やる気の問題にすると、同じ夜をもう一度繰り返す
課題の指示は受け取っているのに、机に向かって三十分で画面を眺めているだけになる。文部科学省が2025年9月に公表した令和6年度の全国学生調査(第4回試行実施)では、大学に入ってから受けた授業について「授業時間外に行うべき学習の指示」があったと答えた割合が79パーセントだった。13万8千人を超える回答で、やるべきことは届いている。それでも手が動かないとき、原因を意欲に求めると打つ手が残らない。
厚生労働省の健康づくりのための睡眠ガイド2023は、睡眠不足の影響を「日中の眠気や疲労に加え、頭痛等の心身愁訴の増加、情動不安定、注意力や判断力の低下に関連する作業効率の低下、学業成績の低下」と並べている。注意力と判断力は、ふだん集中と呼んでいるものの中身にほかならない。机の前での粘りを鍛える話より、前の晩に何時間寝たかのほうが先に効いている。
同じ資料は、令和元年の国民健康・栄養調査で1日の平均睡眠時間が6時間未満だった割合が男性37.5パーセント、女性40.6パーセントだったことも引いている。令和3年のOECDの調査報告では、日本人の平均睡眠時間は対象33カ国の中で最も短かった。短い睡眠は個人の例外ではなく、この国の標準に近い。自分の集中力を疑う前に、土台が削れていないかを見たほうが早い。
必要な睡眠時間には、幅のある答えが出ている
何時間眠ればいいのかという問いに、睡眠ガイド2023は一つの数字では答えていない。成人については「おおよそ6〜8時間が適正な睡眠時間」とし、推奨事項としては1日に少なくとも6時間以上を確保できるよう努めることを挙げている。根拠として、7時間前後の人が生活習慣病やうつ病の発症、死亡に至るリスクが最も低いという複数の報告を示している。
削ったときの差も具体的である。日本の男性労働者2,282人を14年間追跡した研究では、睡眠時間が1日6時間未満の人は7時間以上8時間未満の人と比べ、心筋梗塞や狭心症などの心血管疾患の発症リスクが4.95倍だった。92万人分のデータを解析した研究では、6時間未満になると死亡リスクが有意に上昇している。試験前の数日ならともかく、6時間未満が常態になっているなら話が違う。
一方で同じ資料は個人差も明記する。6時間未満でも睡眠が充足する人もいれば、8時間以上を必要とする人もいる。米国の共同声明では成人の7〜9時間を核としつつ、6時間からの短めと10時間までの長めも許容されている。だから「日中の眠気や睡眠休養感に応じて、各個人に必要な睡眠時間を自ら探る」ことが求められる。年代ごとの目安は次のとおりである。
| 区分 | 目安となる睡眠時間 | 資料での位置づけ |
|---|---|---|
| 小学生 | 9〜12時間 | こども版の推奨事項 |
| 中学・高校生 | 8〜10時間 | こども版の推奨事項 |
| 成人 | 6〜8時間(少なくとも6時間以上) | 成人版の推奨事項 |
| 個人差の範囲 | 6時間から10時間 | 米国の共同声明として引用 |
休日に取り返せる範囲には線がある
平日に削って土日に寝る、という配分で乗り切っている人は多い。睡眠ガイド2023はそこに限界があると書く。休日の寝だめでは平日の日中の眠気を完全には解消できず、メリットは極めて限定的との報告を紹介している。40歳から64歳までの成人を対象とした調査では、平日に6時間以上寝ている人に限って休日の1時間程度の寝だめが寿命短縮リスクを下げた。平日が6時間未満の人は、寝だめをしてもそのリスクが有意に高まっている。
背景にあるのは社会的時差ぼけと呼ばれる状態で、平日と休日で起きる時刻が大きくずれることで体内時計が繰り返し動く。同資料はこれを慢性的な睡眠不足と体内時計のずれの両面を持つものとし、肥満や糖尿病などの生活習慣病、脳血管障害や心血管系疾患、うつ病の発症リスクとして報告されていることを挙げている。週明けに頭が動かないのは気分の問題ではなく、時計がずれたままの状態である。
量と並んで同資料が重く扱うのが睡眠休養感、つまり睡眠で休養がとれている感覚である。米国の調査では、40〜64歳の働く人で睡眠時間が短い場合に死亡リスクが増加するが、睡眠休養感が確保されている場合には増加しなかった。時間を確保できない週があるなら、何時間寝たかだけでなく、朝起きたときに休めた感覚があるかを手がかりにしたほうが実際的である。
卓上の明るさより、寝室に何があるかが先に効く
集中できる環境づくりは机の周りの話になりやすいが、睡眠ガイド2023の環境に関する項目は寝室に向いている。挙げられているのは、寝室にスマートフォンやタブレット端末を持ち込まず、できるだけ暗くして寝ること。近年の照明器具や端末にはLEDが使われ、体内時計への影響が強い短波長光が多く含まれるためである。寝ている間の低い照度でも中途覚醒が増え、睡眠の効率が下がると報告されている。
光は昼のほうも条件がある。起床後に朝日の強い光を浴びると体内時計がリセットされ、日中に光を多く浴びることで夜のメラトニン分泌量が増える。この効果は1,000ルクス以上の照度で得られるとされ、室内の一般的な照明では届かない水準である。朝に外へ出る用事を一つ置くだけで、夜の寝つきまで変わる余地があるということになる。
温度と時間の扱いも書かれている。寝室は暑すぎず寒すぎない温度にし、就寝の約1〜2時間前に入浴して身体を温めてから寝床に入ると入眠しやすい。寝床に就く前に少なくとも1時間は家事や仕事、勉強に追われずリラックスする時間を確保することが有効ともある。朝食を抜くと体内時計の後退を介して寝つきが悪くなり、睡眠休養感の低下とも関連する。就寝前の夜食や間食も同じ方向に働く。
区切りは起床時刻から逆算して置く
では夜の何時に切り上げるかをどう決めるか。睡眠ガイド2023のこども版は、早起き習慣を保ったうえで推奨睡眠時間から逆算して寝る時間を決めることを勧めている。考え方は学生にもそのまま使える。起きる時刻は授業や通学で先に決まっているのだから、動かせる変数は就寝のほうである。眠る時刻を決めてから勉強の終わりを置くと、順番が逆にならない。
同資料には就寝時刻の先延ばしという項目がある。特段の理由がないのに本来の就寝時刻をこえて夜ふかしをしている状態で、テレビを延々と見続ける、ゲームが止められない、SNSで交流するといった行動が挙げられている。これが続くと翌日の眠気や疲労感が強まるだけでなく、寝つきの悪さと、翌朝目覚められなくなる概日リズム睡眠・覚醒障害の素地になるため、できるだけ避けるべきだとされている。
対策として挙がるのは、睡眠スケジュールの目標を決めて実践できるかを日々確かめる方法と、電子機器の使用に関するルールづくりである。あわせて注意書きもある。先延ばしをやめることは余暇時間の減少をもたらす場合があり、適切な余暇が減ればストレスの増加や抑うつにつながる可能性があるため、就寝時刻付近の余暇を日中に補う工夫が要る。日中の余暇が運動であれば、睡眠の質の改善にも向かう。
全国学生調査では、アルバイト等に週11時間以上を使っている学生が2年生でも4年生以上でもおよそ半数を占めた。動かしにくい枠が先にある前提で逆算するほかない。何に時間が流れているかを把握する手順は時間管理のコツは記録から始まるで扱っており、働きながら学ぶ場合の配分は資格取得の勉強法のほうが近い。
よくある質問
睡眠を削って勉強時間を増やすのは得か。睡眠ガイド2023のこども版のQ&Aは、8〜10時間を確保できない高校生についての問いに対し、良質な睡眠を適切な時間確保することで集中力が増し学習効率が向上すると答えている。さらに睡眠には学習した内容を強固にする役割があるため、時間を確保することで内容が定着しやすくなるとし、学力の向上と健康維持のためには勉強時間と睡眠時間のバランスをとることが大切だと結んでいる。
自分に必要な睡眠時間はどう決めればよいか。同資料は適正な睡眠時間に個人差があることを認めたうえで、日中の眠気や睡眠休養感に応じて自ら探る必要があるとしている。目安の数字を自分の体に当てはめる作業が要るということで、1週間ほど就床と起床の時刻、実際に眠っていた時間、朝の休養感を書き出すと判断の材料になる。厚生労働省の睡眠関連のページには記録用の様式も置かれている。
時刻を決めても守れないときはどうするか。無理に眠ろうとする方向は逆効果で、睡眠時間や就床時刻に過剰にこだわり眠気が訪れていないのに眠ろうとすると、脳の興奮がかえって高まり寝つきが悪化すると書かれている。先に動かすのは夜ではなく昼のほうである。日中に光を浴びる予定と体を動かす予定を置けば、夜の時刻は後からついてくる。地域での活動を学びの予定に組み込む選択肢としてはFLASPOのような場もある。
眠気が強い日に昼寝を挟んでよいか。睡眠ガイド2023は高齢者版で長い昼寝が夜間の良眠を妨げると述べており、日中の長時間の昼寝は避けて活動的に過ごすことを推奨している。学生についての記述ではないが、夜の睡眠を守る順番は共通している。昼に深く眠り込むほど夜の寝つきが遅れ、翌朝の起床が崩れる。削るところを昼に探すより、就寝の先延ばしを先に止めるほうが筋が通る。
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