「インフラ業界」で絞り込むと、地元の受け皿が抜け落ちる
就職情報サイトの業界欄で該当する項目を選ぶと、電力・ガス・鉄道・通信の大手が並ぶ。本社は東京か大阪にあり、地方勤務はあっても配属先を決めるのは会社だ。地元に帰る前提で探している学生が、この並びだけを見て「地元にその種の仕事はない」と結論を出してしまうことがある。
実際に地方で水を配り、汚水を処理し、病院を回し、バスや路面電車を走らせているのは、多くの場合その土地の自治体が経営する組織である。地方公営企業と呼ばれ、民間企業の採用ページには出てこない。総務省が令和8年9月29日に公表した令和7年度地方公営企業等決算の概要によれば、令和7年度末時点の事業数は7,837事業だった。前年度末から79事業、1.0パーセント減っている。
7,837という数は、全国の市町村の数の4倍を超える。一つの町が水道と下水道と病院をそれぞれ別の事業として持つためで、そのまま「就職先の社数」になるわけではない。ただ、地元にどんな仕事があるかを調べるとき、民間の求人だけを見ていては届かない層がここに広がっているのは確かだ。地方へ戻る進路の全体像は地方就職とUターンとは何か?成功のポイントを丁寧に徹底解説するにまとまっている。
数で並べると下水道と水道、金額で並べると病院が先に来る
同じ資料は7,837事業の内訳を種類別に示している。数の上で最も多いのは下水道で3,578事業、全体の45.7パーセントを占める。次が簡易水道を含む水道で1,694事業、21.6パーセント。この二つだけで67.3パーセントに達する。病院は679事業で8.7パーセント、工業用水道は148事業で1.9パーセント、残る1,738事業がガスや観光施設などを含むその他にあたる。
事業の種類
事業数
割合
決算規模
割合
下水道
3,578
45.7%
5兆6,577億円
28.8%
水道(簡易水道を含む)
1,694
21.6%
4兆4,218億円
22.5%
病院
679
8.7%
6兆9,992億円
35.6%
工業用水道
148
1.9%
(その他に含む)
―
交通
(その他に含む)
―
9,258億円
4.7%
その他
1,738
22.2%
1兆6,358億円
8.3%
合計
7,837
100.0%
19兆6,404億円
100.0%
ところが決算規模で並べ替えると順番が入れ替わる。全体は19兆6,404億円で、前年度より4,363億円、2.3パーセント増えた。このうち病院が6兆9,992億円で35.6パーセントを占めて最大になり、下水道は5兆6,577億円の28.8パーセントで二番手に下がる。診療報酬が入って人件費と医療機器の支出が出ていく病院は、事業の数が少なくても動く金額が大きい。
この二つの並びの差は、そのまま職種の違いとして現れる。金額の大きい事業では、事務職でも医事や経営企画の比重が上がる。事業の数が多い分野は、小さな自治体に一人か二人という配置になりやすく、技術職の募集が隔年になることもある。募集が出る年と出ない年があるのは、組織の都合というより事業の規模から来ている。
働く人は33万8,306人で、前年から3,789人減っている
人数は決算資料ではなく別の調査で分かる。総務省が令和7年12月25日に公表した令和7年地方公共団体定員管理調査結果の概要は、令和7年4月1日時点の地方公共団体の職員数を280万9,298人としている。このうち公営企業等会計部門が33万8,306人で、前年の34万2,095人から3,789人、1.1パーセント減った。
部門別に見ると、一般行政が95万628人、教育が106万7,557人、警察が28万6,560人、消防が16万6,247人である。前年より増えたのは一般行政と消防の二部門で、教育・警察・公営企業等会計の三部門は減っている。一般行政が増えた理由として、資料は児童相談所の体制強化やデジタル化への対応、防災・減災対策などを挙げている。
公営企業等会計部門が減った理由については、病院事業の地方独立行政法人化などによると説明されている。ここは読み違えやすい。職員が消えたのではなく、自治体の職員という身分から法人の職員へ移っただけだからだ。独立行政法人になった病院は自前で人を募集するので、受験する窓口が市役所の採用試験から病院機構の採用ページへ動く。この数字の減少をそのまま「採用が細った」と読むと、探す場所を間違える。
5年で271事業減った並びを、応募する側からどう読むか
事業数の推移も載っている。令和3年度末が8,108、令和4年度末が8,055、令和5年度末が7,993、令和6年度末が7,916、そして令和7年度末が7,837。5年間で271事業、率にして3.3パーセント減った。資料はその要因を、水道事業と下水道事業における事業統合などと記している。
統合というのは、隣り合う市町村が別々に持っていた水道を一つにまとめる動きを指す。小さな事業が消滅するのではなく、より大きな単位に束ねられる。働く側から見れば、採用の単位が市町村から広域の組合や県域の企業団へ移るということだ。地元の市役所の採用ページだけを開いていると、肝心の募集が別の法人から出ていることに気づけない。
法の適用区分も募集の形を左右する。7,837事業のうち、地方公営企業法を適用している事業が6,277、適用していない事業が1,560ある。前者は企業会計で動くため、経営や会計の人材を独自に求めることがある。後者は一般会計に近い形で動き、採用は自治体の一般職の試験に乗る。同じ水道でも、受け方が変わる。自治体で働くという進路そのものは地方公務員とは?仕事内容と種類、試験のなり方をやさしく徹底解説が入口になる。
収支も確かめておきたい。黒字の事業は5,870事業で、全体の75.6パーセントを占める。裏を返せば四つに一つは赤字だ。受けようとしている自治体の決算を先に見ておくと、面接で経営の話が出たときに答えが変わる。
給与と勤務地のほかに、もう一つ軸を足しておく
地方での就職先を考えるとき、学生の手元にはたいてい三つの軸しかない。給与、勤務地、知っている会社かどうかの三つだ。ここに「その仕事が地域のどの機能を支えているか」という軸を一つ足すと、見える範囲が変わる。水道も下水道も病院も、人口が減っても止められない。需要が景気に左右されにくい分野である。
一方で、人口が減れば料金収入は減る。施設は老朽化し、更新の費用は上がる。決算資料が建設投資額の増加を更新費用の増加や建設資材価格の高騰で説明しているのは、その現れだ。安定しているから楽だという話ではなく、縮む需要と増える費用のあいだで設計をやり直す仕事だと考えたほうが実態に近い。
地元以外の地方へ出る選択肢もある。出身地でない地域に移って働く形は地方就職とIターンとは何か?その特徴を丁寧に徹底解説していくで整理されている。地域と学生の関わり方を先に試してから進路を決めたい場合は、FLASPOのような場で地域の課題に触れておくと判断材料が増える。
よくある質問
公営企業の採用情報はどこを見れば集まりますか。一つにまとまった場所はありません。市町村の職員採用ページ、企業団や広域連合の独自サイト、地方独立行政法人になった病院の採用ページの三つに分かれています。事業統合が進んでいる分野ほど、市役所ではない組織から募集が出ます。
技術職でないと入れませんか。そんなことはありません。企業会計で動く事業は経理や経営企画の人を必要としますし、病院事業では医事や総務の職種があります。ただ、採用の人数は技術職より少なく、募集の年も限られます。
公務員試験を受ける必要がありますか。地方公営企業法を適用していない事業は、自治体の一般職の試験を通る形が中心です。一方、企業団や地方独立行政法人は独自の選考を行うことが多く、試験の科目も日程も自治体とは別に設定されています。
事業数が減っているのは不安材料ですか。減少の中身は統合であって、仕事そのものが無くなったわけではありません。気にすべきなのは数の増減より、受ける組織の収支です。赤字の事業は全体の四分の一ほどあります。
決算の資料は学生が読んでも分かりますか。公表されている概要版は十数ページで、図と表が中心です。全体の規模、事業の種類別の内訳、収支の三つだけ押さえれば、面接で地域の実情に触れるには足ります。
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