失恋のショックは体にも出る|痛みと不眠の研究が示す数か月

失恋のショックは体にも出る|痛みと不眠の研究が示す数か月

胸が痛いという言い方は、比喩だけではなかった

振られた直後に「胸が苦しい」と口にする人は多い。これを単なる言葉のあやとして片づけなかった研究がある。コロンビア大学のEthan Krossらが2011年に米国科学アカデミー紀要へ発表した研究は、過去6か月のあいだに望まない別れを経験した40人(うち女性21人、平均20.78歳)を対象に、別れからの平均2.74か月という時期の脳を機能的MRIで撮影している。

課題は二つ用意された。ひとつは元恋人の写真を見て別れの場面を思い出すこと、もうひとつは前腕に熱の刺激を受けることである。同じ人の中で両方を比べると、二次体性感覚野と背側後部島皮質という、痛みの感覚の側面を担う領域が双方で活動していた。背側前帯状皮質と前部島皮質という情動の側面に関わる領域も反応した。別れの想起が、体の痛みと一部重なる形で処理されていたことになる。

ただしこの読み方には反論もある。同じ紀要に載ったコメントは、痛みで活動するとされる領域は刺激の目立ちやすさに反応しているだけかもしれないと指摘した。「失恋は体の痛みと同じだ」と言い切るところまでは、まだ届いていない。それでも、つらさを気の持ちようの問題として扱う根拠は薄い。

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尺度で測ると、事故や災害の経験と並ぶことがある

ショックの大きさを数値で比べた調査もある。南アフリカのステレンボッシュ大学の研究チームが2023年に欧州トラウマ学会誌へ出した論文は、18〜25歳の学生2,022人(女性71.1%)をオンラインで調べ、恋愛関係の破局を挙げた886人、事故や暴力など診断基準上の外傷を挙げた592人、それ以外のストレスを挙げた544人を比較した。

使われたのはPCL-5という、心的外傷後ストレス症状の自己記入式の尺度である。共変量を調整した平均点は、破局の群が41.89点、外傷の群が34.74点、対照の群が26.86点だった。破局の群がいちばん高い。33点以上に該当した人の割合は、本文では72.9%、表では70.1%(621人)と記載が分かれているため、7割前後と読むのが妥当である。

挙げた出来事 人数 PCL-5の平均点 出来事からの平均月数
恋愛関係の破局 886人 41.89点 10.39か月
診断基準上の外傷 592人 34.74点 49.16か月
その他のストレス 544人 26.86点 34.57か月

注意すべき点が二つある。尺度の点数は診断ではなく、高い点がそのまま病気を意味しない。もうひとつは、破局の群だけ出来事からの時間が10.39か月と短く、他の二群の49.16か月や34.57か月より近いという違いである。記憶が新しいほど点は上がりやすい。それでも、別れを軽い出来事として扱えないことは読み取れる。

眠れない夜はいつまで続くのか

別れたあとに最初に崩れるのは、たいてい睡眠である。国立精神・神経医療研究センターのこころの情報サイトは、強いストレスを感じる出来事に遭うと多くの人が数日から数週間の一時的な不眠を経験し、一部の人ではそれが1か月以上続くと説明している。寝つけない、夜中に何度も目が覚める、朝早く目覚めて二度寝ができないという三つの形が代表的である。

同センターは、不眠症状を一過性に経験する人を3〜5割程度、慢性的な不眠で悩む人をおおよそ1割としている。治療が必要な不眠症を考える線は、週3日以上かつ3か月以上という持続と、日中の活力や効率の低下がそろう場合である。失恋の直後に眠れないこと自体は、この基準からするとまだ一時的な範囲に入る。

やってしまいがちで逆効果なのが寝酒である。同サイトは寝る前のカフェインやニコチン、寝酒を慢性化の要因に挙げ、寝不足を取り戻そうとして長く寝床に居続けることもかえって眠りを浅くすると書いている。眠れないこと自体への恐怖から努力するほど悪化する、という指摘も載っている。睡眠を立て直す順番については勉強の集中力と睡眠で扱った手順が重なる。

食欲、怒りっぽさ、腹痛という出方もある

ショックは涙や落ち込みだけに出るわけではない。同センターのストレスとセルフケアは、ストレスを外部から刺激を受けたときに生じる緊張状態と定義し、天候や騒音のような環境的要因、病気や睡眠不足のような身体的要因、不安や悩みという心理的要因、人間関係や仕事という社会的要因を並べている。

同じページは、進学や就職、結婚、出産といった喜ばしい出来事も変化であり刺激だからストレスの原因になると述べている。裏を返せば、望んでいなかった別れが大きな負荷になるのは順当である。サインとして挙げられているのは、眠れない、お腹が痛くなる、怒りっぽくなるといった変化で、どれも気持ちの問題として語られにくい。

自分のサインを先に知っておくと、休息や気分転換を早めに取れるとされる。対人関係が負荷の上位に来ることは人間関係とストレスの数字でも確かめられる。住む場所や働き方を変えることで気持ちを整える人もいて、その種の選択についてはFLASPOでも相談を受けている。ただし大きな決断は、眠れている状態に戻ってからのほうが外しにくい。

急性期に避けたいことと、人に頼る線引き

最初の数週間は判断の精度が落ちる時期である。酒で紛らわせる、寝床で過ごす時間を延ばす、日中まったく動かない、という三つは睡眠を崩す側に働く。元恋人の投稿を繰り返し確認する行為も、思い出す回数を自分で増やしているぶん長引かせやすい。交際が長かった人ほど生活の形まで変わるため、立て直しに時間がかかる。大学生の交際期間が平均5.5年に達する実情は大学生のカップルで示したとおりである。

頼る先は専門家だけではない。先のセルフケアのページは、困ったときに話を聞いてもらうだけでも気持ちが楽になり、話すことで解決策が見つかることもあると書いている。一方で、こころと体の不調が続くときは早めに専門家へ相談するよう促している。医師や公認心理師、地域の精神保健福祉センターや保健所が窓口として挙げられている。

死にたい気持ちが出てきたときは、時間を置かずに相談先へつなぐ。厚生労働省のまもろうよこころには、24時間受け付ける「#いのちSOS」(0120-061-338)やよりそいホットライン(0120-279-338)、ウェブチャットの窓口が一覧で載っている。深夜に一人で抱えるより、番号を押すほうが早い。

よくある質問

ショックはどれくらいで軽くなるのか。期間を保証する研究はないが、不眠に関しては数日から数週間で収まる人が多数で、1か月を超えて続くのは一部とされている。前に挙げた調査で破局から平均10.39か月たった人の点数がなお高かったことを踏まえると、波が引くまでに数か月単位を見ておくほうが落胆しにくい。

涙が止まらないのは異常なのか。涙もろさ自体は喪失への自然な反応で、それだけで病気とは判断できない。問題になるのは、食欲や睡眠の乱れ、強い自責、何も楽しめない状態が重なって生活に支障が出ている場合である。その場合は心療内科や精神科、かかりつけ医に相談する判断が必要になる。

元恋人のSNSを見てしまうのをやめられない。これは意志の弱さではなく、思い出すきっかけが手元にある状態だと説明できる。先の脳の研究は、元恋人の写真を見るだけで痛みに関わる領域が動くことを示していた。手の届く場所から刺激を外すこと、具体的にはミュートやブロックのような機能を使うことが、立ち直りの速度を上げる。

相手に連絡を取りたくなったときはどうするか。連絡そのものを禁じる根拠はないが、送る前に一晩おく決まりを自分に課すと、眠れていない時間帯の判断を避けられる。翌朝に読み返して送る気が残っていれば送ればよい。残っていなければ、送らずに済んだぶん後悔が減る。


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