入院していた家族が世話になった、だから病院で何か手伝いたい。そう考えて募集を探すと、出てくるのは看護師と医療事務の求人である。免許を持たない人に残っている役は何なのか。この分野は気持ちではなく条文が範囲を決めているので、先に線の位置を知っておくほうが早い。
免許が囲っているのは処置だけではない
医師法第17条の条文は短い。医師でなければ、医業をなしてはならない、とだけ書いてある。厚生労働省はこの医業を、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為を、反復継続する意思をもって行うことと解釈している。注射や縫合が思い浮かぶが、範囲は行為の名前では決まらず、相手の状態と場面で個別に判断される。
見落とされがちなのはもう一本の法律である。保健師助産師看護師法第5条は看護師を、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者と定義し、第31条は看護師でない者はその業をしてはならないと定める。つまり免許が囲っているのは診療の補助だけでなく、療養上の世話まで含む。食事や排泄、入浴の介助が無償の協力者に回ってこないのは、病院が慎重だからではなく、ここに条文があるからだ。
報酬を受け取らなければ別、という理屈も成り立たない。医業の定義に出てくるのは反復継続する意思であって、対価の有無ではない。無償か有償かで変わるのは税や労災の扱いであって、資格の線は動かない。この二つの線引きを混同しないほうがよく、働き方としての違いはボランティアと有給活動はどこが違うのかに整理してある。
「原則として医行為ではない行為」はごく狭い
では境目はどこにあるのか。厚生労働省は原則として医行為ではない行為として三本の通知を出している。平成17年7月26日の医政発第0726005号を起点に、令和4年12月1日の医政発1201第4号、令和7年12月26日の医政発1226第12号と重ねられてきた流れである。
そこで医行為でないと整理されたのは、水銀体温計や電子体温計で腋下の体温を測ること、耳式電子体温計で外耳道の体温を測ること、自動血圧測定器で血圧を測ること、パルスオキシメータを装着して動脈血酸素飽和度を確認すること、異常のない爪を爪切りで切ること、重度の歯周病等がない場合の口腔内の清拭、耳垢塞栓を除く耳垢の除去などである。令和7年の三本目では、条件を満たす場合の湿布の貼付と、尿漏れを確認した際に膀胱留置カテーテルへ未開封の蓄尿バッグを接続することが加わった。
並べてみると、免許を持つ介護職員でさえ、ここまで細かく条件を付けて初めて許される範囲だとわかる。しかも病状が不安定で専門的な管理が必要な場合には同じ行為が医行為になりうると注記され、事故が起きた場合の刑事上・民事上の責任は別途判断されるとも明記されている。一日だけ訪れる協力者に体に触れる役が回らない理由は、この条件の細かさ自体が説明している。
関わり方は四つに分かれる
体に触れないならできることが無いわけではない。むしろ医療を支える無償の協力は、病院の建物の中だけに置かれていない。性質の違う四つの入口があり、必要な手続きも規模もまるで違う。
| 関わり方 | 相手の体に触れるか | 必要な手続き | 規模の目安 |
|---|---|---|---|
| 院内の生活支援(受付の案内、図書の貸し出し、傾聴、庭の手入れ) | 触れない。移動の付き添いは職員の指示の範囲で | 病院の相談窓口へ申し込み。健康診断の結果や抗体の記録を求められることがある | 病院ごとに募集。通年と行事単位の両方がある |
| 献血 | 自分の体を提供する | 当日の問診と検査。体重や年齢、服薬の条件がある | 令和6年度の延べ献血者数は約498万7千人 |
| 骨髄・末梢血幹細胞のドナー登録 | 採取のときは数日の入院を伴う | 窓口で説明を受け、2ミリリットルの採血で登録 | 2026年9月末のドナー登録現在数は566,967人 |
| 地域の健康づくりと患者会の支援 | 触れない | 自治体の保健センターや患者団体へ申し込み | 保健、医療又は福祉の増進を図る活動を掲げるNPO法人は28,503法人 |
法人数は内閣府の特定非営利活動法人の活動分野別の統計による2026年3月31日現在の数で、認証を受けた49,071法人のうち最も多い分野である。病院の門をくぐらなくても、検診の受診を広める活動や、同じ病気を経験した人の集まりを手伝う形で関わる道がある。
どの入口でも共通して求められるのが守秘である。院内で知った病名や家族の事情は、本人の了解なく外へ出せない。感染対策も同じで、体調が悪い日は行かないという判断が、この分野では最も重要な貢献になる場面がある。
人数で見れば献血が最大の入口である
四つのうち、関わっている人の数が桁違いに多いのが献血である。制度の土台は安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律第3条第2項にあり、国内で使用される血液製剤が原則として国内で行われる献血により得られた血液を原料として製造されることを国内自給と定義し、これを確保することを基本とするとしている。輸血用の血液を輸入でまかなわない仕組みを選んでいるため、必要量は毎年の善意で埋めるしかない。
厚生労働省の献血推進調査会に出された令和6年度供給・献血実績等によると、令和6年度の総献血者数は約498万7千人で、令和5年度より21,972人、0.43パーセント減った。年代別では10代が1,051人増(0.5パーセント増)となり、初めて献血した人も10代で379人、20代で1,815人、30代で363人それぞれ増えている。全体が微減のなかで若い層が持ち直した年という読み方になる。
なぜ若い層の増減が重視されるのか。献血できる年齢には上限があり、いま支えている世代は毎年抜けていく。だから新しく始める人が減ると、数年あとの供給量がそのまま細る。自分の医療費がどれだけ保険で支えられているかという別の角度の数字は若者と健康保険にまとめてあり、受け取る側と支える側の両方を見ると、この分野の輪郭がつかみやすくなる。
ドナー登録は申し込んだ日では終わらない
骨髄や末梢血幹細胞の提供は、登録と実際の提供が切り離されている点が特徴である。移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律第3条第2項は、提供は任意にされたものでなければならないと定める。登録しても断る自由が残り、その自由が制度の前提に置かれている。
日本骨髄バンクが公表している2026年9月末現在の速報値では、ドナー登録現在数が566,967人、これまでに登録を受け付けた累計が1,043,194人である。二つの数字の差は、年齢の上限や健康上の事情で登録を終えた人の分にあたる。移植を待つ側は患者登録現在数1,735人で、非血縁者間の国内採取は累計31,100件、令和7年度にあたる2025年度は1,038件が実施された。
この並びから読めるのは、登録者が56万人いても必要な数の提供が成立するとは限らないという現実である。白血球の型が適合しても、本人の体調や仕事の都合、家族の同意が整わなければ進まない。提供が決まれば健康診断と数日の入院が必要になるため、職場や学校に説明できる状態かどうかが実際の壁になる。登録のときに想像しておきたいのはそこで、善意の強さより段取りの現実味が問われる。進路や活動の組み立て方を考える材料はFLASPOにもまとめている。
よくある質問
医療系の学部でなくても院内の活動に参加できるのか。参加できる。募集の条件に学部の指定を置く病院はまずなく、求められるのは通える頻度と守秘の約束である。実習や研修とは別の枠なので、資格の取得につながる経験として扱われるわけではない点だけ押さえておきたい。
車いすを押すことは医行為にあたるのか。移動の介助そのものは医行為には含まれないが、患者の状態によっては療養上の世話と重なる。だからどの病院でも、職員の指示があるときに限って行う扱いになっている。自分の判断で運ばないことが条件である。
献血を断られることがあるのはなぜか。体重や血圧、服薬の内容、海外に滞在した時期などで当日の問診が通らない場合がある。これは安全を確かめる手順であって、善意が否定されたわけではない。次の機会に向けて条件を確認しておけばよい。
ドナー登録に年齢の制限はあるのか。制限がある。登録できる年齢と提供できる年齢が定められており、上限を越えると登録は終了する。登録者の累計と現在数に約48万人の差があるのは、主にこの仕組みによるものである。
何かあったときの責任はどうなるのか。厚生労働省の通知は、整理された行為であっても事故が起きた場合の刑事上・民事上の責任は別途判断されるとしている。活動の前に保険の加入状況と、誰の指示で動くのかを書面で確かめておくのが確実である。
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