最初の交渉相手は校則だった
靴下の色、スカートの丈、髪を結ぶゴムの太さ。自分の見た目を自分で決めたいという気持ちが最初にぶつかる相手は、多くの場合で学校の決まりである。ここを曖昧にしたまま自己表現を語っても、実感とは重ならない。
その決まりが、いまどう動いているかを示す調査がある。文部科学省「校則等の見直し状況調査結果及びこれを踏まえた対応について」は、公立中学校400校と公立高等学校400校を無作為に抽出し、令和7年2月25日から3月28日にかけて実施された。回答したのは中学校399校と高等学校400校である。
そのうち校則等を定めていると答えたのは790校で、全体の98.9%にあたる。ほぼすべての学校に明文の決まりがあり、そこには服装や頭髪に関する条項が含まれている。
呼び方は学校によって違う。回答には「生徒心得とマナー集」や「〇〇中学校規定」といった名称が並んでいた。周知の方法も一つではなく、プリントやメールでの配布が463校、学校のホームページへの掲載が454校、生徒手帳への記載が358校、学校内への掲示が322校という内訳になっている。
変えた校則の中身は、服装が最も多い
決まりは固定されたものではない。同じ調査では、令和元年度以降に校則等の制定または変更を行った学校が約91%にのぼった。生徒指導提要が改訂された令和5年度と6年度は、それぞれの年度で過半数の学校が手を入れている。
では何を変えたのか。制定または変更を行った720校の回答は、内容ごとに次のように分かれた。
| 変更した内容 | 中学校 | 高等学校 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 服装(制服や体操服、靴等) | 345校 | 301校 | 646校 |
| 頭髪や化粧 | 244校 | 206校 | 450校 |
| 持ち物(スマートフォン、鞄など) | 119校 | 141校 | 260校 |
| 登下校や授業の時間 | 125校 | 73校 | 198校 |
| 通学(自転車やバイク、寄り道など) | 59校 | 121校 | 180校 |
| 学校外の生活(アルバイト、外泊など) | 18校 | 113校 | 131校 |
服装が646校で最多、次が頭髪や化粧の450校である。見た目に関する2項目が上位を占めており、見直しの焦点がどこにあるかがはっきり出ている。自由記述には「中学生らしい」といった曖昧な表現をなくし、主観が入る内容を削除したという例も挙がっていた。
変更の理由は思想的なものばかりではない。ハンディファンや熱中症対策グッズの持ち込み、教室内へのペットボトルの持ち込み、夏服と冬服の移行期間の撤廃といった項目が自由記述に挙がっていた。気候や持ち物の実態に合わせて、服装のきまりが先に動いている。
意見を聴いた85%と、聴かなかった15%
変えたという事実と、誰が変えたかは別の話である。制定または変更を行ったと答えた学校のうち、生徒または保護者から意見を聴取する機会を設けたのは約85%だった。残る約15%は、その機会を設けていない。
手続きの整備はもう一段遅れている。校則等を制定または変更する際の手続きを定めていた学校は約71%で、約29%は定めていなかった。内容を学校のホームページに掲載して周知していたのは約57%である。
手続きが文書化されていないと、生徒が意見を出す入口が見つからない。1人1台の端末で意見を集めた学校や、各学級で集約した意見を代表者が生徒会の会議で議論した学校の例が文部科学省「校則の見直し等に関する取組事例」にまとめられている。
聴き方にも段階がある。全生徒から意見を聴く機会を設けた学校と、生徒会など代表を通じて聴いた学校では、届く声の幅が変わる。誰に聴いたかまで含めて確認しないと、85%という数字は実態より明るく見える。
「らしさ」という言葉が削られていく理由
制服のスラックスとスカートを性別で固定しない学校が増えた背景には、令和4年12月に改訂された生徒指導提要がある。こども基本法によってこどもが意見を表明する機会の確保が法律上に位置づけられたことを踏まえ、校則に関する記述が充実された。
提要は、制定から時間が経ち意義を適切に説明できない内容の校則については、教育目的に照らして適切か、現状に合う内容に変更する必要がないかを絶えず見直す重要性を示している。説明できるかどうかが基準になれば、主観に寄った表現は残りにくい。
見直しの過程に生徒自身が参画することは、校則の意義を理解し自ら守ろうとする意識につながるとも同じ提要は述べている。ルールを無批判に受け入れるのではなく、根拠と影響を考える経験そのものに教育的な意味があるという位置づけだ。性別と服装の関係についてはジェンダーと若者でも触れている。
制度の外で、何をどう選ぶか
校則が緩んでも、選ぶ力が自動的に育つわけではない。こども家庭庁「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査(令和5年度)」では、13歳から29歳の日本の回答者のうち「自分の考えをはっきり相手に伝えることができる」に肯定的に答えたのは57.1%だった。平成30年度の46.3%から10.8ポイント上がっている。
伝える手段は言葉だけではない。服は毎日使う非言語の手段で、相手の受け取り方も含めて反応が返ってくる。自己表現を「好きなものを着る」だけで終わらせず、相手と場面をどう織り込むかまで含めると、選択は設計の作業に近づく。
就職活動の面接のように、服装が評価と結びつく場面もある。判断の基準をあらかじめ知っておくという意味では面接のマナーが参考になる。言葉の定義そのものを整理したファッションとは何かと合わせて読むと、流行に乗ることと自分で選ぶことの違いが見えてくる。地域で若い世代の発信を支えるFLASPOの活動でも、見た目の自由と説明責任は同時に問われている。
同じ調査で日本の回答者が肯定した割合は、「自分には長所があると感じている」が65.6%、「今の自分が好きだ」が53.4%だった。自分の良い面を認める感覚と、自分そのものを好きだと言える感覚の間には10ポイント以上の差がある。身に着けるものを決める作業は、この差に直接かかわってくる。
よくある質問
校則は生徒の意見で変えられるのか。校則を定める権限は校長にある。ただし内容によっては生徒の学校生活に大きな影響が及ぶため、生徒や保護者から意見を聴取した上で定めることが望ましいと文部科学省は示している。意見を出す経路として、児童会や生徒会、保護者会が挙げられている。
どの学校も見直しているのか。令和元年度以降に一度も制定または変更が実施されていない学校や、変更の予定がない学校も調査では確認されている。約91%という数字は全校ではなく、残りがあることを前提に読む必要がある。
自分の学校の校則を確認する方法は。ホームページに掲載していた学校は約57%なので、載っていない場合もある。プリントやメールでの配布、生徒手帳への記載という周知方法も報告されており、手元の資料を先に探すのが早い。
校則が緩い学校のほうが自己表現は育つのか。調査はその因果まで測っていない。わかるのは、見直しを行った学校では服装と頭髪が最も多く扱われ、約85%が意見を聴いていたという事実までである。緩さそのものより、決め方が開かれているかどうかが分かれ目になる。
服装の自由は自己表現と同じことなのか。自由は選択肢の広さで、自己表現は選んだ結果である。選択肢が増えても何を伝えたいかが定まらなければ、周囲の多数派に合わせる結果になりやすい。自由の確保と表現の訓練は、別々に進む課題として扱うほうが実際に近い。
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