65.7%から57.1%へ、5年で落ちた8.6ポイント
農業体験の案内と食育の教材は、現場ではたいてい別々の棚に置かれている。それが同じ政策の枠に入っているとわかるのは、食育推進基本計画の目標一覧を見たときだ。農林水産省が令和8年6月24日の第9回食育推進会議で決定した第5次食育推進基本計画では、「農林漁業体験を経験した国民(世帯)の割合」の現状値が57.1%、目標値が60%以上と置かれている(農林水産省「第5次食育推進基本計画の決定について」)。
注目すべきはこの数字の動きである。ひとつ前の第4次計画では、同じ項目の現状値が令和2年度の65.7%で、令和7年度までに70%以上へ引き上げることが目標だった。結果は上向くどころか8.6ポイント下がり、第5次計画は目標値そのものを60%以上へ引き下げている。達成に近づくどころか、到達点を手前に置き直したことになる。
計画期間は令和8年度からおおむね5年間。目標は取組主体別に、国民一人一人が自ら実践する個人目標と、地域等が主体となって取り組む地域目標に分けられた。農林漁業体験は個人目標の側に置かれている。体験の機会をつくるのは地域だが、経験したかどうかは一人一人の行動として数えるという切り分けである。
食育全体が落ち込んでいるわけではない点も押さえておきたい。食育に関心を持っている国民の割合は現状値79.1%で目標90%以上、食品ロス問題を認知して削減に取り組む消費者の割合は77.2%で目標80%以上と、高い水準にある項目は残っている。下がったのは食と生産現場をつなぐ部分に限られている。
計画が「農林漁業教育」を重点に置いた理由
第5次計画は重点事項を三つ立てている。学校等での食や農に関する学びの充実、健全な食生活の実現に向けた「大人の食育」の推進、国民の食卓と生産現場の距離を縮める取組の拡大である。このうち一つ目と三つ目が、農業体験と食育が接する場所にあたる。
一つ目の根拠として計画が挙げたのは、朝食を欠食する子供の割合が増加傾向にあることと、生産現場の実態を知らない子供が増えているという二点だった。対応策は、栄養教諭等による食生活の重要性に関する指導と、地域等との連携・協働のもとで進める「農林漁業教育」である。食べ方を教えるだけでなく、つくられ方を見せる側まで含めて一つの教育として扱う構えになった。
三つ目の根拠はもっと直接的で、国民の食卓と生産現場の距離が遠くなるなかで、まさに「農林漁業体験を経験した国民(世帯)の割合」が減っていることが理由として明記されている。打ち手として並ぶのは、農林漁業体験の機会の提供と、生産者と消費者が直接つながる取組の強化である。
学校側に求められる具体策も書き込まれた。学校における農林漁業体験等の効果や課題等の整理と周知、「農林漁業教育」に関する先進事例の創出、そして地域の人材の活用等の促進である。効果と課題を整理するという文言が入ったのは、体験を実施したという事実だけでは成果として扱わない、という線引きだと読める。
世帯57.1%と本人45.5%のあいだにある差
同じ目標項目には二つの数字が並んでいる。世帯の57.1%と、本人の45.5%である。世帯の値は本人または家族の誰かが体験したかを数え、本人の値は回答者自身が体験したかを数える。差の11.6ポイントは、家族の誰かは行ったが自分は行っていない層の厚みを示している。
この差は小学生向けの田植え体験のような形で説明がつく。子どもが学校で体験すれば世帯の値は上がるが、保護者自身の値は動かない。第5次計画が「大人の食育」を独立した重点事項に立てたのは、この取り残された側に手を伸ばす必要があったからだ。実際、朝食を欠食する若い世代の割合は現状値28.2%で、子供の6.4%より大きく開いている。
| 目標項目 | 第4次計画 | 第5次計画 |
|---|---|---|
| 農林漁業体験を経験した国民(世帯)の割合 | 65.7% → 70%以上 | 57.1% → 60%以上 |
| 農林漁業体験を経験した国民(本人)の割合 | 目標項目になし | 45.5% → 50%以上 |
| 産地や生産者を意識して食品を選ぶ国民の割合 | 73.5% → 80%以上 | 66.0% → 70%以上 |
| 食育に関心を持っている国民の割合 | 83.2% → 90%以上 | 79.1% → 90%以上 |
| 推進計画を作成・実施している市町村の割合 | 87.5% → 100% | 92.9% → 100% |
表を縦に見ると、生産現場と結びつく項目だけが揃って下がっているとわかる。産地や生産者を意識して農林水産物・食品を選ぶ国民の割合も73.5%から66.0%へ落ちた。一方で市町村の推進計画は87.5%から92.9%へ伸びている。計画をつくる側の整備は進み、人の行動が追いついていないという構図である。
法律の条文にも体験活動が書き込まれた
計画の背景には法改正がある。食育基本法の一部を改正する法律が令和8年5月27日に公布・施行され、基本的施策のうち生産者と消費者との交流の促進等の強化として、消費者の役割と農林漁業体験活動が条文に追加された。体験が計画上の指標にとどまらず、法律が位置づける施策の対象になったという変化である。
学校等における食育の強化では、栄養教諭を例示したうえで、農林漁業教育の充実と、教育活動を支援する人材の活用が加えられた。体験の受け入れを学校だけで抱えるのではなく、外部の人を当て込んでよいという作りになっている。前文の改正では食料安全保障の確保が追加され、食育の目的に食料の安定供給という視点が入った。
運用面では、食育の目標の達成状況の調査公表と、施策評価を次の基本計画へ反映させるPDCAサイクルが規定に加わった。57.1%という数字が下がったまま放置されにくくなる仕組みで、達成状況の見える化は地方公共団体の取組にも及ぶ。計画をつくったかどうかではなく、何が動いたかを問われる段階に入りつつある。
体験を就労や移住の入口として見るなら、受け入れ側の制度が整っていく流れは追い風になる。農業体験が就農につながるかを現地就労型の数字から検証した記事や、農業体験を移住の判断材料として扱えるかを整理した記事と合わせて読むと、体験の先にある選択肢の幅が見えてくる。
大学生に向けて用意された入口
第5次計画のなかで、学生にとって見落とせない一行がある。地域における食育の推進の施策として、大学生等を中心に食と健康、食の生産現場に関する多様な学びの機会を提供することが挙げられているのだ。小中学校の体験学習とも、社会人向けの消費行動の啓発とも別に、大学生という層が名前で呼ばれている。
改正法の側でも、民間企業を巻き込んだ大人の食育運動の促進として、職場や大学等における食育の推進と、個人の取組の成果の見える化の支援が追加された。大学が食育の場として想定されたということは、ゼミやサークルの活動が制度の対象に乗りうるという意味になる。
動くときの順番としては、まず自分の経験が世帯の数字なのか本人の数字なのかを分けて考えると設計しやすい。家族に連れられて行った田植えは本人の経験として数えられるが、そこで止まれば45.5%の内側に入っただけで終わる。継続する関わりに変えるには、受け入れ側がどの時期にどんな作業の手を必要としているかを先に確かめるほうが早い。地域との接点を探す段階ならFLASPOのような入口から受け入れ条件を見ておくと、体験の次に進む経路が具体的になる。
活動を自分の実績として語る場面でも、整理の順序は同じだ。農業体験を受け入れ側の事情から組み立て直す記事が扱っているように、何日いたか、どの作業を任されたか、誰の負担を代わったかという 三つの軸で書き分けると、体験が経験として伝わる。
よくある質問
農業体験はどこからが食育として扱われますか。計画が指標にしているのは「農林漁業体験を経験したか」という事実のみで、体験の内容や時間に条件は置かれていません。田植えや収穫のような農作業だけでなく、林業や漁業の体験も同じ項目に含まれます。ただし第5次計画は学校における体験の効果や課題の整理を施策に掲げているため、現場では体験の質を問う運用が進むと見られます。
目標値が70%以上から60%以上へ下げられたのはなぜですか。現状値が65.7%から57.1%へ落ちたため、同じ70%以上を据え置くと8.6ポイントの下落に加えて追加の積み上げが必要になるからです。計画は到達点を下げる代わりに、国民の食卓と生産現場の距離を縮める取組の拡大を重点事項として独立させ、施策の密度を上げる形を選んでいます。
世帯の値と本人の値はどちらを見るべきですか。地域の受け入れ規模を見積もるなら世帯、個人の行動変容を測るなら本人が目安になります。第5次計画は両方を目標として並べた最初の計画で、世帯57.1%に対し本人は45.5%。11.6ポイントの開きは、家族の誰かだけが体験している状態をそのまま映しています。
大学で食育に関わる活動をしたい場合、何から確かめればよいですか。改正法が職場や大学等における食育の推進を基本的施策に加えたこと、計画が大学生等への学びの機会の提供を施策に掲げたことの二点が根拠になります。所属大学の地域連携窓口や、都道府県・市町村の食育推進計画に大学との連携が書かれているかを見ると、相談先が絞れます。推進計画を作成・実施している市町村の割合は92.9%まで来ているため、計画自体はほぼどの自治体にもあります。
アイデアコンテストプラットフォーム「FLASPO」

アイデア1つで、地域や企業とつながれる。
FLASPOは、全国の自治体・企業が開催する若者向けアイデアコンテストのプラットフォームです。
地域や企業が抱える課題に対して、あなたのアイデアで解決策を提案できます。
賞金やユニークな地域体験が獲得できるコンテストも多数。誰でも参加無料・オンライン完結で挑戦できます。
