収穫前の畑に足を踏み入れると、イノシシが掘り返した跡や、シカに穂先を食べられた株が残っていることがある。農業体験の受け入れ先で「今年は電気柵を二重にした」という話が出てくるのは、作付けの前提として鳥獣の存在があるからだ。その先に置かれているのがジビエで、農林水産省の統計は令和7年度の利用量を3,155トンと公表した。被害と利用はひと続きの話であり、数字で追うと輪郭がはっきりする。
畑の被害は183億円のまま動いていない
農林水産省がまとめた令和7年度の野生鳥獣による農作物被害は、金額が183億円、面積が2万9千ヘクタール、量が56万トンだった。金額は前年度と同水準で、面積は7千ヘクタール、量は17万トン減っている。面積と量が減っても金額が動かないのは、単価の高い品目に被害が寄っていることを示している。
鳥獣別ではシカが76億円で2.2億円増え、クマが9億円で4.2億円増えた。ヒヨドリは4億円で4.5億円減っている。クマの増加分は、山で起きていることが人里の経済に出てくるまでの時間差を映したものだ。農業体験で「去年と違う」と言われる話は、こうした年ごとの振れ幅の中にある。
この数字は都道府県からの報告を積み上げたもので、令和6年度分については公表後に二度の訂正が出ている。被害額は確定値のように見えて、あとから動く余地がある。受け入れ先の体感と公表値がずれるのは、集計の単位が市町村や品目でまとめられる過程で、小さな被害が記録に残りにくいからでもある。
捕獲された鳥獣のうち、食べられた分
捕獲と利用は別の工程である。令和7年度に野生鳥獣の食肉処理を行った施設は全国で885か所あり、ここで解体された頭数は20万3,574頭・羽だった。前年度より6.7パーセント多い。内訳はシカが14万8,048頭で16.1パーセント増、イノシシが3万6,809頭で8.5パーセント減、クマが1,172頭で158.7パーセント増である。鳥類は1万3,683羽だった。
この解体から生まれたジビエ利用量が3,155トンで、前年度比17.8パーセントの増加になる。うち食肉として販売されたのは2,166トンで、シカが1,662トン、イノシシが459トンを占めた。残りはペットフード向けが853トン、自家消費向けが123トンという配分である。食肉以外の用途が全体の27パーセントを占める点は、現場の採算を考えるうえで外せない。
平成28年度の利用量は1,283トンだった。9年で2.4倍になっているが、同じ期間に解体頭数も8万9,230頭から2.3倍に増えている。利用量の伸びは、1頭あたりの歩留まりが上がった結果ではなく、処理に回る個体が増えた結果だと読むのが自然だ。
3,155トンは885施設に均等には乗っていない
解体頭数の規模で施設を分けると、様相が変わる。年間50頭以下しか扱わない施設が410か所あり、施設数では全体の46パーセントを占めるのに、そこで生まれる利用量は135トンにとどまる。反対に1,001頭以上を扱う施設は46か所しかないが、合わせて1,453トンを生み出している。全体の46パーセントがこの46施設から出ていることになる。
| 年間の解体頭・羽数 | 施設数 | ジビエ利用量 |
|---|---|---|
| 50頭以下 | 410 | 135t |
| 51〜100頭 | 126 | 128t |
| 101〜300頭 | 190 | 444t |
| 301〜500頭 | 59 | 306t |
| 501〜1,000頭 | 54 | 686t |
| 1,001〜1,500頭 | 25 | 516t |
| 1,501頭以上 | 21 | 937t |
| 合計 | 885 | 3,155t |
1施設あたりに直すと3.6トンで、牛や豚の処理場とは桁が違う。小さな施設が大半を占める構造は、持ち込める個体数が猟期と人手に縛られるためで、通年で安定供給を求める飲食店の要望とは噛み合いにくい。都道府県別では北海道が119施設で1,268トンと、全国の4割を1道で担っている。
64億円という売上をどう分けているか
食肉処理業者が野生鳥獣を処理して得た金額は64億3,700万円で、前年度より18.8パーセント増えた。食肉の販売が54億2,200万円、うちシカが34億9,400万円、イノシシが16億3,400万円である。イノシシは0.5パーセントの減少で、シカの26.7パーセント増とは方向が逆になった。食肉以外では、ペットフードが9億4,500万円を稼いでいる。
1施設あたりの売上は約727万円になる。ここから解体設備の償却や冷凍庫の電気代、保健所の許可に必要な構造の維持費が出ていく。処理だけを請け負って依頼者へ返す形も13トン分あり、売上を立てずに手数料で回している施設が残っていることがわかる。
この規模感は、ジビエを扱う事業がそれ単体で成り立ちにくいことを意味する。地域おこし協力隊の任期後の進路を見ると、猪や鹿の食肉加工・販売を含む6次産業で起業した隊員が100名いる。加工と販売と体験提供を束ねて初めて食べていける、という組み立てがここに現れている。直売所という入口で売り場の規模を押さえておくと、どこで値を取るのかが見えやすくなる。
体験として関わるときに見ておくもの
受け入れ側の衛生管理は、国産ジビエ認証制度で外から確かめられる。平成30年5月18日に農林水産省が定めた仕組みで、衛生管理基準とカットチャートによる流通規格、ラベル表示によるトレーサビリティを満たした施設を、登録認証機関が審査して認証する。令和8年3月4日に福岡県うきは市の施設が第043号になり、一覧に並ぶのは33施設である。
認証番号が43まで進んでいるのに一覧が33件なのは、途中の番号が抜けているからだ。認証は取り続けるものであり、更新されなければ一覧から外れる。見学や解体の体験を探すときは、番号の大きさではなく現在の一覧に載っているかを確かめたい。認証機関は全国を対象とする団体と、近畿以西を対象とする団体の2者が登録されている。
農泊や農業体験のプログラムにジビエが組み込まれる場合、参加者が触れるのは食卓に出る前の工程になる。捕獲の現場に同行する形、処理施設を見学する形、調理だけを体験する形で、必要な説明の深さは変わる。地域との関わり方を整理したい人はFLASPOの情報も合わせて見ておくと、滞在の目的を言葉にしやすい。農業体験は移住の判断材料になるかでは、日帰りから研修までの範囲を整理している。
よくある質問
ジビエ利用量はどこまでが対象ですか
食品衛生法に基づく食肉処理業の許可を持ち、野生鳥獣の食肉処理を行っている施設で処理された分が対象になる。狩猟者が自分で解体して自家消費した分は、この統計には入らない。公表値は概数値で、詳細な数値は令和8年12月に掲載される予定とされている。
クマの数字が急に増えているのはなぜですか
令和7年度の解体頭数は1,172頭で、前年度の453頭から2.6倍になった。食肉の卸売・小売販売数量も18トンで157.1パーセント増えている。出没の増加が捕獲数に反映され、処理施設へ持ち込まれる個体が増えたためだが、販売金額は1億4,000万円で全体の2パーセント程度にとどまる。
農業体験の受け入れ先を探すとき、ジビエの有無は目安になりますか
鳥獣害対策まで含めて見せられる受け入れ先は、作付けと周辺環境を説明する準備ができていることが多い。ただし処理施設の有無は地域差が大きく、885施設のうち北海道に119施設が集まる一方、報告が1施設だけの県もある。近くに施設がないことが取り組みの弱さを示すわけではない。
数字の出典はどこを見ればよいですか
利用量と金額は農林水産省統計部の野生鳥獣資源利用実態調査、被害額は同省農村振興局が都道府県報告をまとめた資料、認証施設は国産ジビエ認証制度のページに載っている。年度と公表時点が資料ごとに違うため、引用するときは必ず年度を添えたい。
出典
- 農林水産省「令和7年度野生鳥獣資源利用実態調査結果(食肉処理業者)」(令和8年9月30日公表)
- 農林水産省「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について」
- 農林水産省「国産ジビエ認証制度」
- 総務省「令和6年度 地域おこし協力隊の隊員数等について」
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