「交通費と昼食代のほか、1日3,000円の謝礼をお支払いします」。こう書かれた募集を見て、これはボランティアなのか短期の仕事なのかと手が止まる人がいる。有償ボランティアという呼び方が広く使われている一方、法律にその区分はない。線を引いているのは金額の大小ではなく、働き方の実態である。どちらに当たるかで、最低賃金や税の扱いまで変わってくる。
分かれ目は謝礼の額ではなく働き方の実態
労働基準法第9条は、労働者を「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定めている。同法第11条では、賃金を「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」としている。名目が謝礼でも御礼でも、労働の対償として渡されているなら賃金として扱われる余地がある。
厚生労働省労働基準局が令和6年10月時点でまとめた参考資料集は、労働者に当たるかどうかを2つの基準で見ると整理している。労働が他人の指揮監督下で行われているかどうかと、報酬がその指揮監督下における労働の対価として支払われているかどうかである。この2つをまとめて「使用従属性」と呼ぶ。資料集には、請負契約や委任契約といった契約の形式や名称にかかわらず、契約の内容や労務提供の形態、報酬その他の要素から個別の事案ごとに総合的に判断されると書かれている。ボランティアという呼称も、この総合判断を免れる根拠にはならない。
逆に、謝礼が出たらすべて仕事になるという話でもない。金額が実費相当にとどまり、参加するかどうかを本人が決められ、作業の進め方も任されているなら、指揮監督下の労働とは見られにくい。判断がどちらにも振れるのは、呼び名と実態がずれている場合である。
現場で見られるのは4つの着眼点
使用従属性の判断基準は、昭和60年12月19日の労働基準法研究会報告で具体化されている。指揮監督下の労働であるかどうかを見る要素が4つ、そのうえで報酬の労務対償性、さらに判断を補強する要素として事業者性の有無と専属性の程度が置かれている。自分の立場がどちら寄りかは、次の表の左右どちらに寄っているかで見当がつく。
| 着眼点 | 仕事(労働者)に近い | ボランティアに近い |
|---|---|---|
| 依頼に対する諾否の自由 | 病気など特別な理由がないと断れない | 都合が悪ければ断れる |
| 業務遂行上の指揮監督 | 手順や方法を細かく指示される | 進め方を任されている |
| 拘束性 | 勤務時間と場所が決められている | 参加時間を自分で選べる |
| 代替性 | 自分以外の人に代わってもらえない | 別の参加者が代われる |
| 報酬の性格 | 時間や日数に応じて支払われる | 実費の弁償にとどまる |
注意したいのは、どれか1つで決まるわけではないという点だ。時間が決められていても、断る自由があり支払いが実費相当なら労働者とは判断されにくい。逆にシフト表に組み込まれ、代わりが立てられず、時間あたりで金額が決まっているなら、呼び名がボランティアでも仕事に近い。詳しくは厚生労働省「労働基準法における労働者性判断に係る参考資料集」が判断要素ごとに裁判例を引いて説明している。
労働者に当たると最低賃金が効いてくる
仮に労働者と判断されたとき、まず影響するのが賃金の下限である。最低賃金法第2条第1号は、この法律でいう労働者を労働基準法第9条に規定する労働者と定めている。そして同法第4条第1項は、使用者は最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないと規定する。つまり労働者と判断されれば、謝礼という名前でも時間あたりで下限を下回ってはいけない。
令和8年度の地域別最低賃金は、答申された改定額の全国加重平均が1,177円で、改定前の1,121円から56円、5.0%の引き上げとなった。最も高いのは東京の1,280円、神奈川が1,279円で続く。最も低いのは宮崎の1,085円で、高知と沖縄が1,086円となっている。発効日は都道府県ごとに異なり、令和8年10月1日から12月2日までの間に順次切り替わる。1日3,000円で6時間拘束される活動を時間あたりに直すと500円になるため、労働者と判断される内容なら水準として説明がつかなくなる。一覧は厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」で確認できる。
受け取ったお金と確定申告の境目
税の扱いも分かれる。交通費や昼食代をその都度実費で精算してもらう形は、手元に残るものがないため所得として現れにくい。一方、活動時間に応じた謝礼を受け取れば、それは収入として計上する対象になる。給与として支払われるのか、それ以外の所得になるのかは、先の使用従属性の判断と連動する。
国税庁の案内によれば、1か所から給与の支払いを受けていて全額が源泉徴収の対象となっている人は、給与所得と退職所得を除く各種の所得金額の合計額が20万円を超える場合に確定申告が必要になる。月5,000円の謝礼を12か月受け取っても6万円なので、この水準ではすぐに申告が必要になるわけではない。ただし副業や他の収入と合算して判定するため、金額は年単位で把握しておく必要がある。詳細は国税庁「給与所得者で確定申告が必要な人」に整理されている。学生や扶養に入っている人は、世帯側の控除への影響も合わせて確かめておきたい。
手続きの順序としては、所得税の確定申告と住民税の申告が別の制度であることも覚えておくとよい。所得税の側で申告が不要だった場合も、お住まいの市区町村の案内に沿って住民税の手続きが必要になることがある。年の途中で金額を記録しておけば、どちらの判断も後から迷わない。
応募前に確かめておく3つのこと
迷いを残さない方法は単純で、募集元に聞くことである。確かめる点は3つに絞れる。1つ目は支払いの性格で、実費の弁償なのか時間に応じた謝礼なのかを区別して尋ねる。2つ目は参加の自由度で、断れるのか、代わりを立てられるのかを確認する。3つ目は書面の有無で、契約書や覚書を交わすのか、登録票だけなのかを見る。
この3点が揃えば、自分がどちら側に立っているかはほぼ判断できる。曖昧にしたまま始めると、拘束は仕事並みなのに扱いは無償のままという一番つらい形になりやすい。選ぶ前に活動の種類そのものを見渡したい人はボランティアの種類を11分類で整理した記事、技能を生かす形に関心があるならプロボノとボランティアの違いをまとめた記事が手がかりになる。地域の活動と関わり方の幅を知るうえではFLASPOの取り組みも参考になるだろう。
よくある疑問
交通費だけ受け取る形でも仕事になるのか。実費の弁償にとどまる限り、労働の対償とは見られにくい。領収書に基づいて実額を精算する運用であれば、金額が多少大きくても性格は変わらない。
有償ボランティアという言葉は法律上の区分なのか。法令にこの用語はない。無償を原則としながら実費や少額の謝礼を伴う活動を指す実務上の呼び方で、扱いは個別の実態で決まる。
謝礼から源泉徴収されていたら労働者ということか。源泉徴収の有無は支払側の処理であり、それだけで労働者性が決まるわけではない。給与として処理されているかどうかは、支払明細の記載と年末の源泉徴収票の交付で見分けられる。
学生の場合も同じ基準で見るのか。労働者性の判断に年齢や身分による別枠はなく、働き方の実態で見る点は同じである。授業や単位と結び付いた活動は、学校側の規程で扱いが決まっていることが多いので、窓口にも確認しておきたい。
活動中にけがをしたらどちらの補償になるのか。労働者に当たる働き方なら労災保険の対象になり、無償の活動であれば社会福祉協議会のボランティア活動保険などで備える形になる。立場があいまいだと、どちらの窓口にも当てはまらない空白が生まれる。これも応募前に確認したい項目である。
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