農業体験で伝統野菜に関わる|GI170産品と794万人泊の現場

その呼び名に国の定義はない

道の駅の棚に「伝統野菜」の札が付いた野菜が並んでいる。京都の賀茂なす、大阪の水なす、秋田の曲がりねぎ。土地の名前を冠した野菜は各地にあるが、この言葉に国が統一した定義を置いているわけではない。都道府県や市町村がそれぞれの基準で認定しているため、認定の年数や栽培地の条件は地域ごとに違う。

おおむね共通しているのは、その土地で長く作られてきた品種で、種取りが地元で続いていることだ。品種の改良が進んだ現代の野菜と比べると、形がそろわず、日持ちも短い。だから市場の規格に乗りにくく、流通に出る量は限られる。生産量が少ないのは人気がないからではなく、規格と相性が悪いからという面が大きい。

この性質が、農業体験と結びつく理由にもなっている。出荷して稼ぎにしにくい品種は、畑に来てもらって食べてもらう形のほうが価値を伝えやすい。収穫の手間がかかるものほど、人手を受け入れる余地が生まれる。体験の受け入れが単なる集客ではなく、品種を残す手段として組み込まれている産地がある。

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種を持っているのは誰なのか

畑に入る前に知っておくと話が通じる点がある。その野菜の種を誰が保管しているかだ。地域によって、農家が自家で採り続けている場合、生産者の部会がまとめて管理している場合、県の農業試験場が系統を保存している場合がある。訪ねる先がどの型なのかで、聞ける話も手伝える作業も変わる。

農家が個人で採種を続けている産地は、担い手が一人減るだけで系統が途切れる。栽培の記録が頭の中にしかないことも多く、作付けの時期や間引きの判断を言葉にしてもらう作業そのものに意味が出る。学生が関わるときに最も喜ばれるのが、この聞き書きだという現場は少なくない。

部会や試験場が管理している産地では、種の扱いに決まりがあるのが普通だ。持ち帰って自分の畑に播くことを認めていない産地もある。写真の公開範囲も含めて、入る前に確認しておく。産地を訪ねる段取りの組み方は農業体験は移住の判断材料になるか|日帰りから研修までで見える範囲にまとめられている。

訪ねる側がもう一つ確かめたいのは、その品種が今どれだけ作られているかである。数戸しか残っていない産地と、部会に数十戸が属している産地では、受け入れの余裕がまるで違う。前者に大人数で押しかけると、作業が止まって迷惑になる。人数と日程を先に相談するだけで、断られる確率はかなり下がる。

公的な裏付けのある産品はどれだけあるか

認定の基準が地域ごとに違うなかで、国の制度として名称を保護している枠組みがある。地理的表示(GI)保護制度である。その地域の自然的、人文的、社会的な要因のなかで育まれた品質や社会的評価を持つ農林水産物と食品の名称を、地域の知的財産として保護するもので、登録された産品はGIマークを使える。

農林水産省は令和8年7月10日に浜名湖うなぎ、加賀れんこん、日本茶の3産品を登録し、これで日本国内のGI登録産品は170産品になった。日本茶は生産地が日本国として登録された産品である。登録には野菜も多く含まれており、土地の名前を冠した在来の品種がここに名を連ねている。詳細は農林水産省「日本茶をはじめとする3産品を、地理的表示(GI)として登録」と地理的表示(GI)保護制度の登録産品一覧で確かめられる。

ここで気をつけたいのは、GIに登録されていない伝統野菜のほうが数としては多いという点だ。登録には生産者団体の申請と基準書の作成が必要で、少人数で作っている品種はそこまで手が回らない。GIの一覧は探すときの手がかりになるが、載っていないから価値が低いという読み方は外れている。

畑に入る入口を四つに分けて見る

実際に関わろうとすると、入口はいくつかに分かれる。期間と、背後にある制度が違うため、自分が出せる時間に合わせて選ぶほうが現実的だ。短い滞在で全体を見たいのか、作付けから収穫まで追いたいのかで、選ぶ先が変わる。

入口 期間の目安 背後にある制度と数字
農泊の体験プログラム 日帰りから数泊 農泊地域の延べ宿泊者数は令和5年度に794万人泊
産地の収穫受け入れ 収穫期の数日 GI登録産品は170産品
学校や食育の体験 授業の一コマから数日 食育基本法に基づく施策として実施
協力隊として就農 1年から3年(最大5年) 任期後に農業へ進んだ隊員は428名

農泊の数字は農林水産省「令和6年版食料・農業・農村白書」による。令和5年度の794万人泊は前年度から183万人泊増え、令和7年度までに700万人泊という目標を先に達成した。訪日外国人の延べ宿泊者数は39万人泊で、前年度から23万人泊伸びている。受け入れ側の体制が整ってきたぶん、短い滞在でも畑に入れる余地が広がった。

農泊の受け入れ側にも、インバウンドを意識した動きがある。白書は農泊インバウンド受入促進重点地域として40地域を挙げ、訪日客の誘客を重点的に支援する対象に位置づけている。英語での説明や決済の整備が進んだ地域では、国内の学生にとっても受け入れの段取りが整っていることが多い。

一度の体験を続く関わりに変えるには

収穫の一日で終わってしまう体験と、翌年も声がかかる関わりの差はどこにあるか。現場の人が挙げるのは、作業の前後を知っているかどうかである。収穫だけに来た人は、その品種がいつ播かれ、どの時期に手がかかるのかを知らない。次の年に別の時期へ顔を出す人は、話が早い。

そこで勧められるのが、最初の訪問で年間の作業表を聞いておくことだ。播種、定植、間引き、追肥、収穫、採種。品種ごとに山場が違い、人手が足りない週も違う。忙しい週を一つ覚えて、翌年その週に行く。これだけで関係の性格が変わる。

記録を残すことも効く。写真と日付、作業の内容、聞いた言葉。産地の側は日々の作業で手が回らないため、外から来た人が残した記録が後で使われることがある。学校の教材に転用された例も珍しくない。地域と学生の関わり方の事例はFLASPOでも扱っている。農泊は地方創生として何を達成したか|794万人泊の次にある宿題では、受け入れ側の課題を整理している。

よくある質問

農業の経験がなくても受け入れてもらえるか。多くのプログラムは未経験を前提に組まれている。ただし服装と体力の備えは必要で、長袖と帽子、履き替えの靴は最低限そろえておく。真夏の収穫は想像より消耗するため、初回は半日から始めるのが無理がない。

体験で収穫した野菜は持ち帰れるのか。産地によって扱いが分かれる。出荷規格に乗らないものを分けてもらえる場合もあるが、販売用の畑では持ち帰りを認めていない。種の持ち帰りは別の話で、品種の管理に関わるため原則として断られると考えておきたい。

大学の授業やゼミで扱うときに、どの資料から入ればよいか。国の枠組みから入るならGIの登録産品一覧が扱いやすく、産地名と品目が並んでいるので比較の素材になる。地域の制度を見るなら、都道府県が出している認定の基準を読むと、どういう条件で伝統野菜と呼んでいるかが分かる。

食育の文脈と結びつけてよいか。学校での体験は食育基本法に基づく施策として広く行われており、授業の枠で畑に入る形は定着している。ただし目的が違えば現場に求める準備も変わる。品種を残すことを軸に置くのか、食べることを軸に置くのかを先に決めておくと、受け入れ側との打ち合わせが短くなる。農業体験と食育はどこで結びつくか|世帯57.1%と目標60%の距離も参考になる。

社会人になってからでも関われるか。続けている人の多くは、年に一度か二度の訪問で関係をつないでいる。協力隊のように住民票を移す形だけが選択肢ではなく、忙しい週に合わせて通う関わり方のほうが長く続きやすい。最初の一歩を学生のうちに踏んでおくと、あとで戻る先が残る。


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