地域のPR動画が燃えるとき|答弁書と県の五つの問いを読む

「燃えた」を一語でくくると手が打てない

市の観光PR動画が公開から数日で批判を集め、取り下げられる。こうした出来事は毎年どこかで起きていて、地域のPRに学生が企画から入ろうとすると、まず「炎上しないか」という心配が返ってくる。ただ、この言葉のままでは対策の立てようがない。

批判の中身は少なくとも四つに分かれる。表現そのものへの批判、事実関係の誤りの指摘、音楽や肖像など権利処理の抜け、そして内輪でしか通じない笑いへの白けた反応。四つは原因も打ち手も違い、同じ会議で一緒に扱うと議論が進まない。

このうち一つめの表現への批判は、公開前に読める公的な文書が二つある。国が作った手引についての国会答弁と、県が自前で作り直したガイドラインだ。どちらも誰でも読める形で出ていて、何が求められていて何は求められていないのかが、はっきり書き分けられている。失敗事例の報道を集めるより、この二つを先に読むほうが企画の役に立つ。

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国は「違法かどうかの尺度ではない」と答えている

内閣府男女共同参画局は平成15年3月に「男女共同参画の視点からの公的広報の手引」を作っている。自治体のガイドラインの多くは、この手引を下敷きにしている。では、手引に反する表現は許されないのか。この点を正面から問うた質問主意書と、それに対する政府の答弁書が残っている。

令和3年11月10日、参議院議員の浜田聡が第206回国会の質問第五号を提出した。手引は違法性や有害性の判断基準なのか、特定の表現を禁じているのか、地方公共団体に対する技術的な助言として配られたのか、という問いが並ぶ。

これに対し、令和3年11月19日付の答弁書(内閣参質二〇六第五号)が、内閣総理大臣岸田文雄の名前で出されている。答弁は、手引が国の行政機関の広報担当者にとって留意すべき点をまとめたものであり、特定の表現の違法性や有害性を判断する尺度を示すものとして作成したものではない、としている。特定の表現を一律に禁止する趣旨でもないとも述べている。地方公共団体には参考として送付したものの、地方自治法に基づく技術的な助言又は勧告として行ったものではない、とも答えている。

ここから読み取れることは二つある。手引に書いてあるから駄目だ、という言い方は成り立たない。そして、手引に書いていないから何を出してもよい、という言い方も同じく成り立たない。判断の責任は、作って出す側に残る。

県の文書は、五つの問いに置き換えている

では現場は何を見ればよいのか。島根県は令和6年3月に男女共同参画の視点からの表現ガイドラインを出している。平成15年度に作った「公的広報のための手引き」を改訂したもので、島根県男女共同参画推進条例(平成14年島根県条例第16号)の第10条と第15条に基づく参考資料だと位置づけられている。

このガイドラインの中心は、禁止の一覧ではなく五つの問いだ。企画書や絵コンテを前にして、順に当てていく形になっている。

観点 当てる問い
1 性別が偏った表現になっていませんか
2 性別によって役割やイメージを固定化した表現になっていませんか
3 主従、上下、優劣、強弱の関係があるような表現にしていませんか
4 性別によって異なる表現、いずれかに特有な表現をしていませんか
5 目を引くためだけの表現になっていませんか
島根県「男女共同参画の視点からの表現ガイドライン」(令和6年3月改訂版)の構成より作成

動画の企画で引っかかりやすいのは五つめだ。再生数を伸ばそうとすると、伝えたい内容とは関係のないところで人を目立たせる作りに寄っていく。企画会議では「話題になるかどうか」が評価軸になりやすく、その軸だけで進めると、何のための動画だったのかが抜け落ちる。

確認は、四つの段階に割ってある

同じガイドラインの末尾には、チェックリストが載っている。企画段階、原稿段階、業者に発注する段階、最後の確認という四つに割られていて、段階ごとに問いが違う。

企画段階では、伝えたい内容は何か、伝えたい相手は誰か、特に強調したい点は何か、という三つを書き出させる。そのうえで強調したい点について、人目を引くために女性を利用しようとしていないか、と問い直す。原稿段階のイラストや写真の確認項目には、加害者はいつも男性で被害者はいつも女性になっていないか、指導する側はいつも男性で指導を受ける側はいつも女性になっていないか、といった具体的な並びが入っている。

見落とされやすいのが、三つめの発注段階だ。ここは項目がたった一行しかない。ガイドラインの趣旨を説明し、理解してもらえましたか、という一行である。外注の制作会社に趣旨を伝えないまま発注すると、納品された映像を見てから直すことになり、そのころには予算も公開日も動かせない。一行の重さは、工程の後ろに行くほど効いてくる。

最後の確認では、担当者だけでなく男女双方の多数の目で見て賛同が得られたか、男女を入れ替えても違和感がないか、を確かめる。入れ替えてみるというやり方は、絵コンテの段階でも使える。手間がかからないわりに、企画の偏りがよく見える。

止めるかどうかの基準を、公開前に決めておく

批判が出てから対応を考えると、たいてい遅れる。公開前に、どういう場合に取り下げるかを決めて紙にしておくほうがよい。事実関係に誤りがあれば直して出し直す。音楽や肖像の権利処理に抜けがあればいったん止める。この二つは迷う余地が小さい。

難しいのは表現への批判だ。ここは内容を見て判断するしかないが、判断を先延ばしにしたまま黙って動画を消す対応だけは避けたい。説明のない削除は、もとの表現とは別の批判を呼び込む。取り下げるなら、いつ、何を理由に、誰の判断で止めたのかを同時に出す。残すと決めたなら、その理由を説明できる状態にしておく。

もうひとつ、学生が制作に関わっている場合の備えがいる。制作者の名前が出ていると、個人のアカウントが特定されて矢面に立つことがある。問い合わせの窓口は団体や事務局に一本化し、個人に直接連絡が行かない形にしておく。文章表現で燃えないための考え方はライティングと炎上対策|SNS・ブログで燃えないための文章の書き方に、発信が誰に届いているかという前提は地域のSNS発信は誰に届くか|利用率82.3%とステマ規制の線引きにまとめてある。

映像そのものの作り方を知りたい場合は動画編集と観光PR|魅力を伝える映像制作を解説が入口になる。地域と学生の関わり方を広く見るならFLASPOもあわせて読むとよい。

よくある質問

炎上を完全に避ける方法はありますか。ありません。ただ、避けられない部分と避けられる部分は分けられます。権利処理の抜けと事実の誤りは工程で潰せるので、まずそこを先に片づけます。

ガイドラインに従っていれば批判されませんか。答弁書が述べているとおり、手引もガイドラインも違法かどうかを判定する道具ではありません。従えば安全になるものではなく、企画の偏りに自分で気づくための問いの並びだと考えるほうが実態に近いです。

外部の制作会社に任せる場合、どこまで指定すべきですか。表現の細部まで指定する必要はありませんが、何のための動画で、誰に届けたいかと、確認の段階をどこに置くかは発注時に文書で渡します。島根県のチェックリストが発注段階を独立させているのは、ここが抜けやすいからです。

学生が企画に入るとき、何を記録に残しておくべきですか。企画の意図、撮影の同意を誰からどう得たか、確認を誰がいつ行ったかの三点です。批判が来たときに答えられるかどうかは、この記録があるかで決まります。

公開後に批判が来たら、まず何をしますか。批判の中身を冒頭の四つに仕分けます。事実の誤りなのか、権利の問題なのか、表現への評価なのか、内輪受けへの反応なのか。仕分けができると、謝るべき相手と直すべき箇所がはっきりします。


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