開設はしてある。決まっていないのはその先
観光協会から「インスタ、手伝ってくれない」と声がかかる。開いてみると、アカウントはすでにある。去年の夏祭りの写真が最後の投稿で、フォロワーは400人ほど。ログインのパスワードは前任者が紙に書いて置いていった、と言われる。地域の発信を学生が引き受けるとき、最初に渡されるのはたいていこういう状態のアカウントだ。
開設そのものは、もう珍しいことではない。日本広報協会が令和8年度の事業計画で前年の広報広聴活動調査にふれており、全都道府県と市区町村の99.7%が広報紙を作っているほか、SNSメディアの運用も都道府県で44団体、市区町村で80.9%が行っていると書かれている。つまり市区町村の5つに4つはすでに何かしらのアカウントを持っている。
そこから先、どこへ向けて何を出すのか、誰が最後に目を通すのか、担当が替わったらどう引き継ぐのか。この三つが決まっていないまま走り出した結果が、半年で止まったアカウントとして残っている。順番としては、投稿の中身を考える前にここを埋めるほうが早い。
いま、どの年代の画面に出ているのか
「若い人向けのSNS」という前提で企画を立てると、たいてい外れる。総務省の令和7年版情報通信白書は、情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査をもとにSNSの利用率の推移(図表Ⅰ-1-1-3)を載せている。2024年のInstagramの利用率は全体で60.9%、2015年の14.3%から4倍を超えて伸びた。
年代別に並べると、画面の向こうにいる人の幅が見えてくる。
| 年代 | X(旧Twitter) | |
|---|---|---|
| 10代 | 75.0% | 62.1% |
| 20代 | 78.0% | 78.0% |
| 30代 | 70.5% | 61.6% |
| 40代 | 67.0% | 48.7% |
| 50代 | 52.7% | 43.6% |
| 60代 | 34.7% | 22.1% |
| 全体 | 60.9% | 50.3% |
地域のPRで動かしたい相手を思い浮かべると、この表は少し見え方が変わる。移住や二地域の滞在を現実の選択肢として考えるのは30代から40代が多く、その層の利用率は70.5%と67.0%ある。Xより20ポイント近く高い。学生向けのつもりで作った投稿が、実は親世代に届いている可能性のほうが高いということだ。
一方で60代は34.7%にとどまる。地元の高齢の住民に行事の変更を知らせたいなら、Instagramは適した経路ではない。広報紙や回覧板と役割を分けておけば、「なぜSNSに出したのに知らないのか」という話にならずに済む。SNS発信で地域に人は来るのか|届く年代と訪問のきっかけの数字では、届くことと来ることのあいだにある段差を扱っている。
シャッターを切る前に、三つの許可を片づける
運用でいちばん事故が起きやすいのは、投稿の文面ではなく写真と動画のほうだ。個人のアカウントなら黙認されていたものが、自治体や観光協会の名前で出た瞬間に公的な発信に変わる。撮影の前に確認する相手は、おおむね三つに分かれる。
ひとつめは、写っている人。顔が判別できる形で載せるなら、その場で使い道を伝えて同意をもらう。祭りの観客のように不特定多数が写り込む場面でも、特定の個人を主役のように切り取るなら別の話になる。子どもが写る場合は保護者に確認する。撮影した日付と、誰に何と言って承諾を得たかを一行でも残しておくと、後から問い合わせが来たときに答えられる。
ふたつめは、場所。神社仏閣、農地、商店の店内、学校の敷地。いずれも管理者がいて、撮影そのものは構わなくても「広報目的での公開は事前に相談」としていることがある。三脚を立てるかどうかでも扱いが変わる施設は多い。
みっつめは、空から撮るとき。ドローンは航空法の無人航空機にあたり、機体の登録と、飛ばす空域や方法に応じた許可・承認の手続きが決められている。国土交通省が無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルールのページに手続きの流れとガイドラインをまとめているので、撮影日を決める前に読む。棚田や海岸線の空撮は絵になるぶん、ここを飛ばすと後戻りできない。
そのアカウント、誰の持ち物になっているか
引き継ぎで止まるアカウントには共通点がある。二要素認証の確認コードが、前の担当者の携帯電話に届く設定のままになっていることだ。パスワードを教わっていてもログインできない。復旧の手続きは本人確認を求められるため、辞めた人や卒業した学生に連絡を取り直すことになる。
最初に決めておくのは、アカウントの名義と連絡先を組織のものにしておくこと。登録するメールアドレスは個人のものではなく、団体で共有している窓口にする。認証の受け取り先も、担当者が替わったら付け替える手順まで含めて書いておく。
権限の整理も同じ話だ。Instagramをプロアカウントにしてページと結びつけると、投稿できる人と設定を変えられる人を分けられる。学生に渡すのは投稿の権限までにして、連携や削除に関わる操作は職員の側に残す。これは学生を信用していないという意味ではなく、辞めるときに揉めないための線引きになる。
退任時の手順は三行で足りる。認証の受け取り先を次の担当に変える、権限の一覧から前任者を外す、下書きと素材の置き場所を共有の場所に移す。この三行を運用の覚書の末尾に書いておくだけで、次に引き継ぐ人の負担が変わる。
一か月の型を先に紙に書く
続かない原因は、やる気より段取りにある。週に何本という目標だけを決めると、ネタが尽きた週にまるごと空く。先に決めるべきは本数ではなく、確認がいつ入るかだ。
たとえば、撮影日を月に2日だけ設け、そこで素材をまとめて撮る。翌週に下書きを作り、職員の確認を水曜までに受け、木曜以降に順に出す。この型だと、投稿が4本でも6本でも回る。確認の締め切りが先に決まっているので、職員側も予定に組み込める。
ネタの台帳も一枚作っておく。行事の予定表、季節の作業、店や施設の紹介、人の話。この4列に思いついたものを足していくだけで、翌月の撮影日に何を撮るかが決まる。台帳があると、担当が替わっても企画がゼロには戻らない。
見る数字は絞る。フォロワー数は増減が遅く、月単位では動かない。保存された数と、投稿からプロフィールを見に来た数のほうが、内容の当たり外れを早く教えてくれる。写真の撮り方や投稿の形式そのものについては、学生団体のInstagram運用|投稿形式と音楽の権利を先に決めるに音楽の権利の扱いも含めてまとめてある。公的な団体のアカウントに学生が入るときの線引きは、自治体のSNS発信に学生が入るとき|運用方針と届く相手の実数のほうが詳しい。
地域と学生の関わり方を広く見たい人は、FLASPOの記事もあわせて読むと、発信以外の入り口も見えてくる。
よくある質問
フォロワーは何人を目標にすればよいですか。人口規模で現実的な上限が決まるため、他の自治体と並べても意味がありません。半年前の自分のアカウントと比べて、保存数とプロフィールへのアクセスが伸びているかを見るほうが実用的です。
ハッシュタグはいくつ付けるのが正解ですか。数の正解はありません。地名と施設名のように検索されうる語を確実に入れたうえで、毎回変える語は2つか3つにとどめると、どの語が効いたのかを後から判断できます。
学生が撮った写真の著作権は誰のものですか。撮った本人に発生します。団体のアカウントで使い続けるなら、どの範囲で使ってよいか、卒業後も残してよいかを文書で決めておきます。無償で手伝う場合ほど、この取り決めを先にしておくと後で困りません。
投稿が伸びない月はどうすればよいですか。頻度を上げる前に、どの投稿が保存されたかを3か月ぶん並べ直します。伸びない原因が時間帯や本数ではなく、題材そのものの偏りにあることは珍しくありません。
職員から「炎上しないか心配」と言われたらどう答えますか。心配の中身を分けて聞きます。表現への指摘を恐れているのか、個人情報の流出を恐れているのかで、用意する手当てが違います。前者なら公開前の確認者を増やし、後者なら写真に写り込む情報の確認項目を作るのが先です。
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