大学院のメリットは何か|賃金51.7万円と修了者の進路から考える

大学院のメリットは何か|賃金51.7万円と修了者の進路から考える

学位のほかに、研究指導と審査がついてくる

進学して何が手に入るのかを、求人票の肩書きから考えると見誤る。制度の側から読むと、修士課程で受け取るものは三つある。大学院設置基準第十六条は修了の要件を、大学院に二年以上在学し、三十単位以上を修得し、必要な研究指導を受けた上で、修士論文または特定の課題についての研究の成果の審査および試験に合格することと定めている。単位、研究指導、審査がそれぞれ別の要件として並んでいる点が学部と違う。学部の卒業は単位の積み上げが中心で、論文の審査と試験を全員が通るわけではない。

研究指導の担い手も決められている。同基準第十三条は、研究指導は所定の資格を満たす教員が行うものとし、教育上有益と認めるときは、学生が他の大学院や研究所などで必要な研究指導を受けることを認められるとしている。ただし修士課程の学生については、外で受ける期間は一年を超えないという上限が付く。つまり指導教員が一人つくだけでなく、必要なら外部の研究環境を一年まで使える枠が制度として用意されている。学校教育法第百四条第三項により、課程を修了した者には修士または博士の学位が授与される。肩書きではなく、この審査を通った記録が残ることが進学の実質である。

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賃金の差は、入った年ではなく後から開く

賃金の話は、初任給だけを見ると小さく見える。厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査で学歴別の所定内給与額を見ると、男女計の年齢計は大学院517.4千円、大学396.3千円で、差は121.1千円である。ところが二十代前半に絞ると298.8千円と263.9千円で、差は34.9千円しかない。差が大きくなるのは四十代以降で、四十五歳から四十九歳では617.8千円と458.4千円の159.4千円差になる。進学の効果を初任給で測ると、ほぼ何も見えないということになる。

年齢階級 大学卒 大学院卒 差
20〜24歳 263.9 298.8 34.9
25〜29歳 296.4 335.0 38.6
30〜34歳 340.3 406.1 65.8
35〜39歳 382.2 466.6 84.4
45〜49歳 458.4 617.8 159.4
55〜59歳 529.1 676.2 147.1
年齢計 396.3 517.4 121.1
令和7年賃金構造基本統計調査(男女計、所定内給与額、単位は千円)

この数字の読み方には留保が必要である。所定内給与額は賞与や残業代を含まない月額で、同じ調査の平均年齢は大学院卒42.5歳、大学卒41.8歳、勤続年数はどちらも12.2年とほぼ揃っているが、就いている職種の構成までは揃っていない。医師や研究職のように学位が前提になる仕事が大学院卒の側に集まれば、その分だけ平均は持ち上がる。進学そのものが生む差と、進学した人が就く仕事が生む差は、この表では切り分けられない。初任給の水準を別に確かめたい場合は新卒就活の年収で扱った初任給の分布と並べてみるとよい。

学校の顔ぶれが、学部とは入れ替わる

志望先を考えるとき、学部受験の地図はそのまま使えない。文部科学省の令和7年度学校基本調査によると、大学院の在学者277,132人の内訳は国立158,642人、公立18,410人、私立100,080人で、国立が57.2%を占める。学部の在学者2,645,837人では私立が2,060,457人で77.9%、国立は435,622人の16.5%にとどまる。学部では私立が八割を占める構造が、大学院では国立が六割弱という形に入れ替わる。

区分 国立 公立 私立 計
大学院の在学者 158,642 18,410 100,080 277,132
学部の在学者 435,622 149,758 2,060,457 2,645,837
令和7年度学校基本調査(単位は人)

学校数の側も偏っている。同調査では大学院を置く大学が669校あり、国立85校、公立92校、私立492校という構成になっている。国立大学は85校すべてが大学院を置いていることになる。修士課程を置くのは637校で、こちらは国立84校、公立90校、私立463校である。在学者数も大学院全体で前年度より5,493人増えて過去最多になっており、修士課程は174,961人、博士課程は79,560人、専門職学位課程は22,611人と、いずれも前年度を上回った。出身学部の系列にこだわらず国公立を含めて探せる余地が、学部受験よりは広いということである。

二年分の費用には、制度上の上限がある

費用の見積もりは、国立であれば法令から出発できる。国立大学等の授業料その他の費用に関する省令第二条は、大学院の研究科について授業料の年額535,800円、入学料282,000円、検定料30,000円を標準額として示している。修士課程の二年分で計算すると、授業料1,071,600円に入学料と検定料を足して1,383,600円になる。学部の標準額と比べると授業料と入学料は同額で、検定料だけが17,000円から30,000円に上がる。法科大学院は授業料の標準額が804,000円で、課程によって水準が変わる点にも注意がいる。

ただし標準額は上限ではない。同省令第十条は、特別の事情があるときは標準額に百分の百二十を乗じた額を超えない範囲で各法人が定められるとしている。授業料なら642,960円までは制度上あり得る幅である。負担を下げる側の制度もある。日本学生支援機構の特に優れた業績による返還免除は、大学院で第一種奨学金を受けた学生のうち、貸与期間中に特に優れた業績を挙げたと認定された人の返還を全額または半額免除する仕組みで、課程の修了は要件とされていない。大学から推薦できる枠には限りがあるため申請者全員が免除されるわけではないが、学部の貸与では用意されていない選択肢である。借入の設計そのものは奨学金のメリットと注意点で整理した受給率と返還額の見通しから先に確かめておきたい。

働きながら、あるいは二年より短く通える

仕事を辞めずに通えるかという問いにも、制度の側の答えがある。大学院設置基準第十四条は、教育上特別の必要があると認められる場合に、夜間その他特定の時間または時期に授業や研究指導を行う方法で教育できるとしている。同基準第二条の二は、専ら夜間において教育を行う修士課程や博士課程を置くことも認めている。授業料についても、省令第二条第二項が計画的な履修を認められた学生の年額を、総額の均衡を考慮して法人が定めると書いており、在学年数を延ばした場合に年あたりの負担が膨らまない形が用意されている。

期間を縮める方向にも例外がある。設置基準第三条第三項は、主として実務の経験を有する者に対して教育を行う場合で教育上の支障が生じないときに、標準修業年限を一年以上二年未満とできるとしている。第十六条第一項のただし書は、優れた業績を上げた者については在学期間が一年以上で足りるとする。入口の側では、学校教育法第百二条第三項が、大学に定める年数以上在学して所定の単位を優秀な成績で修得したと認められる者を大学院に入学させられると定めており、学部を卒業しない経路も残されている。学修時間の見積もりは大学の時間割と学修時間で確かめた一単位あたりの時間から逆算すると現実的になる。

よくある質問

進学すれば就職で有利になるのかという問いには、慎重に答えるしかない。令和7年度学校基本調査で令和7年3月の修士課程修了者77,633人を見ると、就職者は60,674人で修了者に占める割合は78.2%である。同じ時期の大学学部卒業者584,304人では就職者449,638人の77.0%だった。差は1.2ポイントしかない。一方で、進学も就職もしていないことが明らかな人の割合は修士課程修了者が10.1%、学部卒業者が7.2%で、こちらは修士の側が高い。学位が選考の通過を保証する関係にはなっていない。

文系でも賃金の差は出るのかという問いには、この調査からは答えられない。学歴別賃金の表は分野別の内訳を持っておらず、517.4千円は大学院卒全体の平均である。社会人が入れるのかという点については、先に挙げた設置基準第十四条と第三条第三項が制度上の受け皿になっている。学費をさらに下げたい場合は、授業料と入学料の免除が各法人の規則で定められているため、志望先の学生支援の窓口で基準を確かめるのが早い。地域に出て働きながら学び直す道も含めて進路を広く見ておきたいなら、若者と地域の事例を集めたFLASPOのような入口も当たっておくとよい。


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