初めての給与明細で、名前を知らないまま引かれていた
入社して最初の給与明細を見たとき、健康保険料の欄に並んだ数字の根拠を説明できる新人は少ない。金額の感覚をつかむために、まず全体の数字を置いておきたい。健康保険組合連合会が公表した令和8年度予算の早期集計では、被保険者1人あたりの保険料負担額は56万1,944円で、前年度より1万7,705円(3.3%)増えた。これは会社と本人が合わせて払う額で、労使折半なら本人側は年およそ28万円である。
令和8年度からは子ども・子育て支援金も加わった。組合全体で2,347億円、被保険者1人あたり1万3,711円が計上されている。協会けんぽでは全国一律0.23%の支援金率として令和8年4月分から上乗せされる。保険料率そのものは下がった年なのに手取りが思ったほど増えないのは、こうした項目が同時に動いているからである。
自分が払っている額を把握したうえで、受け取っている側の数字と並べてみると、制度の形が見えてくる。健康保険には種類があり、どれに入るかで負担も給付も変わる。全体の区分は健康保険の種類を5つに整理した記事にまとめてある。
20代が使う医療費は、払う保険料より小さい
若いうちは病院に行く回数が少ない。厚生労働省の令和5年度国民医療費によれば、15歳から44歳の人口1人あたり国民医療費は14万8,300円である。全年齢の平均は38万6,700円、65歳以上は79万7,200円、75歳以上は95万3,800円だから、この年代は平均の半分以下に収まっている。
総額で見ると偏りはさらにはっきりする。令和5年度の国民医療費48兆915億円のうち、15歳から44歳が使ったのは5兆8,422億円で全体の12.1%にすぎない。一方で65歳以上は28兆8,806億円、構成割合は60.1%を占める。
| 年齢階級 | 1人あたり国民医療費 | 総額(構成割合) |
|---|---|---|
| 0〜14歳 | 19万5,400円 | 2兆7,688億円(5.8%) |
| 15〜44歳 | 14万8,300円 | 5兆8,422億円(12.1%) |
| 45〜64歳 | 30万6,800円 | 10兆5,998億円(22.0%) |
| 65歳以上 | 79万7,200円 | 28兆8,806億円(60.1%) |
| 75歳以上(再掲) | 95万3,800円 | - |
払う額のほうが大きいという事実は、保険が損な買い物だという話にはならない。入院や手術が起きたときに自己負担を3割に抑え、高額療養費で上限を作るのが本体の役目である。勤め先の健康保険であれば、病気やけがで働けない期間を支える傷病手当金や、出産前後の所得を補う出産手当金も付く。市町村国保にはないこの2つは、若い世代にとって現実的な保険の中身である。
保険料の4割は、自分の医療費ではないところへ行く
払った保険料がどこへ向かうのかは、組合の予算書を見ると分かる。令和8年度予算で組合健保の経常支出10兆526億円のうち、加入者の医療費にあたる保険給付費は5兆3,250億円である。これと並んで大きいのが高齢者医療への拠出金3兆9,796億円で、内訳は後期高齢者支援金2兆4,011億円、前期高齢者納付金1兆5,781億円となる。
保険料収入に占める拠出金の割合は41%にのぼる。健保連は、現在の平均料率9.32%を据え置いたままなら、この割合が将来は約5割へ上がると試算し、現役世代のための給付に回す財源が足りなくなると指摘している。75歳以上の医療費を現役の保険料で支える設計なので、現役世代が減れば1人あたりの負担は自動的に重くなる。
仕送りのような構造は国民医療費の財源構成にも表れている。令和5年度の財源は保険料が24兆1,383億円(50.2%)で、うち事業主が10兆5,613億円、被保険者本人が13兆5,770億円である。公費は18兆331億円(37.5%)、患者負担は5兆6,865億円(11.8%)にとどまる。窓口で払う3割は、総額で見れば1割強でしかない。
加入の線は「週20時間」へ寄っていく
アルバイトや短時間勤務で働く人にとって、どこから自分名義の被保険者になるかは手取りを左右する。現在の要件は、週の所定労働時間が20時間以上、所定内賃金が月額8.8万円以上、2か月を超える雇用の見込みがあり、学生ではなく、従業員51人以上の企業に勤めていることである。
このうち賃金要件は役目を終えつつある。厚生労働省の資料は、令和7年度の地域別最低賃金がすべての都道府県で時給1,016円を超えたため、週20時間働けば自動的に月8.8万円に届くとして、令和8年10月に賃金要件を撤廃する予定と記している。企業規模の要件も年金制度改正法に基づいて段階的に縮小する。
| 時期 | 企業規模の要件 |
|---|---|
| 現在 | 従業員51人以上 |
| 令和9年(2027年)10月から | 従業員36人以上 |
| 令和11年(2029年)10月から | 従業員21人以上 |
| 令和14年(2032年)10月から | 従業員11人以上 |
| 令和17年(2035年)10月から | 従業員10人以下も対象 |
残るのは週20時間以上、2か月を超える雇用の見込み、学生でないことの3点である。学生の適用除外は今回の改正でも変わらない。要件を満たさない企業でも、従業員の2分の1以上の同意があれば任意で加入できる道が用意されている。
扶養のままでいられる境目はどこか
親の保険証を使っている学生や、配偶者の扶養に入って働いている人が気にするのは年収の線である。同一世帯の場合、認定対象者の年間収入が130万円未満で、かつ被保険者の年間収入の半分未満であることが原則となる。60歳以上の人や障害厚生年金を受けられる程度の障害がある人は180万円未満が基準になる。
判定の方法は2026年4月から変わった。認定日が2026年4月1日以降となる場合、ほかに収入が見込まれないときは、労働契約で定められた賃金から見込まれる年間収入で判定される。労働条件通知書などの提出を求められるため、シフトの増減を後から説明する形ではなく、契約の時点で線を越えるかどうかが決まる。
扶養から外れると自分で保険料を払うことになるが、将来の年金額や傷病手当金のような給付は自分名義でなければ付かない。手取りだけを守るか、給付を取るかという選択になる。働き方と税の線をまとめて確かめたいときは確定申告が必要になる人の線を整理した記事が参考になる。生活設計の優先順位を考える手順はFLASPOでも扱っている。
よくある質問
学生でもアルバイト先の社会保険に入るのか。昼間部の学生は適用除外とされており、週20時間以上働いても原則として対象にならない。ただし卒業後も同じ職場で働き続ける場合や、休学中、夜間部や通信制の場合は扱いが変わるので、勤め先に確認が必要である。
就職した月の保険料はいつから引かれるか。資格は入社日に発生し、保険料はその月分から発生する。実務では翌月の給与から前月分を控除する会社が多いため、1か月目の明細に健康保険料が載らないことがある。2か月目に2か月分が引かれて驚くのは、この時差が原因である。
退職して無職になったらどうするか。任意継続、市町村国保、家族の扶養の3つから選ぶ。任意継続は会社の負担がなくなるので在職中の約2倍になり、国保は前年の所得で決まる。手続きの期限が短いので、退職日が決まった時点で両方の金額を調べておきたい。国保側の計算は国民健康保険の仕組みをまとめた記事で確かめられる。
保険料を払いたくない場合はどうなるか。被用者保険は勤め先を通じて天引きされるため、本人が納付を止める選択はできない。国保の場合は減免や徴収猶予の制度があり、所得が下がったときは市区町村の窓口で相談できる。放置して滞納すると資格証明書に切り替わり、窓口でいったん全額を払う扱いになる。
出典:厚生労働省「令和5年度 国民医療費の概況」、同「社会保険の適用拡大について」、健康保険組合連合会「令和8年度 健康保険組合予算編成状況(早期集計結果)」、全国健康保険協会「令和8年度保険料率のお知らせ」
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