候補を三つに絞ったあとで、調べる順番が要る
設立の準備でいちばん盛り上がるのは名前の話である。合宿の夜に候補が二十個ほど出て、翌週には三つに絞られる。そこまでは誰も困らない。手が止まるのは、その三つのどれを選んでも差し支えないのかを確かめようとした瞬間で、何をどこで引けばよいのかが分からない。
名前は後から直せると思われているが、実際には直しにくい。口座の名義、交流サイトのアカウント、刷ってしまったチラシ、助成の申請書、名刺。変えるたびに全部をやり直す羽目になり、二年目に入るころにはほぼ固定される。決める前に一度だけ、通して調べておく値打ちがある。
引く順番は三段で足りる。法律が名乗ることを禁じている語を外し、すでに登録されている他人の商標との近さを見て、登録がなくても守られている表示に当たらないかを確かめる。団体の形そのものをどう選ぶかは学生団体の作り方|任意団体のまま進むか法人格を取るかで決めるで整理した。
名乗る資格がない者には、使えない語がある
最初に落とすのは、資格のない者が使うと法律に触れる語である。特定非営利活動促進法第4条は、特定非営利活動法人以外の者は、その名称中に、特定非営利活動法人又はこれに紛らわしい文字を用いてはならないと定めている。所轄庁の認証を受けていない団体が「NPO法人」を冠するのは、この条文に正面から当たる。
同じ作りの規定が法人の種類ごとに置かれている。一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第6条は、一般社団法人又は一般財団法人でない者はそう誤認されるおそれのある文字を使ってはならないとし、会社法第7条は、会社でない者はその名称又は商号中に会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならないと置く。両法はさらに、不正の目的で他の法人と誤認されるおそれのある名称を使うことを別の条で禁じ、侵害された側に差止めの請求権を与えている。
| 名称に入れられない語 | 根拠の条文 | 任意団体のあいだはどうするか |
|---|---|---|
| 特定非営利活動法人、NPO法人 | 特定非営利活動促進法第4条 | 認証が下りるまでは冠さない |
| 一般社団法人、一般財団法人 | 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第6条 | 設立登記を終えてから付ける |
| 株式会社など会社と誤認される文字 | 会社法第7条 | 物販を始めても会社名は使わない |
| 他の法人と誤認させる名称(不正の目的) | 会社法第8条、一般社団法人法第7条 | 似せに行かない。差止めの対象になる |
逆に、任意団体であるかぎり名称そのものに許可は要らない。「会」「プロジェクト」「ラボ」「ユニオン」といった語は自由に選べる。制限がかかっているのは、法人の種類を示す語と、他人と紛れる語という二方向だけである。
似た名前が先に登録されていないかを登録簿で見る
禁止語を外したら、次は他人の商標との距離をはかる。商標法第4条第1項は、登録を受けることができない商標を号で並べている。学生団体の名前で引っかかるのは、おおむね四つの号に集まる。
第10号は、他人の業務に係る商品や役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標と同一または類似のもの。第11号は、自分より前に出願された他人の登録商標と同一または類似のもの。第15号は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標。第19号は、国内外で広く知られた商標に似せ、不正の目的をもって使うものである。前の三つは知らずに踏むが、最後のひとつは狙って踏むものなので、心当たりがあれば候補から外す。
人の名を団体名に使う場合は第8号を見る。他人の肖像や、需要者の間に広く認識されている氏名、著名な雅号や芸名を含む商標は、その人の承諾がなければ登録を受けられない。氏名を含む商標については商標法施行令第1条が、商標に含まれる他人の氏名と出願人との間に相当の関連性があること、出願人が不正の目的で登録を受けようとするものでないことという二つの要件も重ねている。創設者や恩師の名を冠するときに効いてくる。
確認そのものは手早く済む。独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営する特許情報プラットフォームで、候補の文字列と読みを入れて検索すればよい。有名企業の造語と一字違いだった、という種類の事故は、ここで十分も掛けずに防げる。
登録されていない名前にも、守られる範囲がある
商標登録がなければ早い者勝ちだ、とは言えない。不正競争防止法第2条第1項第1号は、他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと同一もしくは類似の商品等表示を使用し、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為を不正競争と定める。ここでいう商品等表示には、氏名、商号、商標、標章が含まれている。
続く第2号は、自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一もしくは類似のものを使用する行為を挙げる。こちらには混同が生じたかどうかという要件がない。相手の表示が著名であれば、似せて使った時点で形式を満たす。
学生の活動は営利でないから関係ない、と片づけるのは早い。物販や受託を始めれば営業の外形はそろうし、第2号には混同の要件が置かれていない。知られた略称を借りたり、ロゴの字形をなぞって作った名前は、登録の有無にかかわらず避けておくのが安全である。
ここまで三段を通すと、候補はたいてい一つか二つに減る。残ったものを会則の名称の条文に書き込む段取りは学生団体の会則|定款の必要的記載事項14項目から条文を起こすにまとめてある。
自分たちで登録するなら、区分の数で金額が決まる
守りに回るのではなく、こちらから登録する道もある。商標は商品と役務の区分ごとに権利を取る仕組みで、商標法施行令の別表は第一類から第四十五類までの45区分を置いている。学生団体が関わる区分は、だいたい次の範囲に収まる。
| 区分 | 政令が定める内容 | 学生団体で当たる場面 |
|---|---|---|
| 第16類 | 紙、紙製品及び事務用品 | 冊子やステッカーを作って配る |
| 第25類 | 被服及び履物 | 団体名を入れた衣類を頒布する |
| 第35類 | 広告、事業の管理又は運営、事務処理及び小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供 | 企業の広報や販売を請け負う |
| 第41類 | 教育、訓練、娯楽、スポーツ及び文化活動 | 講座やイベントを継続して開く |
| 第42類 | 科学技術又は産業に関する調査研究及び設計並びに電子計算機又はソフトウェアの設計及び開発 | 調査や開発を団体名で請ける |
金額は特許庁の産業財産権関係料金一覧に出ている。商標登録出願は3,400円に区分数かける8,600円を足した額、設定登録料は区分数かける32,900円である。1区分だけなら出願が12,000円、登録が32,900円で、合わせて44,900円になる。商標法第19条は商標権の存続期間を設定の登録の日から10年と定めており、更新登録申請は区分数かける43,600円で同じ長さを足せる。
十年で四万円台という水準をどう受け取るかは、団体の寿命の見立てで変わる。四年で解散する前提なら払う意味は薄い。卒業後も名前を残して後輩に渡す構えなら、代が替わっても権利は団体に残るので、引き継ぎの材料のひとつになる。
よくある質問
Q. 他の大学に同じ名前の学生団体があると分かりました。変えるべきでしょうか。
A. 相手が商標登録をしておらず、その名前が全国的に知られているわけでもなければ、法律の上はそのまま使えます。ただし助成の審査や取材で取り違えられると双方が損をするため、活動地域か分野を示す語を足して区別しておくほうが実務的です。
Q. 英字の略称だけで活動していますが、これも商標の問題になりますか。
A. なります。商標の類似は文字の見た目だけでなく読み方でも判断されるため、称呼が一致する略称は衝突しやすい。アルファベット三文字から四文字の略称はとくに重なるので、登録簿の検索は正式名称と略称の両方で掛けてください。
Q. 任意団体のうちに商標を登録できますか。
A. できます。出願人は法人でなくてもよく、個人名義でも手続きは通ります。ただし代表個人の名義で取ると、卒業や交代のたびに移転の手続きと費用が発生します。法人格を取る予定があるなら、登記を終えてから法人名義で出願したほうが後が軽い。法人の種類ごとの違いは学生団体とNPOの違い|社員10人と20分野という法律上の線で比べています。
Q. ロゴも一緒に守る必要がありますか。
A. 文字とロゴは別の商標として扱われます。予算が限られるなら、まず文字の商標を1区分で取るのが順序です。図形の側は著作権でも争える余地があるため、優先度は一段下がります。
Q. 名前を決めたあと、最初にやることは何ですか。
A. 会則に名称の条文を置き、口座と交流サイトのアカウントを同じ表記でそろえることです。全角と半角、中黒を入れるかどうかといった揺れは後から直すのがいちばん面倒なので、使う表記を一通りに決めてしまってください。学生時代の活動を仕事の側からどう見るかという材料はFLASPOでも扱っています。
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