二拠点の暮らしに関心はあるのに動かない人は多い。住まいが見つからないからだと説明されがちだが、当事者に聞いた結果はそこを指していない。改善されれば始めやすくなる点を並べた表の一番上にあるのは、物件でも制度でもなく収入である。仕事の側から見ると、何を整えれば足りるのかが具体的になる。
止まっている理由の一位は、物件ではなく収入だった
国土交通省の二地域居住に関する資料には、二地域居住等を実践していない人に、どのような点が改善されれば行いやすくなるかを聞いた結果が載っている。最も多い回答は十分な収入の確保の53.0パーセントで、二番目の移動や滞在に伴う金銭的負担の軽減27.5パーセントに倍近い差をつけている。
| 改善されれば行いやすくなる点 | 割合 |
|---|---|
| 十分な収入の確保 | 53.0% |
| 移動や滞在に伴う金銭的負担の軽減 | 27.5% |
| 仕事やプライベートでの時間的な余裕の確保 | 23.1% |
| 滞在地域での収入の確保 | 21.6% |
| 家族や同行者の理解、価値観の合う仲間の存在 | 16.8% |
| 居住先や空き家物件情報の提供 | 15.3% |
| 住宅のリフォーム費用の支援又は補助 | 14.3% |
| 公共交通機関利用に関する支援又は補助 | 13.3% |
| 自分の能力・知識・経験などを活かせる機会の存在 | 11.5% |
| 地域での仕事に関する支援又は補助 | 9.3% |
上の四つのうち三つが、収入か金銭の負担か時間の余裕である。物件情報の提供は15.3パーセントで六番目、リフォーム費用の支援は14.3パーセントで七番目にとどまる。空き家の情報が足りないから始まらないのではなく、家計と時間が足りないから始まらない、という順序がここに出ている。
この順序は準備の順番をそのまま示している。候補地を探す前に、収入が同じ水準で続くのかを確かめる作業が先に来る。費用の側だけを積み上げても判断が決まらないのは、二地域居住の費用で見た支出の表に、毎月いくら入るかの行が付いていないからである。
「十分な収入」と「滞在地域での収入」は別の行に立っている
表をもう一度見ると、収入に関する選択肢が二つある。十分な収入の確保が53.0パーセント、滞在地域での収入の確保が21.6パーセントで、三十ポイント以上離れている。前者は今の仕事の収入が二拠点の費用を吸収できるかという話で、後者は滞在先で新しく稼ぐ話だ。求められている対策はまったく違う。
53.0パーセントのほうに効くのは、今の収入を落とさずに場所を動かせるかである。勤務先との勤務形態の取り決めが中心になり、転職や起業は出てこない。21.6パーセントのほうに効くのは、滞在先の仕事の口である。こちらは自分の能力を活かせる機会の存在11.5パーセント、地域での仕事に関する支援9.3パーセントと同じ系列に並ぶ。
数字の差が示しているのは、多数派は滞在先で稼ぐことを求めていないという事実である。滞在先での就労や起業を前提に組むと、本来は不要な難易度を自分で上げてしまう。副業や地域の稼ぎを柱として足す設計は二地域居住の仕事の組み方に整理があるが、順番としては今の収入を維持する検討のあとに置くほうが崩れにくい。
やめる理由も、金銭と体力と時間に寄っている
始める前の不足と、始めたあとの不満は同じ方向を向いている。同じ調査では実施者の継続意向を聞いており、続ける意向のある人は85パーセント程度、ない人は15パーセント程度だった。満足している人は約7割で、不満は1割にとどまる。
それでも続けたくないと答えた人の理由は、金銭的な負担が大きい37.2パーセント、体力的な負担が大きい28.1パーセント、時間的な負担が大きい23.9パーセントが大半を占めている。デメリットを聞いた質問でも、移動が負担になったが29.3パーセント、生活拠点にかかる費用が負担になったが18.1パーセントで上位に来る。
見落としやすいのは継続する理由のほうである。楽しい、リフレッシュできるが47.2パーセントで一位だが、家庭や仕事の都合で続けざるを得ないという消極的な回答も21.8パーセントあった。単身赴任や介護のように、選んだのではなく続けている形が五人に一人の割合で混ざっている。負担の数字を読むときは、この層が含まれていることを踏まえたほうが実際に近い。
時間の不足は、移動時間と中抜けの扱いを決めていないと膨らむ
時間的な余裕の確保が23.1パーセントで三番目に来るのは、移動そのものが時間を食うからだけではない。移動している時間と、日中に業務から離れる時間を、勤務先がどう数えるかが決まっていないと、足りない分が働く側の持ち出しになる。
厚生労働省のテレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドラインは、業務から離れる中抜け時間について、使用者は把握してもよく、始業と終業の時刻だけを把握することにしてもよいとしている。把握する場合は休憩時間として終業時刻を繰り下げるか、時間単位の年次有給休暇として扱う方法が挙げられ、把握しない場合は始業から終業までを休憩を除いて労働時間として扱う方法が示されている。
同じガイドラインは、こうした取扱いをあらかじめ就業規則等に定めておくことが重要だと書いている。午前は滞在先で働き、午後からオフィスに出勤するような日の移動時間についても考え方が示されている。二拠点のように移動と業務が混ざる働き方では、ここを口約束で済ませると、月末の勤怠の処理で毎回もめる。
費用をどちらが持つかは、先に書き出しておく項目である
金銭的な負担の軽減が27.5パーセントで二番目に挙がる以上、支出のうち勤務先が持つ部分を確かめる価値がある。ガイドラインは、テレワークを制度として導入するときにあらかじめ労使で話し合っておく項目を列挙しており、その中に費用負担が入っている。実施場所、テレワーク可能日、申請の手続、労働時間管理の方法や中抜け時間の取扱い、緊急時の連絡方法も同じ列に並んでいる。
在宅で働く場合、本人が契約した回線を使えば通話料やインターネット利用料が増え、電気料金も上がる。ガイドラインはこれらを勤務の実態を踏まえて合理的かつ客観的に計算する方法に触れ、源泉所得税の取扱いについては国税庁の在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQを参照するよう案内している。立て替えたまま精算の根拠がない状態を避けられるかどうかは、この取り決めの有無で決まる。
滞在先の家賃や交通費は原則として個人の負担になるが、公共交通機関や自動車の利用に対する支援を求める声も13.3パーセントと9.9パーセントある。自治体の補助の有無は候補地選びの材料になるので、支援制度の形は二地域居住の支援制度のほうで押さえておくとよい。
よくある質問
収入が下がらなければ始められるのか。非実施者の半数が挙げたのは収入の確保だが、二番目と三番目には金銭的な負担と時間の余裕が並んでいる。収入が同じでも、交通費と二つ目の住居費が増える分だけ手元は薄くなる。維持できる収入と、増える支出の両方を同じ表に置いて初めて判断できる。
滞在先で仕事を見つける必要はあるのか。滞在地域での収入の確保を挙げた人は21.6パーセントで、十分な収入の確保の53.0パーセントとは別の層である。今の勤務先に在籍したまま場所を動かす形が多数派なので、滞在先での就労は選択肢のひとつにとどまる。
勤務先にはどの順番で相談すればよいか。生活の希望より先に、どの勤務形態で何日くらい、どこから働くかを示すほうが話が進む。そのうえで中抜け時間と移動時間の扱い、費用の負担区分を就業規則の条文と突き合わせる。規定が無い会社では、ガイドラインの項目一覧がそのまま相談の議題になる。
続けられるかどうかを先に見極める方法はあるか。やめた人の理由が金銭と体力と時間に集中している以上、その三つを短期間で試すのが早い。繁忙期をまたぐ月に一度だけ実際に往復してみると、交通費と移動時間と疲労が同時に測れる。地域ごとの条件を見比べる段取りはFLASPOのような地域情報をまとめた場も手がかりになる。
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