立候補した時点では、何をする役なのかを誰も説明してくれない。気がつくと備品の数を数え、業者に電話をかけ、どの企画を落とすかを決める場に座っている。学園祭実行委員の仕事は作業の寄せ集めのように見えるが、中身を分けていくと「決めること」と「手を動かすこと」の二種類しかない。この二つを混ぜたまま一年を走ると、どちらも間に合わなくなる。
実行委員の仕事は、決定の積み上げでできている
実行委員の時間を記録してみると、多くが調整に消えている。企画が重なった二団体をどう並べるか、予算の枠を超えた申請をどう扱うか、会場の使用時間を誰に割り当てるか。どれも手を動かせば終わる作業ではなく、何らかの基準で判断して相手に伝える仕事である。
この性質をつかんでおくと、人の配置が変わる。備品の搬入や看板の制作は、やり方を決めてしまえば当日のボランティアにも渡せる。渡せないのは、基準をつくる作業と、基準に当てはめて断る作業のほうだ。実行委員の人数を増やしても楽にならないのは、増やせるのが後者ではなく前者の担い手だからである。
判断の記録を残すかどうかで、翌年の負担が変わる。なぜその企画を認めなかったのか、なぜ屋外企画の撤収を16時に切ったのか。結論だけが引き継がれると、翌年の委員は同じ議論をもう一度やることになる。理由のほうが資産である。
高校の実行委員には、制度上の根拠がある
同じ呼び名でも、高校と大学では立っている土台が違う。高等学校学習指導要領は第5章に特別活動を置き、その中の生徒会活動の内容として「学校行事への協力」を挙げ、「学校行事の特質に応じて、生徒会の組織を活用して、計画の一部を担当したり、運営に主体的に協力したりすること」と定めている。実行委員の仕事は、この条文が指す範囲に重なる。
行事そのものの位置づけも書かれている。学校行事の区分のうち文化的行事は「平素の学習活動の成果を発表し、自己の向上の意欲を一層高めたり、文化や芸術に親しんだりするようにすること」とされる。発表の場をつくることが目的に含まれているため、来場者数や売上を唯一の成功指標にすると、制度上の狙いからは外れていく。
特別活動の目標には「様々な集団活動に自主的、実践的に取り組み」という文言があり、生徒会活動の目標にも「計画を立て役割を分担し、協力して運営することに自主的、実践的に取り組む」と置かれている。教員が代わりに決めてしまうと、活動としては成立しないという建て方になっている。原文は高等学校学習指導要領(平成30年告示)で確認できる。大学の学園祭にはこの根拠がなく、拠って立つのは各大学の規程と実行委員会自身の慣行である。
負担は一年を通して平らではない
引き継ぎの資料に「忙しい」としか書かれていないことがある。実際には時期によって仕事の種類が入れ替わり、重さも変わる。下の表は一般的な秋開催を前提に並べたもので、開催時期や学校の規模で前後するが、山がどこに来るかの見当はつく。
| 時期 | 主な仕事 | 性質 |
|---|---|---|
| 開催の半年以上前 | テーマ決め、組織と分担の設計、前年の記録の確認 | 決める仕事が中心 |
| 4か月前 | 企画の募集要項づくり、会場の割り当て方針、予算の枠組み | 基準をつくる |
| 2か月前 | 企画の受付と審査、落とす判断と説明、届出内容の確定 | 断る仕事が増える |
| 1か月前 | 消防署・保健所・警察署への届出、タイムテーブル確定 | 期限に縛られる |
| 前日から当日 | 設営、本部での情報集約、事故とトラブルの対応 | 手を動かす仕事が中心 |
| 終了後1か月 | 撤収の確認、記録の整理、次年度への申し送り | 最も省略されやすい |
終了後の列も扱いが難しい。打ち上げで解散してしまうと、撤収の確認と記録の整理が残る。借りた備品の返却漏れや、仮設物の撤去が済んでいない箇所は、数日経ってから学校側の指摘で発覚することがある。終了日を活動の終わりに置かず、最後の確認を済ませる日を別に決めておくと取りこぼしが減る。
注目したいのは2か月前の列である。ここで企画を落とす判断と、落とした理由を相手に伝える作業が同時に来る。断る仕事は時間が読めず、精神的な消耗も大きい。この時期に搬入や印刷のような作業を重ねると、説明が後回しになって不満が残る。先に空けておくべき期間として扱うほうがよい。
話し合いと意思決定は、別の手続きとして扱う
会議が長引く原因は、意見を聞く場と結論を出す場を同じ時間に詰め込んでいることが多い。学習指導要領も、ホームルーム活動の内容として「解決するために話し合い、合意形成し、役割を分担して協力して実践したり」と、話し合いと合意形成を別の動作として並べている。手続きを分けて書いているわけである。
実務に落とすと、三つの段を踏む形になる。まず論点を出す場を開き、次に判断の基準を文章にして共有し、最後に基準へ当てはめる。基準を先に合意しておけば、個別の案件は短い確認で済む。基準なしで案件ごとに多数決をとると、似た案件で違う結論が出て、後から説明がつかなくなる。
断り方にも型がある。落とした理由を「安全上の問題」で止めず、どの条件が欠けていたのかを示すと、相手は作り直せる。火器の種類が条例上の届出の対象だったのか、会場の退路が確保できなかったのか、人数が足りなかったのか。条件を具体に落とす手間は、再提出の質となって戻ってくる。組織の立ち上げ方そのものはサークルの作り方を扱った記事とも共通する部分がある。
引き継ぎで残すのは、結果ではなく判断の理由
翌年の委員が最初に困るのは、前年の数字が分からないことではない。数字は残っていても、なぜその数字になったのかが書かれていないことのほうが多い。来場者が前年より減ったのは広報の失敗なのか、雨なのか、同じ週末に地域の行事が重なったのか。理由の記録がないと、対策が勘になる。
残すべきものは四つに絞れる。届出と許可の控えおよび提出先の連絡先、却下した企画とその理由、当日の記録、そして見積もりと実績の差が出た項目である。とくに届出の控えは、翌年に同じ窓口へ同じ内容を出す場面で効く。前年に何を提出したかが分かるだけで、相談の初速が変わる。
終わった直後は、誰も書きたくない時期である。だからこそ当日の本部で書いた紙をそのまま束ねて渡す形にしておくと、整理の負担が減る。学生の活動が地域に接続していく動き方には学生団体の活動内容を整理した記事のような例もあり、行事の位置づけを振り返るなら学園祭の歴史をたどった記事も材料になる。学生の企画と地域をつなぐ場としてはFLASPOのような取り組みも動いている。
よくある疑問
実行委員は何人必要なのか。公的な基準はない。決める層と動く層を分けられる人数が下限で、あとは企画数と会場の広さで決まる。人を増やして軽くなるのは作業のほうだけで、判断の仕事は増員では減らない。
活動は授業として扱われるのか。高等学校学習指導要領は生徒会活動と学校行事について「学校の実態に応じて、それぞれ適切な授業時数を充てる」としており、学校ごとの判断になる。ホームルーム活動は原則として年間35単位時間以上と定められているが、こちらは別の活動である。
委員の経験は就職活動で使えるのか。断った判断とその理由、期限に合わせて手続きを通した経験は、具体に書ける材料になる。役職名だけを挙げても何をしたかは伝わらないため、決めた内容を一つ選んで説明するほうが通りやすい。
教員はどこまで関わるのか。学習指導要領は生徒の自主的、実践的な活動を前提に置いている一方で、ホームルーム活動と生徒会活動については「教師の適切な指導の下に」という条件も付けている。安全や法令にかかわる判断は教員と共有する形が実際的である。
大学の実行委員は高校と何が違うのか。大学には学習指導要領の適用がなく、根拠は各大学の規程と実行委員会の慣行になる。外部からの来場者や出店が増えるため、届出や許可の実務の比重が高校より大きくなりやすい。
途中で辞める人が出たらどうするか。担当が一人に属人化していると引き継げない。届出の進捗と連絡先だけは共有の場所に置き、誰が抜けても次の人が窓口に電話できる状態を保つ。これは当日の欠員対策にもそのまま効く。
予算の管理は実行委員が持つべきか。金額を動かす権限と、使途を決める権限は分けられる。枠の配分は実行委員会が決め、枠の中での支出は各団体に任せる形が扱いやすい。領収書の保管先だけは一か所に統一しておく。
来場者からの苦情は誰が受けるのか。当日の本部に集約し、受けた人がその場で判断しない形にしておく。内容と時刻、対応した人を記録に残せば、同じ指摘が翌年も出たときに原因が追える。
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