医療機関のない地区は557、人口は12万2,206人
地域で何か事業を起こそうとするとき、医療は最も需要が見えやすい分野に思える。ただし需要の大きさを測る前に、国がどこを空白と判定しているかを知っておくほうが早い。厚生労働省が令和5年7月28日に公表した「令和4年度無医地区等及び無歯科医地区等調査」によれば、無医地区は全国で557地区、そこに暮らす人は12万2,206人である。前回の令和元年10月末時点では590地区・12万6,851人だったので、33地区・4,645人の減少となる。調査時点は令和4年10月末日だ。
無医地区の定義は厳密で、やや狭い。医療機関のない地域のうち、その地区の中心的な場所を起点としておおむね半径4キロメートルの区域内に50人以上が居住しており、かつ容易に医療機関を利用することができない地区を指す。半径4キロに50人という線のため、人が散らばって住む地域や、道路が通っていて車で出られる地域は外れる。長期の推移を見ると、昭和59年には1,276地区・31万9,796人あった。40年ほどで地区数は半分以下になり、人口は3分の1近くまで減った。医療が行き渡ったからという説明だけでは足りない。住む人がいなくなって地区そのものが消えた分も含まれている。
「準じる地区」を足すと対象は1,106地区になる
557という数字だけを見ると市場は小さく映る。ただし調査の対象範囲はもっと広い。この調査は、無医地区と、無医地区には該当しないが無医地区に準じた医療の確保が必要だと都道府県知事が判断して厚生労働大臣に協議できる地区の両方を持つ市町村を対象にしている。回答した市区町村は377で、内訳は市175、区2、町153、村47。調査対象となった地区数は1,106で、回答率と有効回答率はいずれも100%だった。
つまり公式に空白と認定された557地区の外側に、行政が同等の手当てを必要と見ている地区がほぼ同数ある。歯科のほうはさらに広い。回答した市区町村は388、調査対象地区数は1,249で、こちらも回答率は100%である。事業として地域の医療に関わることを考えるなら、見るべき単位は都道府県でも市町村でもなく、この地区というまとまりになる。市の名前で見ると医療機関はあるのに、同じ市の中に空白の地区が残るという形が普通に起きる。実際、無医地区を持つ377市区町村のうち175は市である。
空白の分布は都道府県で大きく偏る
557地区がどこにあるかを見ると、偏りは極端だ。最も多いのは北海道の64地区で、広島県の53地区、大分県の38地区が続く。島根県が28地区、熊本県が26地区、岩手県が24地区、高知県が23地区、岡山県が21地区となっている。一方で山形県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、佐賀県の7都府県は0地区である。人口の多い都府県が0なのは想像しやすいが、山形県と佐賀県が0という点は、面積や山地の多さだけでは説明がつかない。
前回調査からの動きも一方向ではない。減ったのは北海道の12地区減、広島県の6地区減、静岡県の4地区減などだが、増えたところもある。熊本県は20地区から26地区へ6地区増え、鹿児島県は12地区から16地区へ4地区増、島根県は25地区から28地区へ3地区増えた。岩手県は23地区から24地区になり、無医地区人口では9,210人から1万3,410人へ4,200人増えている。全国では減っていても、個々の県では診療所の閉院や医師の高齢化で空白が生まれ続けているということだ。
| 都道府県 | 令和元年度 | 令和4年度 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 北海道 | 76地区 | 64地区 | 12地区減 |
| 広島県 | 59地区 | 53地区 | 6地区減 |
| 大分県 | 39地区 | 38地区 | 1地区減 |
| 島根県 | 25地区 | 28地区 | 3地区増 |
| 熊本県 | 20地区 | 26地区 | 6地区増 |
| 全国 | 590地区 | 557地区 | 33地区減 |
地区の数と、そこに住む人の数も比例しない。無医地区人口で見ると最も多いのは岩手県の1万3,410人で、地区数が最多の北海道は9,170人にとどまる。北海道は64地区で9,170人、岩手県は24地区で1万3,410人だから、1地区あたりの人口は北海道が約143人、岩手県が約559人と4倍近い差になる。栃木県は16地区で7,422人、長野県は9地区で4,999人、静岡県は11地区で1,570人である。北海道の空白は小さな集落が広い範囲に点在する形で、岩手県や栃木県ではある程度まとまった人数が住む地区に医療機関がないという形になる。巡回で回るほうが効くのか、拠点を一つ置くほうが効くのかは、この違いで変わる。
歯科だけは地区数も人口も増えた
医科と歯科を並べると、向きが逆になる。無歯科医地区は784地区で、前回の777地区から7地区増えた。人口は18万8,647人で、前回の17万8,463人から1万184人の増加である。昭和59年の1,935地区・78万6,395人からは大きく減ったが、平成26年度の858地区・20万6,109人、令和元年度の777地区・17万8,463人という流れの中で、直近は反転している。
歯科医療機関は医科よりも開設の自由度が高く、数そのものは全国に多い。それでも空白が広がるのは、閉院した後に後継が入らない地区が出ているからだと考えるのが自然だ。地区数で見ると、高知県が35地区から44地区へ9地区増え、岩手県は23地区から40地区へ17地区増えている。奈良県は22地区から14地区へ8地区減るなど、県ごとの振れ幅も医科より大きい。需要の側から事業を考えるなら、医科より歯科のほうが空白の拡大が続いているという点は押さえておきたい。
医業は起業の対象にならない。残る部分はどこか
ここで制度の壁をはっきりさせておく必要がある。医師法の第17条は、医師でなければ医業をなしてはならないと定めている。空白地区に需要があることと、そこへ事業者として参入できることは別の話だ。診療という中核の部分は資格を持つ人しか担えず、法人の形を工夫しても変わらない。医行為とそれ以外の線引きについては医療ボランティアができることで整理している。
それでも空白の構造を分解すると、資格を要しない部分が残る。無医地区の定義そのものが「おおむね半径4キロメートル」と「容易に医療機関を利用することができない」という二つの条件でできているため、距離と移動の手段が改善すれば地区は空白から外れる。送迎や移動の支援、通院の付き添い、オンラインでの受診を支える場所と通信、薬の受け取りの仕組みなど、医業の外側に置かれた部分は少なくない。対象となる人口は12万2,206人で、全国規模の事業にはならない。一つの地区に50人という単位の仕事として設計できるかが分かれ目になる。小さな拠点から事業を立てた例は古民家で起業するという選択が参考になり、見込みを立てずに走った場合に何が起きるかは学生起業の失敗例に共通する型にまとめた。地域の課題から事業を考える学生向けの入口はFLASPOにもある。
よくある質問
「無医地区がない県なら医療は足りているのですか」。そうは言えない。この調査が数えるのは半径4キロに50人以上が住み、容易に医療機関を利用できない地区である。条件を満たさない地域の不便は数に出ない。山形県や佐賀県が0地区であっても、通院に1時間かかる世帯がないという意味ではない。
「数字が令和4年のもので古くありませんか」。この調査はおおむね3年ごとに行われており、令和4年度が現時点で公表されている最新の結果である。前回は令和元年度だった。県単位の最新状況は各都道府県の医療計画やへき地医療に関する資料で補うことになる。
「医療と福祉はまとめて考えていいですか」。分けたほうがよい。医業には資格の縛りがあるが、介護や生活支援、移動の支援は事業としての参入の仕方が違う。無医地区の調査はあくまで医療確保の状況を見るための資料なので、介護の需要を測るには別の統計を当てる必要がある。
「出典はどこで確認できますか」。令和4年度無医地区等及び無歯科医地区等調査の概況に地区数と人口、都道府県別の表が収められている。継続的な数値は無医地区等調査と無歯科医地区等調査の各ページから年次ごとにたどれる。
アイデアコンテストプラットフォーム「FLASPO」

アイデア1つで、地域や企業とつながれる。
FLASPOは、全国の自治体・企業が開催する若者向けアイデアコンテストのプラットフォームです。
地域や企業が抱える課題に対して、あなたのアイデアで解決策を提案できます。
賞金やユニークな地域体験が獲得できるコンテストも多数。誰でも参加無料・オンライン完結で挑戦できます。
