地方の医療に外から入る枠は1年へ|医師偏在指標107.8と789.8の間

医師の多い少ないは、どこで決まっているのか

「この町は医者が足りない」という話を、住んでいる人の実感として聞くことは多い。ところが国の側では、それは感覚ではなく一本の数値として扱われている。厚生労働省が置いている医師偏在指標である。

この指標は、三次医療圏と二次医療圏ごとに医師の偏りを全国の同じ土俵で比べるために作られた。人口10万人あたりの医師数では偏在の状況を十分に反映できない、という反省が出発点になっている。算定式には五つの要素が入る。医療需要と将来の人口・人口構成の変化、患者の流出入、へき地等の地理的条件、医師の性別・年齢分布、そして偏在の種別(区域・診療科・入院と外来)である。

全国335の二次医療圏をこの値で一列に並べ、下位33.3%を医師少数区域、上位33.3%を医師多数区域とする基準を国が示し、都道府県がそれに沿って区分を決める。区分が決まると、都道府県は医師確保計画を作る。確保の方針、確保すべき医師数の目標、目標を達成する施策の三つを書き、原則3年ごとに見直す仕組みになっている。平成30年の医療法改正で地域医療対策協議会の役割が法定され、医師の派遣調整はこの協議の場で調った事項に基づいて行うことになった。

ただし厚生労働省は、この値を絶対的な充足状況を示すものではないとも明記している。算定には一定の仮定が必要で、入手できるデータにも限界があるため、あくまで相対的な偏りを表すものとして扱うこと、機械的に運用しないことが求められている。

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釜石107.8と区中央部789.8という開き

実際の値を見ると、差の大きさが数字としてはっきり出てくる。令和6年1月公表版の都道府県別では全国が255.6で、最も高い東京都が353.9、最も低い岩手県が182.5である。都道府県単位での上位3分の1の閾値は266.9、下位3分の1の閾値は228.0に設定されている。

二次医療圏まで下りると幅はさらに広がる。閾値は上位が217.6、下位が179.3。公表されている表のなかで最も低いのは岩手県の釜石で107.8、次が香川県の小豆で109.0、北海道の北渡島檜山が112.6と続く。反対の端は東京都の区中央部で789.8、区西部が569.1、区西南部が413.7である。最も低い医療圏と最も高い医療圏のあいだには7倍を超える開きがある。

区分 医師偏在指標 上位3分の1の閾値 下位3分の1の閾値
全国 255.6 266.9(都道府県別) 228.0(都道府県別)
東京都(都道府県で最も高い) 353.9 - -
岩手県(都道府県で最も低い) 182.5 - -
東京都 区中央部(医療圏で最も高い) 789.8 217.6(二次医療圏別) 179.3(二次医療圏別)
岩手県 釜石(医療圏で最も低い) 107.8 217.6(二次医療圏別) 179.3(二次医療圏別)

地域で医療に関わる仕事を考えるとき、この値はどの地域が人を探しているかの地図になる。無医地区の分布から見た地図は医療の空白は557地区12万人で別に扱っているので、合わせて見ると位置関係がつかみやすい。

前の計画で目標に届いたのは半分以下だった

では、計画は効いているのか。第7次医師確保計画(2020〜2023年度)は、指標が下位3分の1に入る医師少数県と医師少数区域が、計画開始時点の下位3分の1の基準値に達することを目標にしていた。

結果は、医師少数県16県のうち目標を達成したのが6県で38%。医師少数区域105区域のうち達成したのは43区域で41%だった(医療圏を8から3に見直した秋田県を除く比較)。偏在是正の目標年は2036年に置かれているが、最初の3年強で動いたのは全体の4割前後ということになる。

もっとも、人の流れが止まっているわけではない。令和2年から令和4年の2年間で、35歳未満の医療施設従事医師数は全国が64,927人から66,544人へ増え、医師少数区域では4,360人から4,976人へと14.1%増えた。全世代を合わせた医療施設従事医師数は全国が323,700人から327,444人、医師少数区域は29,384人から30,060人で2.3%増である。若手の伸び率は医師少数区域のほうが大きいが、増加の実数は小さい。多数区域の全世代が225,319人から227,765人へ動いていることと並べると、量としての差は縮まっていない。

「6か月」という線が1年に動こうとしている

常勤で移り住む以外の形で地方の医療に関わる道は、制度として用意されている。医療法第5条の2にもとづく認定制度で、医師少数区域等に一定期間勤務し、その地域の医療提供に必要な業務を行った医師を厚生労働大臣が認定する仕組みである。

必要な勤務期間は6か月以上。医師免許の取得後9年以上たっていれば、断続的な勤務を積み上げて6か月に届かせることもできる。9年未満の場合は原則として連続した勤務が求められるが、妊娠や出産による中断は認められる。対象になるのは2020年度以降の勤務で、臨床研修中の期間は数えない。認定に必要な業務は三つの柱で示されている。個々の患者の生活状況をふまえ幅広い病態に対応する継続的な診療と保健指導、他の医療機関や介護・福祉事業者等との連携、地域住民に対する健康診査や保健指導といった地域保健活動である。

認定を取ると地域医療支援病院の管理者になれる(2020年度以降に臨床研修を開始した医師が管理者になる場合の要件)。研修受講料や旅費といった経費の支援もある。そして令和6年12月の対策パッケージでは、この管理者要件の対象に公的医療機関や国立病院機構・地域医療機能推進機構・労働者健康安全機構の病院を加え、勤務経験期間を6か月以上から1年以上へ延長する方向が示された。断続的な積算が認められている以上、1年という線は副業的な関わり方にとってもそのまま重くなる。

重点区域と、派遣する側に付く金

対策パッケージで新しく置かれた枠が重点医師偏在対策支援区域である。今後も定住人口が見込まれるのに、人口減少より医療機関の減少スピードが速い地域などを指定し、優先的・重点的に対策を進める。国が候補区域を示し、都道府県が可住地面積あたりの医師数、アクセス、人口動態などを考慮して、地域医療対策協議会と保険者協議会の協議を経て選ぶ。市区町村単位や地区単位も含まれる。

選ばれた区域については、医師確保計画のなかに医師偏在是正プランを作り、支援対象の医療機関、必要な医師数、取組を定める。診療所の承継・開業・地域定着の支援は緊急的に先行して実施される扱いで、令和6年度補正予算には重点区域における診療所の承継・開業支援事業として102億円が計上された。施設整備、設備整備、一定期間の定着支援の三つを、厚生労働省から都道府県を経て医療機関に流す形である。

注目したいのは、派遣される医師と従事する医師への手当の増額、派遣元の医療機関への支援が検討対象に入っていることだ。人を出す側の負担を国が見るという発想で、ここが動けば、籍を置いたまま一定期間だけ地方に入る形が取りやすくなる。臨床研修では医師少数県等で24週以上の研修を行う広域連携型プログラムを令和8年度から始められるよう準備が進み、総合的な診療能力を学び直すリカレント教育と全国的なマッチング支援も並べられている。地域と関わる働き方の全体像はFLASPOでも扱っているが、医療は資格と配置の制度が厚いぶん、入口が制度側から整えられていく分野だと言える。

よくある質問

医師偏在指標が低い地域は、医師が足りないと断定していいのでしょうか。断定はできない。厚生労働省自身が、この指標は絶対的な充足状況ではなく相対的な偏りを表すものだと注意書きを置いている。算定に仮定が入り、データにも限界があるためで、数値を絶対的な基準として扱わないよう求めている。地域の実情は、医療圏の面積や交通、患者の流出入と合わせて読む必要がある。

医学生や研修医の段階で、医師少数区域での勤務は記録として残るのでしょうか。認定の対象になるのは2020年度以降の勤務で、臨床研修中の期間は算定から外れる。つまり研修医として医師少数区域の病院にいた期間は、認定のための6か月には数えられない。一方で令和8年度の開始を目指す広域連携型プログラムは、医師少数県等での24週以上の研修を臨床研修のなかに組み込む形で制度化が進められている。

医師ではない立場で、地方の医療を支える関わり方はありますか。医行為に当たらない範囲の支援、送迎や相談の受け止め、健診の運営補助などは医療職以外でも関われる領域である。線引きは医療ボランティアができることで整理した。業務として請ける場合の契約条件については副業で地域の仕事を請ける人に付いた法律も参考になる。

認定を取る医師は増えているのでしょうか。認定件数そのものは今回参照した資料には示されていない。制度は2020年度以降の勤務を対象に動き出した段階で、管理者要件の対象医療機関の拡大と勤務期間の延長が検討されているところである。数の評価ができるのは、要件が固まったあとになる。

出典:厚生労働省「医師偏在対策について」(令和7年9月11日 第4回地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 資料1)https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001560980.pdf、医療法第5条の2(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205


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