二地域居住の収入を組み立てる|副業者比率4.8%から安定を設計する

月に一週間を地方の拠点で過ごすと決めたとき、最初に行き詰まるのは物件探しではなく給与明細のほうである。勤め先に在宅勤務の制度があるかどうか、副業の届け出が通るかどうか、滞在先で短く働けば雇用保険の扱いが変わるのか。金額の多寡よりも、どこからどんな形で入ってくるかが先に二拠点の可否を決めてしまう。収入の設計を後回しにしたまま住まいの話を進めると、半年ほどで「行く理由があるのに行けない」状態に落ち着く。

収入の額より先に決まるのは入り方

同じ年収600万円でも、全額が一社からの給与である人と、給与400万円に業務委託200万円が乗っている人では、二拠点の自由度がまったく違う。前者は勤務地の指定と出社頻度に縛られ、後者は作業場所を自分で決めやすい。国土交通省が自治体向けにまとめた「二地域居住等施策推進ブック」も、コワーキングやサテライトオフィスの整備を「場所によらず収入を確保する新しい働き方」を可能にする手立てとして位置づけている。場所の自由は設備ではなく契約の形から生まれる、という整理である。

だから検討の順番は、滞在日数を決める前に契約を点検することになる。就業規則の勤務地条項、テレワークの上限日数、副業の許可基準、通勤手当が実費精算か定額かという四点を確認しておくと、月に何日を別の拠点に割けるかが数字で出る。ここが曖昧なまま賃貸契約を結んだ人が、結局は週末だけの往復に落ち着く例は珍しくない。

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副業者比率4.8%が示す、本業の外側の広さ

本業以外の稼ぎを持つ人は、統計上どのくらいいるのか。総務省の令和4年就業構造基本調査によれば、非農林業従事者のうち副業がある者は304万9千人で、5年前より60万人増えた。非農林業従事者に占める割合、すなわち副業者比率は4.8%で、2017年の3.9%から0.9ポイント上がっている。20人に1人という水準は、まだ例外的と言ってよい。

注目したいのは雇用形態による差である。正規の職員・従業員の副業者比率は2.5%にとどまり、非正規の職員・従業員は7.2%で約3倍の開きがある。安定した雇用に就いている人のほうが、本業の外へ出る余地が小さいという逆転が起きている。二拠点を考える正社員が「副業で滞在費を埋める」という前提を置くと、この2.5%の側に立つことになる。

区分 2017年 2022年
副業者比率(総数) 3.9% 4.8%
正規の職員・従業員 1.9% 2.5%
非正規の職員・従業員 5.9% 7.2%
副業がある者の数 245万1千人 304万9千人
総務省「令和4年就業構造基本調査 結果の概要」より。対象は非農林業従事者。

都道府県別では京都府が7.5%で最も高く、東京都6.5%、和歌山県5.6%が続く。大都市と地方部のどちらかに偏る傾向ではなく、産業構成や働き方の慣行が効いていると読める。

地域の側に用意されつつある通年の雇用

滞在先で働くという選択肢は、以前より制度に支えられている。人口が急減した地域では、事業協同組合がマルチワーカーを無期雇用し、季節ごとに人手が必要な複数の事業者へ派遣する「特定地域づくり事業協同組合制度」が動いている。都道府県知事の認定を受けた組合が受け皿になるため、繁忙期だけの短期雇用を継ぎ足すのではなく、一年を通した収入として受け取れるのが特徴である。

山形県小国町の「おぐにマルチワーク事業協同組合」は令和3年11月に設立され、農業、温泉宿泊施設、ガソリンスタンド、酒造業など18の事業者が参画している。これまでに9人を雇用し、そのうち8人は町外からの移住者だった。長野県富士見町の「富士見森のオフィス」のように、サテライトオフィス7社とコワーキングスペース会員1,500人超を抱え、地域外からの利用が多い拠点も育っている。どちらも、仕事を持ち込む人と地域で仕事を得る人の両方を想定した構えになっている。

収入の振れをどこで吸収するか

二拠点の家計が崩れるのは、収入が減ったときではなく、収入が減る月と支出が増える月が重なったときである。冬タイヤへの交換、暖房用の灯油、年に一度の火災保険、帰省の重なる長期休暇。こうした支出は往々にして同じ季節に固まる。一方、業務委託の入金は検収から翌月末や翌々月払いになることが多く、受注が途切れた月の影響は二、三か月遅れて現れる。

対策は三つに絞れる。第一に、入金サイクルの異なる収入を二つ以上持つこと。給与のように月末が確定している収入が一本あると、委託の遅れを吸収できる。第二に、滞在に紐づく固定費を可変費に寄せること。年間契約の駐車場より、滞在月だけ借りられる形のほうが下振れに強い。第三に、生活費の三か月分を「移動と滞在のための枠」として本体の貯蓄と分けて置くこと。金額の目標より、どの口座から出すかを決めておくほうが実務では効く。

滞在そのものを目的化しない視点も要る。二地域居住と仕事の関係を整理した記事でも触れたように、収入の確保は実践前の最大の懸念として繰り返し挙がってきた項目である。懸念を消し切るのではなく、下振れしても往復が止まらない水準まで設計を落としておけばよい。

支出の側を外から下げてくれる取り組みも出てきている。JR西日本は令和3年4月から兵庫県丹波篠山市、京都府南丹市、滋賀県高島市の沿線3市と「おためし暮らし」を始め、令和6年度は滋賀県甲賀市を加えた4市で展開している。住まいは古民家から市営住宅の改装まで幅広く、賃料は1か月2万円から6万円程度。都市部エリアへの通勤利用分の普通運賃を4割還元する仕組みは、令和5年度から特急料金にも適用が広がった。収入を増やす代わりに移動と住居の実費を削る、という解き方である。

組み立ての順番と、確かめておくこと

順番は、本業の可動域を測る、次に不足分の性格を見極める、最後に地域側の受け皿を当たる、の三段である。不足が月3万円なら副業を増やすより固定費の組み替えで届くことが多く、月10万円を超えるなら働き方そのものを変える話になる。前者と後者を同じ「副業」という言葉で括ると、打ち手を間違える。

確認しておきたいのは、社会保険と税の扱いである。複数の勤め先から給与を受ける場合は年末調整が一か所でしか行われず、確定申告が必要になる。雇用保険は原則として主たる賃金を受ける一社で加入する。業務委託が増えれば、費用を実額で積み上げた記事で扱った移動費や滞在費のうち、どこまでが必要経費になるかという判断も出てくる。地方での暮らしの選択肢を具体的に比べたい段階では、FLASPOのような住まいと地域の情報源を併せて見ておくと、収入の設計と滞在先の条件を同じ机の上で検討しやすい。

よくある質問

副業を始めれば二拠点の費用は埋まるのか。埋まる場合もあるが、統計の示す実像は慎重である。正社員の副業者比率は2.5%にとどまり、制度上は認められていても実際に稼ぎを得ている人はまだ少ない。まずは本業の在宅勤務の上限を広げるほうが、同じ労力で効果が大きい。

滞在先で短期のアルバイトをするのは現実的か。農繁期や観光の繁忙期には需要があるが、単発の短期就労は交通費を差し引くと手元に残りにくい。通年の収入として受け取りたいなら、特定地域づくり事業協同組合のように無期雇用を前提とした仕組みを探すほうが筋が通る。

勤め先に二拠点であることを伝える必要はあるか。住民票を移さない範囲であれば届け出義務が生じない企業もあるが、通勤手当の算定根拠や労災の適用場所に関わるため、黙っておく利点は小さい。テレワークの申請と合わせて、滞在先の住所と頻度を共有しておくのが安全である。

収入が落ちたら、どの時点で退くべきか。移動費と滞在費の合計が、手取りの一割を超えて三か月続いたときを一つの目安にしたい。頻度を半分にする、滞在を連続した長期に寄せるといった調整で、関係を切らずに負荷だけ下げられる。

出典


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