析対象にしたスコーピングレビューである。国外の18件では、抑うつ症状を測る尺度で回復を見ていた文献が7件、別れの苦痛を測っていた文献が4件と多かった。回復そのものを定義していた文献は18件中2件にとどまる。

国内の様子はやや違う。12件のうち8件が回復を定義しており、その多くがボウルビィの喪失反応の最終段階、つまり対象から心が本当に離れて自由になる状態を指していた。ここで想定されているのは、相手を忘れた状態ではなく、相手が生活の中心を占めなくなった状態である。思い出せることと、思い出に振り回されることは別の話になる。

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544名の調査が分けた、三つの向き合い方

何をすれば早く楽になるのか。この問いに対処行動の側から答えようとしたのが、加藤司が2005年に社会心理学研究へ発表した失恋ストレスコーピングと精神的健康との関連性の検証である。調査対象は544名で、交際相手との別れを挙げた人が290名、片思いの相手との別れを挙げた人が239名だった。

集まった行動は三つの系統に整理されている。一つめの「未練」には、関係を戻そうとする動きが入る。二つめの「拒絶」は、相手をうらむ敵意と、相手のことを考えないようにする関係解消の二つに分かれる。三つめの「回避」は、失恋が自分の成長に役立つと考える肯定的解釈、次の恋を見つけようとする置き換え、スポーツや趣味に打ち込む気晴らしの三つを含む。

結果は一方向を向いていた。回避の使用頻度が高い人ほどストレス反応は和らぎ、回復までの期間も短い。未練と拒絶の頻度が高い人ほどストレス反応は強まり、回復は遅れていた。加藤は、失恋は失った関係を取り戻せない状況であり、その状況から距離を取ることが痛手からの回復を進めると述べている。

系統 含まれる行動の例 回復との関係
回避(肯定的解釈・置き換え・気晴らし) 成長に役立つと考える/次の恋を探す/趣味や運動に打ち込む ストレス反応が和らぎ、回復期間が短い
未練 関係を戻そうとする ストレス反応が強まり、回復が遅れる
拒絶(敵意・関係解消) 相手をうらむ/相手のことを考えないようにする ストレス反応が強まり、回復が遅れる
加藤司(2005)社会心理学研究20巻3号の分類と結果から作成

「考えないようにする」が裏目に出る

三つの系統のうち扱いが難しいのは拒絶である。相手のことを頭から追い出すという行動は、一見すると距離を取る試みに見える。ところが調査ではこの方略が回復を助けていない。前掲のレビューが引く塚脇の2014年の研究は、大学生192名を、片思いで告白した群、告白しなかった群、交際相手と別れた群の三つに分けて方略ごとの効き方を比べている。

そこでは、回避が回復を促したのは片思いの二群、未練が回復を妨げたのは告白群と交際相手と別れた群だった。これに対して拒絶は、三つの群すべてで回復を妨げていた。相手や別れ方を問わず足を引っ張る方略は、この調査では拒絶だけである。

差が出る理由は、注意の向け先にある。気晴らしも置き換えも、関心を自分の生活の側へ移す行動になる。敵意や「考えないようにする」は、相手を中心に据えたまま、その像を押しのけようとする行動である。押しのける対象をいったん思い浮かべなければ押しのけられない以上、相手は意識の真ん中に残り続ける。浅野らが2010年に114名へ行った調査でも、未練は相手からの心理的な離脱を妨げてストレス対処能力を下げ、拒絶は離脱を介さず直接その能力を下げていた。回避だけが離脱を進めていた。

別れと関係のない生活のほうを立て直す

では具体的に何をするか。日塔が2011年に7名へ行ったインタビュー調査は、周囲の支えが働く筋道を示している。他者に話して気持ちを整理したり新しい見方を得たりすることに加えて、失恋とは無関係に進む生活への適応を助けることが重要だと述べられている。ただ一緒にいて時間を共有することが、下がった自尊心を戻す一助になるとも指摘された。

大学生と大学院生212名を対象にした荒木の2010年の調査でも、社会的スキル、ソーシャル・サポート、そして社会のために役立つ人間になりたいといった社会志向性が回復を押し上げていた。支えの中身が別れの話題である必要はない。授業に出る、仕事を進める、約束に顔を出すといった、別れとは無関係に流れていく日常のほうが土台になる。

その土台は、頼れる先が一人に偏っていると崩れやすい。相談先の広げ方は人間関係の悩み解消法で扱った。地域の活動や仕事を通じて人とつながる場を探すなら、FLASPOのような入口を使う手もある。

行きつ戻りつを後退と読まない

いつまで続くのか。この見通しがないこと自体が、つらさを長引かせる。前掲のレビューが引く海外の研究では、別れに対する反応の特徴は一時的な苦痛と、別れから3か月以内の回復だとされている。ただしこれは集団の平均的な軌跡であって、全員がその期間で収まるという意味ではない。

国内の研究が繰り返し示してきたのは、段階が一直線には進まないという点である。石本奈都美と今川民雄が2001年に発表した青年期における失恋後の立ち直り過程は281名を対象に、回復の過程が喪失反応の4段階にそっていることを確かめたうえで、各段階は明確に区別できるものではなく、重なり合ったり逆戻りしたり、同じ場所にとどまったりすると述べている。

先週より気分の悪い日が来ても、それは後退の証拠にはならない。むしろ判断の材料になるのは、食事と睡眠が戻っているか、仕事や学業が回っているかという生活の側の指標である。そこが長く止まったままなら、対処の工夫ではなく相談の段階に入る。別れと心身の不調の重なり方は失恋のショックは体にも出るで整理している。

よくある質問

泣いたり怒ったりを我慢したほうが早く立ち直れるのか。感情を抑え込むことと、相手から距離を取ることは別の行動である。前掲のレビューは、純粋に回避的な対処をとる人は必要な悲しみを経験しないまま乗り越えようとする、という指摘も紹介している。抑えるのではなく、悲しみに触れることと痛みから距離を置くことの釣り合いが適応的とされる。

人に相談すると、かえって引きずるのではないか。その可能性も報告されている。海外の研究では、誰かに気持ちを話したりアドバイスをもらったりした人のほうが、調査開始時点の悲しみが大きく、悲しみの減り方が遅かった。支えを求める行動が不快感の反すうを誘う場合がある、という読み方である。相談そのものではなく、同じ話を繰り返す形になっていないかが分かれ目になる。

趣味に打ち込むのは現実から逃げていることにならないか。失恋コーピングの分類では、気晴らしは回避の下位にあたる行動で、回復を促す側に置かれている。取り戻せない関係へ働きかけ続けるほうが、直面している問題の解決からは遠い。逃避と呼ぶかどうかは別として、調査の上では有効な行動である。

立ち直ったかどうかは何で判断すればよいのか。国内の研究が最終段階として置いてきたのは、相手から心が離れて自由になり、場合によっては別の相手へ気持ちを向けられる状態である。相手を思い出さないことではなく、思い出しても予定どおり一日を終えられることが目安になる。


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